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英国、美容医療の独自ライセンス制度を法制化、非外科的治療の施術者を認定、2022年の法律成立で制度導入へ動く【解説】

カレンダー2024.6.26 フォルダー 海外
英国では美容医療の新しいライセンス制度が作られる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

英国では美容医療の新しいライセンス制度が作られる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 近年、英国ではボトックス注射、ダーマルフィラー、ケミカルピーリング、レーザー・超音波治療などの人気が高まっており、新しい処置が急速に普及している。このような手術を伴わない美容医療のほとんどは、一般医のほかに、歯科医、看護師を含めた幅広い施術者によって行われているという。

 たとえ手術を伴わなくとも、美容医療にはリスクが伴い、正しく行われないと深刻な合併症などを引き起こす可能性がある。とくに、施術者が十分な知識や訓練を受けていない場合や、承認されていない製品を使用する場合、不適切な施設で施術が行われる場合などに、そのリスクが高まるだろう。

 それにもかかわらず、英国のこれまでの規制では、手術を伴わない美容医療について、施術者の制限はほとんどなかったという。2022年に美容医療の施術者にライセンスを与える制度を認める法律が成立し、まさに現在、美容医療に関するライセンス制度の設置に向けて、現在審議が進んでいる。

 日本の美容医療においては、主に医師が施術を行い、診療補助として看護師が施術に関わっている。日本とは大きく異なる英国はどのような考え方でライセンス制度を作っていくのか。

 英国において誕生する見込みの美容医療に関するライセンスについて、導入の狙いや許可される施術内容について解説していく。

※英国では医師以外の施術者が美容医療を手掛けることで問題も発生している。

英国政府、 大量の不正フィラー製剤を押収 非医療者による施術に懸念、英国美容医療学会が規制強化を要求 世界で発生する不正美容医療の事件
https://biyouhifuko.com/news/world/7403/

「自業自得」のレッテル、英国美容医療の合併症に対する冷たい対応、美容医療の提供者に自らトラブル対応求める声、アラガンリポートより
https://biyouhifuko.com/news/world/7165/

英国のフィラー治療やボツリヌス療法の人気、歯科医や一般医、看護師も手掛ける意外な実態
https://biyouhifuko.com/news/world/3051/

ライセンス制度を導入する狙い

英国では医師以外も美容施術を手掛けている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

英国では医師以外も美容施術を手掛けている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 22年4月、英国において「医療・ケア法(Health and Care Act)」が成立し、保健社会福祉大臣に手術を伴わない美容医療のライセンス制度を導入する権限が与えられた。

 英国では、医師のほかに歯科医や看護師、そして美容セラピストなどが美容医療の施術を行っているという。ライセンス制度の基本原則は、体に負担をかける恐れのある美容医療を行うすべての施術者が適切な資格を持ち、一般の人々の安全を確保することである。

 ライセンス制度の導入により、一貫した基準が確立され、不適切な美容医療による潜在的な身体的、感情的、心理的な影響から消費者が守られることが期待されている。

ライセンス制度の対象外となる高度な美容処置

施術の内容によって規制がかかるものもある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

施術の内容によって規制がかかるものもある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 英国政府によると、手術を伴わない美容医療の中にも、複雑で体に負担をかける恐れの高いものが存在するという。そのような処置については、適切な資格を持ち、規制対象となる医療専門家のみが施術するべきと考えられている。現在検討されている、該当する高リスクの治療の種類の例は次のとおり。

  • 生殖器の増強を目的とした処置で、通常は自分の脂肪または皮膚充填剤(フィラー)を使用するもの
  • 直腸、生殖器、乳房などの身体の性的な領域に行われる皮膚充填剤などの注射処置
  • 脂肪吸引を目的とした超音波と大口径カニューレの組み合わせ

 このような高リスクの処置は、今回のライセンス制度の対象には含まれないと考えられている。この他にも、特定の高リスク処置については、英国における医療および成人向けソーシャルケア活動の独立規制機関であるCQCの規制対象活動とすることを検討しているという。現在検討されている特定の高リスク処置は、以下のとおり。

  • 体内に器具や器具を挿入する美容整形手術(乳房手術、フェイスリフト、臀部または太もものリフト、まぶたまたは眉の手術、鼻の手術、タミータック、またはインプラントが使用されるあらゆる手術が含まれる)
  • 脂肪吸引 (レーザー脂肪溶解が含まれる)
  • 眼の屈折矯正手術またはレンズインプラント手術
  • あらゆる種類のスレッドリフティング。ポリジオキサノン ( PDO ) やポリL乳酸 (PLLA) スレッドリフティングなど

リスクの程度に応じたライセンスのカテゴリー分類

美容施術に対してカテゴリー分けがなされる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

美容施術に対してカテゴリー分けがなされる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 美容医療業界の変化は速いため、新しい治療法が登場した時にライセンス制度が確実に適応するためには、制度に一定の柔軟性が必要である。そのため、規制対象となる全ての治療をリストアップするのではなく、治療に含まれる手順をカテゴリーに分類する方法で制度を構築することが検討されているという。

カテゴリー「グリーン」

合併症のリスクが最も低い手順。基準を満たす場合には、全ての施術者に手順を実行する資格があるとされる。

    <カテゴリー「グリーン」に含まれる手順の例>

  • マイクロニードリング
  • メソセラピー
  • 強力パルス光(IPL)療法と発光ダイオード(LED)療法
  • 皮膚表皮のケミカルピーリング
  • 針を使わず、空気圧で皮膚に物質を注入するフィラー
  • マイクロブレードおよびナノブレードを含むマイクロピグメンテーション(アートメイク)
  • 非切除型レーザー脱毛
  • フォトリジュビネーション(シワ、ニキビ跡、日焼けによるダメージなどの皮膚状態を治療するためのレーザーの使用)

カテゴリー「アンバー」

合併症のリスクが中程度の処置。非医療専門家は認可を受け、指定の規制対象医療専門家(美容処置の処方、管理、監督の認定資格を取得)による適切な監督を受ける必要があるという。

<カテゴリー「アンバー」に含まれる手順の例>

  • ボツリヌス毒素注射(ボトックス注射)
  • 顔にのみ注入する半永久的な皮膚充填剤
  • バイオリバイタリゼーション注射および/またはヒアルロン酸注射
  • ビタミンとミネラルの注射手順
  • 美容目的の多血小板血漿 ( PRP ) 療法およびバイオフィラー
  • 注射による微小硬化療法(クモ状静脈の治療)
  • 減量注射
  • カルボキシ療法および/または皮下ガス注入
  • セルライトサブシジョン
  • POMによる脂肪溶解注射
  • クリオリポリシス
  • 高密度焦点式超音波(HIFU)(下腹部への使用を含む)
  • 高周波治療
  • 血漿アブレーションまたは血漿線維芽細胞
  • 非切除レーザー(フォト若返りおよびレーザー脱毛を除く)
  • 中程度の深さのピーリングで、表皮全体を真皮上部(皮膚の2つの主要層のうちの内側の層)まで完全に剥離するもの
  • 色素沈着の問題の治療や美白のための処方強度ビタミンAやハイドロキノンなど、美容目的で局所的に適用されるPOM治療法
  • 電気焼灼術
  • 2つ以上の技術を組み合わせるもの。たとえば、シワ、たるみ、ニキビ跡、ストレッチマークを治療するための高周波とマイクロニードリングの組み合わせなど。
  • スキンタグ、シミ、いぼなどの皮膚病変を除去するために皮膚を凍らせる凍結療法および冷凍焼灼処置

カテゴリー「レッド」

合併症のリスクが最も高い処置。美容処置に関するCQC規制の提案に沿って、特定の高リスク処置をCQC規制の対象とし、ライセンス制度の対象外とするという。また、これらの処置の資格を有し、規制を受けている医療専門家のみに制限することも提案されているそうだ。

<カテゴリー「レッド」に含まれる手順の例>

  • PDOスレッドおよびコグリフトを含むすべてのスレッドリフト手順
  • 育毛手術
  • 自己脂肪または皮膚充填剤を使用して、特に乳房、臀部、性器などの身体のあらゆる部分を増強することを目的とした処置
  • 真皮マイクロコアリング
  • 皮膚の赤みや斑点を軽減するための花粉症注射
  • 脂肪吸引を目的とした超音波と大口径カニューレの組み合わせ
  • フェノールピーリングなどのより深いケミカルピーリング
  • 真皮のより深い層をターゲットとするレーザー。大規模な完全アブレーション再表面処理に使用されるCO2レーザー。
  • 規定の状況がCQC規制の疾患、障害または傷害の治療活動(TDDI)として分類される手順の基準を満たす、カテゴリー緑または琥珀色の手順の規定
  • すべての静脈注射剤および点滴剤

消費者の年齢制限

 2021年、英国では法律により、18歳未満の者に対して美容目的でのボツリヌス毒素や充填剤の注射が禁止された。これらの美容処置には、感染症や失明、さらには死亡など、身体的健康へのリスクがあるだけでなく、外見の変化が心理的な影響を及ぼす可能性もある。若者は身体的、精神的に成長中であるため、その脆弱性が考慮されてこの法律が導入されたと考えられる。

 したがって、一般医療評議会(GMC)に登録された医師により承認される場合を除き、英国政府は18歳未満の者に対して、今回のライセンス制度に含まれる処置を禁止することを提案しているという。

ライセンスの導入に向けて

英国では検討の上で美容施術のライセンスが本格導入される予定。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

英国では検討の上で美容施術のライセンスが本格導入される予定。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 英国では、上記の内容について検討を重ねた上で、ライセンスの本格的な導入を決定する予定だという。

 高リスクの施術に対する規制、リスクの程度に応じたライセンスのカテゴリー分類、消費者の年齢制限といった条件を揃えることにより、施術者の層を広げることが可能と考えられているのだろう。

 ライセンスの取得には、トレーニングプログラムの完了や登録作業などが必要と見られている。これにより、英国の消費者は水準の高いケアを受けられることが期待される。

※英国のライセンス制度については今後もフォローしていく。

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Author

永田未来

永田未来

フリーライター。主婦と生活社を経て独立。美容やヘルスケア関連を含めた多彩な分野で執筆やインタビュー取材に対応。日本で数少ないヘアライターとしての執筆にも力を入れている。音楽誌および女性誌編集者の経験をベースにした分かりやすい情報発信を強みとする。

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