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再生医療連載Vol.2 再生医療委員会に5つの問題発覚、公正さ欠く実態など明らかに

カレンダー2023.4.21 フォルダー連載・コラム

ポイント

  • 再生医療の「特定認定再生医療等委員会」の実態調査が行われた
  • 承認された治療計画に科学的根拠や医師の専門性の乏しいものがあると判明した
  • 一部の委員会では公正な審査ができない状況にあるなどの問題点も分かった
委員会。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

委員会。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 厚生労働大臣が認定し、再生医療の治療計画を審査している「特定認定再生医療等委員会」を対象とした調査から、これらの委員会で公正な審査が行えない状況が認められると明らかになった。調査によると、再生医療の治療計画が承認を受けているにもかかわらず、科学的根拠に乏しい計画になっていたり、関わる医師の専門性が乏しかったりする実態があった。この制度の下で美容医療を含む多くの再生医療が行われていることから、今後、委員会の制度の改善が求められる可能性もある。

審査を担う委員会の審査の質検証が続く

細胞培養。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

細胞培養。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 連載の第1回で伝えているように、日本では欧米とは異なる再生医療の実施ルールを作っている。再生医療が製品として製造、販売される場合は欧米と同様に承認を受ける必要があるが、これとは別に承認前であっても一定の審査を経ることで自由診療や研究目的で実施可能としているのである。

 再生医療を審査・承認しているのが「特定認定再生医療等委員会」および「認定再生医療等委員会」である。これらの委員会は、再生医療や法律の分野の専門家で構成され、厚労大臣に認定された委員会。再生医療を用いた自由診療や研究目的は、委員会が審査、承認をし、提供計画を厚労大臣にた後に進めることになる。

 なお、再生医療は、そのリスクの度合いによって3つの種類に分類されている。リスクが高いものは、第1種再生医療等、または第2種再生医療等に分類され、高い審査能力と公正性が求められる特定認定再生医療等委員会で審査を受ける。リスクの低い第3種再生医療等は、認定再生医療等委員会で審査される。この委員会は、再生医療を行う医療機関とは独立していることが重要である。2022年12月末時点で、全国に162の認定委員会があり、5013件の治療計画、104件の臨床研究計画が審査を受け実施可能な状態になっている。

 前回の記事で説明したように、第1種はこれまで人間を対象に行われたことのない治療が含まれ、第2種には、脂肪などから採取した幹細胞を使う治療が含まれる。一方、第3種は幹細胞以外の細胞を使うものである。これら再生医療は美容医療とも関連し、第2種と第3種が重要である。

 再生医療の有効性と安全性を確保するためには、委員会の審査の質が重要である。国立がん研究センターを中心とする研究グループでは、同委員会の審査の質について検証を進めてきた。

 今回の調査では、主に自由診療として行われている第2種について調査した。研究グループは、「治療計画に安全性を担保する十分な科学的根拠があるか」「医師が必要な専門知識を有しているか」などを調べた。これまでの5つの研究結果は、2019年、2020年に報告書にまとめられ、さらに2023年に再生医療の主要学術誌ステム・セル・リポーツに掲載された。

医師の専門性に疑問を投げかける

医師。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

医師。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 こうした調査から分かったのが、大きく5つの問題だ。委員会の審査に基づいて承認された治療計画の中には、信頼できる科学的根拠や医師の十分な専門知識がないものがあり、さらに、再生医療の安全性に関しても、公正な審査が行われていない委員会があったほか、広告の問題点も指摘された。

 一つは、科学的根拠が乏しい問題だ。研究グループは、2495の文献を調べ、第2種の治療計画351件の安全性を裏付ける十分な科学的根拠があるかどうかを確認した。その結果、25.1%の計画で、安全性を確保するための十分なエビデンスがないことが判明した。具体的には、5.7%が文献を引用しておらず、4.3%が内容の判別不能の文献を引用し、2.3%が質の低い雑誌の論文を引用し、12.8%が安全性を証明できる臨床研究を提供していなかった。

 もう一つは、医師の専門性が乏しい問題。研究グループは、391の治療計画を調査し、対象となる病気の治療に必要な専門知識を医師が持っているかどうかを調査した。その結果、30.0%の治療計画で、対象となる病気と担当する医師の専門性にミスマッチがあることが判明した。

 このほかに治療計画の “使い回し” が横行している問題である。研究グループが、371件の第2種の治療計画について説明文書を調査した。その結果、241件(全体の65%)において、同名で同一の説明文書がほかにも存在していることが判明した。また、同一人物が複数の治療計画の書類を作成しているケースもあった。「国内の多くの再生医療等提供機関の間で、説明文書ひいては治療計画の複製利用が行われていることが推測」されたと研究グループは説明している。さらに、「複製利用される治療計画は、特定少数の委員会で審査を受けていること、つまり、審査を受ける委員会の選択をめぐって偏りが生じている」と問題視している。

形だけの審査や誇大広告の横行も問題に

 また、身内だけが固まり形だけの審査が行われかねない“お手盛り審査委員会”の問題だ。治療計画を審査する委員会が公正であるかの調査において、再生医療を提供する機関と審査する委員会を企業が結びつけ、偏った審査になる可能性がある事例が4件見つかったと説明している。この会社は、再生医療提供機関の計画作成・実施を支援するとともに、認定再生医療等委員会の運営にも関与していた。「三者関係下では、再生医療法施行規則が求める独立・公正な審査を期待できない恐れ」が生じている。

 また誇大広告問題も分かった。医療機関のホームページで誇大広告がないかを確認し、再生医療治療を行う医療機関のホームページ254件を対象に誇大、虚偽に該当する記述があるかを調べた。その結果、半数に当たる132件のホームページで、「再生医療法の手続きに従って行われる」「厚生労働省の認可を受けている」「国が認めた委員会の厳しい審査を通過して行われる」などの記載があった。なお、行政によってお墨付きを得ているような記述は厚労省の医療広告ガイドラインで禁止事例として挙げられている。

 日本では、再生医療において海外とは異なる独自の規制を設けている。しかし、治療の安全性や有効性を確保するためには、現在の制度では不十分である可能性が指摘されている。そのため、安全ではない治療が提供され、被害を及ぼすことになりかねない。このような問題に対処できなければ、規制強化が進み、再生医療の発展が止まる可能性も否定できない。引き続き再生医療に関連して記事をお届けする。

参考文献

再生医療連載vol.1 日本独自の再生医療のルールを解説、知っておきたいこと
https://biyouhifuko.com/news/column/958/

自由診療で行われる再生医療の審査に関する課題を調査 今後の制度改正に期待
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0228/index.html

Ikka T, Fujita M, Hatta T, Isobe T, Konomi K, Onishi T, Sanada S, Sato Y, Tashiro S, Tobita M. Difficulties in ensuring review quality performed by committees under the Act on the Safety of Regenerative Medicine in Japan. Stem Cell Reports. 2023 Feb 10:S2213-6711(23)00016-4. doi: 10.1016/j.stemcr.2023.01.013. Epub ahead of print. PMID: 36827977.
https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2023.01.013

医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第2版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001050010.pdf

【訂正】 ・論文のリンクに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(2023/4/28)

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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