膣のゆるみの問題は、とてもデリケートな悩みです。ずっと気になっていても、だれにも相談出来ずに一人で悩んでいる女性はたくさんいます。人に相談出来ないことほど、その悩みは深刻です。膣のゆるみは、他人とは比較することは不可能ですし、あきらめて放置してしまうことも少なくありません。
しかし、日常生活においても膣がゆるいことで、尿もれやお湯もれ、パートナーとの関係などの不安もつきまといます。加齢や出産などで膣がゆるくなるのはどうしても起こることです。
でも、ゆるんだ膣も自分で膣トレーニングをして鍛え直すことも、病院で相談することも出来ます。さらに、外来でレーザー治療や放射線治療で、痛みもなく日帰りで改善することも可能です。自分にあった治療法を見つけて、今後の生活をもっと笑顔であふれた素敵なものにしましょう。
膣がゆるくなる原因
女性にとって、とても深刻な膣のゆるみ。ゆるみが起こる原因はいくつか考えられます。加齢や妊娠、出産、筋力低下、コラーゲンの減少、肥満などの要因がありますが、膣のゆるみの原因は、「骨盤底筋」という骨盤の下にあって子宮や膀胱、肛門などを支える筋肉が衰えて伸びきってしまうことによって引き起こされます。
骨盤底筋とは骨盤の底に3層になってついている9個の筋肉が集まったもので、内臓を下から支えています。骨盤底筋は、臓器を支えることと、便や尿、経血を排泄する役割を担っています。排泄物を出すためにゆるませることと、臓器を支えるために締めることをコントロールしています。しかしこの筋肉が弱くなることで、膣のゆるみが起こります。
加齢
女性の体は、年齢とともに「エストロゲン」という女性ホルモンが少なくなります。このホルモンは、女性の体にさまざまな働きをしていますが、膣の粘膜を潤わせる、膣を上部に保つ働きもしています。しかし加齢によりエストロゲンが減少することで、膣は乾燥し、粘膜が薄くなってきます。また、筋力の低下に伴い、骨盤底筋の伸縮力も弱くなってきます。そうすると、膣も十分に締まらなくなります。これが加齢による膣のゆるみです。
出産経験
出産により、膣は極限まで伸びます。その時に骨盤底筋は痛めつけられるので、筋肉が断裂してしまった場合は膣を締める力は弱くなってしまいます。また妊娠、出産により、子宮が重くなり負担がかかることや、出産の強いダメージで骨盤底筋は衰えてしまいます。骨盤底筋は、ハンモックのような形をしており出産で100%傷つきます。出産で広がった膣は完全に戻るには時間がかかり、膣壁も膣の周りの筋肉も伸びてしまいます。また出産によって骨盤底筋だけでなく、筋肉を支える靭帯も傷つくため、膣がゆるくなってしまうのです。
運動不足
膣の筋肉も、ほかの筋肉と同じように低下します。運動不足や肥満などで骨盤底筋が伸びてしまうと、膣のゆるみに繋がります。日ごろから運動を心がけること、食生活や体調管理を見直し、肥満や便秘を解消することも大切です。
膣がゆるいと起こること
膣がゆるいということは、骨盤底筋が衰えている状態です。骨盤底筋が衰えると、頻尿や尿もれなどのさまざまなトラブルが起こります。
お風呂から出るとお湯が大量に出てくる
お風呂に入ると、膣の中にお湯が入るのは自然なことです。これは生理的にも何の問題もありません。しかし、膣がゆるむと、風呂上がりに洋服を着た後に膣から大量にお湯が出てくる「お湯もれ」という現象がおこります。産後に経験する人が多く、予期していない時に起こるため、洋服が濡れてしまい後処理に困ることがあります。
尿もれ
骨盤底筋が良い状態であれば、ちょっとした運動や刺激などでお腹に力がかかっても、骨盤底筋が反射的に反応して尿道を締めてくれるので尿もれは起こりません。しかし、骨盤底筋がゆるむと尿道をキュッ締めることが出来ません。さらに、骨盤内の臓器を保てなくなり、膀胱が下がって後ろに傾いてしまいます。すると咳やくしゃみをした時や、笑った時、ランニングや縄跳びなどでお腹に圧力がかかる時に尿がもれることがあります。
性交渉時パートナーおよび自身が満足しづらくなる
加齢により女性ホルモンの分泌が少なくなると、膣壁の血管が細くなってきます。血管が細くなることで膣壁の細胞の数も減ってきて、結果として膣壁が薄くなります。膣壁が薄くなると性交渉時の密着度が低下し、それによって夫婦生活にも溝ができてしまいがちです。セックスレスになることも少なくありません。
さらにパートナーが満足していないのではないかと不安になるだけでなく、自分も快感を得にくくなります。一般的に、骨盤底筋の筋肉量と性交渉時のオーガズムは比例すると言われています。
骨盤臓器脱
骨盤臓器脱とは、ゆるんだ膣から腸や子宮、膀胱などの臓器が垂れて出てしまうことです。骨盤底筋の低下により子宮や膀胱、直腸などの支えがゆるみ、骨盤の中から膣にさがってきます。重いものを持つ仕事が多い方や慢性的な咳や便秘を繰り返す方、肥満の方などお腹に圧力がかかりやすい方に多い病気といわれています。膣から何かが出てきたような違和感や、入浴時に膣から垂れ下がったものに触れるのが初期症状です。さらに症状が進行すると、膣壁が反転して子宮、膀胱、直腸が完全に体外に出てきます。股の間に何かが挟まったような感じが続きます。
また、排尿や排便も困難となり、ひどい場合は出血などが起こることもあります。ちなみに、一度下がってしまった臓器は自然に元に戻ることはありません。
ストレッチで膣を鍛えればゆるみは改善できる?
骨盤底筋は、動かさないとどんどん退化してしまいます。また、加齢とともに筋力も低下してくるので、意識して動かすことが大切です。そこで、ストレッチで膣の筋肉を鍛え、筋肉量を増やすことができれば、膣の収縮力も高まります。筋肉量が増えると、下半身の血流も良くなるので、体液の分泌も活発になることが期待できます。
膣をゆるみから戻すための治療法とは
ストレッチや体操で膣の周りの筋肉を鍛えることは効果的です。また、市販でも女性ホルモンの含まれた軟膏もあります。女性ホルモンを塗ることで、ゆるくなった部位が潤う効果も期待できます。
しかし、一度ゆるんでしまった膣はトレーニングやエクササイズでは効果が実感できるまでは時間がかかり、確実に改善するとは限りません。確実に、短時間で効果を得るためには、レーザーや超音波を用いた治療や、ゆるんだ膣を症状に応じて小さく引き締める手術があります。治療時間も短く、日帰りで済むものもあるため、悩みをすぐに解決したい場合は、専門の医療機関に相談するのが良いでしょう。
レーザー治療
レーザー治療では、膣内にレーザーを照射して膣壁と尿道のコラーゲン組織を加熱することで、膣内環境の改善や細胞内のコラーゲン繊維の再生、増殖を促して周りの筋肉を育てることが出来ます。これにより膣壁の厚みが増し、膣が引き締まります。手術のように大がかりではなく、切開、縫合、麻酔などの処置も必要ないので、ダウンタイムは3日程度です。入院ではなく外来で治療することが出来るのでストレスは少ないです。
レーザー治療は、以前はCO2レーザーを用いて粘膜の表面に傷をつけていましたが、近年ではインティマレーザーを使い、粘膜を傷つけることなくエネルギーを届けることが可能となりました。膣の粘膜には優しく触れるので、出血や腫れの心配もありません。インティマレーザーにより膣粘膜を剥がさずに熱を加えることが出来るので、すぐに膣粘膜を収縮させることが出来、長期的にコラーゲンを増殖させることができます。
この治療にかかる時間は15~20分程度です。効果はおよそ一年間続きますが、加齢は年々進行するので、メンテナンスで追加の照射が必要になる場合もあります。費用はクリニックにもよりますが、一回¥100,000程度が相場と言えるでしょう。
HIFUによる治療
HIFUとは、高密度焦点式超音波治療法のことで、顔のリフトアップのみならず肝臓がんや子宮がんなどの治療にも用いられています。超音波を一点に集中してエネルギーを集めて照射することで、狙った部分だけが高温になり、コラーゲンが活性化。膣の引き締めと弾力アップが期待できます。ウルトラハイフやウルトラヴェラがこのHIFU治療機に当たります。
筋層への深達度はレーザーよりも深く、表面を傷つけることもないので、出血などのダウンタイムもありません。目的の皮膚層や筋肉にピンポイントに超音波が達し、60~70℃の高温で古い組織にダメージを与えます。その後、人間の再生能力によって新しい細胞が増殖し、コラーゲンが再生されて、膣のゆるみが改善されます。コラーゲンの生成は照射直後から始まり、その効果はだいたい一年間続きます。3日~4週間程度でコラーゲンが増殖し、膣がふっくらとした状態になるので、約一カ月で尿もれや入浴後のお湯もれなどに効果が実感できることが多いです。
痛みには個人差がありますが、膣の奥よりも手前のほうに神経がたくさん走っているので痛みを感じやすいです。痛みに弱い方は、照射前の麻酔について医師に相談することもできます。また、子宮や卵巣には影響がないので今後妊娠や出産をお考えの方も安心して受けることが出来ます。
この治療法にかかる時間は20分ほどです。また、麻酔も剃毛も不要です。手術にかかる費用は一回¥300,000程度が相場となっています。
膣縮小手術
膣縮小手術とは、膣の入り口のゆるんで伸びてしまった筋肉を糸で引き寄せあい、再び膣をきつく締められるようにする治療法です。膣の入り口だけでなく、膣の奥まで縮小することが出来るので、妊娠前もしくはそれよりも良い状態にすることも可能です。確実に、半永久的に膣のゆるみを改善したい場合にはお勧めの治療法です。
また、膣の筋肉だけでなく膣のひだも形成することができます。膣内のひだが増えると膣に弾力が出て、性交渉時に男性により刺激を与えられます。この手術をした場合は、今後出産はできません。どうしても出産する時は、帝王切開になります。経膣分娩の可能性がある方は、違う治療法を選択してください。
手術による膣縮小術にかかる費用は¥300,000~¥500,000程度です。
高周波(RF)治療
高周波のエネルギーを用いてゆるんだ膣を引き締める治療法もあります。顔のタイトニングマシンとして有名な「サーマクール」と同様のテクノロジーで、高周波を膣内に照射することで、熱を発生させて膣粘膜を傷つけずにコラーゲンにダメージを与え増殖を促します。コラーゲンの再構築や新しいコラーゲンの成長も促進されるので、膣自体が引き締まります。膣入り口の内側の組織も効果的に引き締めてくれるので、以前ほど性的な満足が得られない方には特に効果があります。
外科的手術ではないので痛みもなく、約30分で終了します。ビビーブやサーミバーが高周波エネルギーを使用した治療機となります。
費用は¥150,000~¥200,000程度です。
膣のゆるみを治療するときの注意点
どの治療法も、今まで大きな事故や副作用は報告されておらず安全ですが、治療を始める前に知っておきたい注意点がいくつかあります。
治療するときに違和感を感じることがある
レーザー治療を受ける場合
多少の熱や痛みを感じることがあります。また、膣を引き締める効果により膀胱の位置がずれることがあり、治療後に一時的に尿もれが起こることがあります。新陳代謝が改善されることで、おりものが増えることもあります。このような場合は、ナプキンや尿パットで対応します。
HIFU治療
手術直後に、熱や腫れ、痛み、下腹部の違和感を感じることがあります。これらの症状は、時間とともに改善していきます。
膣縮小手術
この手術では、余分な粘膜を切除し縫合するために、手術前に局所麻酔を使います。麻酔を打つ時に少し痛みを感じます。また、手術が終わって3~4時間で麻酔が切れてくるので、徐々に痛みが出ることがあります。
RF治療
膣の薄い壁に照射した場合、多少熱さを感じることがあります。
治療したあとに入浴できるかどうかを調べておく
感染症の予防のためにも、清潔に保つことは重要ですが、治療後の入浴やシャワーの方法はそれぞれ違っているので注意が必要です。
レーザー治療
シャワーは当日から可能です。入浴は翌日から出来ます。
HIFU治療
治療後は当日からシャワーも入浴も可能です。
膣縮手小術
シャワーは3日後から可能です。入浴はおりものが少なくなってからです。だいたい、術後3週間くらいから可能です。
RF治療
当日のみ、入浴を控えれば大丈夫です。
治療できない疾患になっていないか確認する
治療をする場合、以下の方は受けられません。
レーザー治療を受ける場合
- カンジダ症、クラミジア、淋病、性器ヘルペスなどの生殖器感染症がある場合
- 卵巣がん、卵管がん、膣がん、外陰部がん、前がんやその疑いがある場合
- 妊娠、またはその疑いがある場合
- 膣炎、外陰炎がある場合
HIFU治療を受ける場合
- 産後一カ月経っていない場合
- 生理中の場合
- 施術する場所に何かを埋めている場合
- 長期にわたってステロイド治療をしている場合
- 子宮の病気を持っている場合
- 膣炎、外陰炎がある場合
- 骨盤内に感染症、出血がある場合
- 妊娠、またはその疑いがある場合
- てんかん
- 性交渉の経験がない場合
- コントロール不良な糖尿病の場合
膣縮小手術
今後出産予定がある場合
RF治療を受ける場合
- 生理中の場合
- ビビーブは、閉経後の女性は女性ホルモンが減少してくるのでコラーゲンの維持が難しくなり適しません。また、出産を半年以内に控えた方や、授乳中の方も避けたほうが良いです。
内出血や腫れを引き起こすことがある
膣縮小手術
一週間くらいは傷口から出血があります。また、筋肉まで縫合しているので、手術当日から一週間くらいは痛みも残ります。
レーザー治療
腫れは100%起こります。しかし、腫れは48時間でほぼ消失します。
HIFU治療
出血や腫れの心配はありません。麻酔を必要としないほど痛みも少ない治療なので、日常生活に支障をきたす心配はありません。
RF治療
腫れや痛みはありません。
まとめ
性に関する悩みはまだ「恥ずかしいこと」として隠しておく風習も残っています。性に関心を持つことや、良好なセックスライフを楽しむことは決して恥ずかしいことではありません。女性として、普段からデリケートな悩みからも目を反らさず自身の性を大切にするべきです。膣をきちんとセルフケアし、自分にあった対処法を知ることで、不安や悩みを解消して、体と心の健康をしっかりコントロールしましょう。
2020.06.29
記事監修
- 土屋佳奈 先生
- 医療法人社団尾泉会
つちやファミリークリニック皮膚科医師 - 0338731375
東京医科大学医学部医学科卒業。東京女子医科大学病院で研修後、皮膚科学教室に入局。東京女子医大病院、JR東京総合病院勤務を経て、都内の美容クリニック、皮膚科クリニックに勤務。現在はつちやファミリークリニックにて、副院長として皮膚科診療に従事。
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
日本美容皮膚科学会会員
日本臨床皮膚科医会
日本抗加齢医学会会員