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再建外科の視点で変わる美容医療、美容クリニックで口唇口蓋裂も、若手ドクターの「直美」は技術的な課題も、自由が丘クリニック理事長 古山登隆氏に聞く Vol.4

古山登隆(ふるやま・のぶたか)氏。自由が丘クリニック(東京都目黒区)理事長(写真/秋元忍)

古山登隆(ふるやま・のぶたか)氏。自由が丘クリニック(東京都目黒区)理事長(写真/秋元忍)

古山登隆(ふるやま・のぶたか)氏
自由が丘クリニック(東京都目黒区)理事長

──形成外科で長らく修練を積んできた。

古山氏: 私はもともと北里大学形成外科で長く研修し、ヤケドや口唇口蓋裂などの修復・再建手術を行ってきました。形成外科の手術というのは「マイナスをゼロに戻す」のが本質とよく言われます。一方、美容医療は「ゼロからプラスにする」というイメージがあるかもしれませんが、実際には解剖学や縫合技術、構造の理解などの観点で再建外科の視点が非常に役立ちます。

 例えば、重症例の再建外科を経験すると、1ミリのずれが患者さんの人生に大きな影響を及ぼすことが身に染みてわかりますよね。美容医療でも健康な人に施術する以上、1ミリの失敗も許されない世界なんです。そう考えると、遠回りのようでいて、再建外科で鍛えられる倫理観や診断力は美容医療ではむしろ最短ルートだと思います。

──若いドクターが2年の初期研修を終えただけで美容医療に進む、いわゆる「直美」のケースが増えている。

古山氏: もちろんセンスのある先生もいるでしょうが、形成外科の土台を学ばずにメスを入れるのはリスクが大きいと思います。美容医療は健康な方を相手にするぶん「失敗が許されない」んですね。ですから、大学でも美容医療に取り組んでいましたが、そこでは十分な経験を積んだ医師だけがメスを握ることを許されていました。

 再建外科での重症例経験や厳しい教授回診に耐え抜いた倫理観、診断力があればこそ、繊細な手術や注入などを安全に行えるわけです。

──形成外科で培った技術は、具体的にフィラー注入などの非外科的施術にも応用される。

古山氏: フィラー注入というのは一見「ゼロからプラス」的な施術に見えますが、実際は同じことなんです。少しでも量や角度を誤ると見た目だけでなく機能面でも影響が出る可能性がありますから。再建外科の経験があると、筋肉や皮膚、脂肪などがどういうふうに動くかが身体に染みついている。だからこそ微妙な加減が必要なフィラー注入でも、理想的なデザインを安全に実現しやすいわけですね。

──口唇口蓋裂の修復などにもフィラー注入が活用される。

古山氏: 口唇口蓋裂の修復はミリ単位で顔の印象が変わってしまうので、形態の整え方や縫合の角度など、非常に神経を使います。ですから注入をする際にも「ここに何ミリ入れるとどうなるか」をイメージできるし、筋肉や皮膚の張力の方向なども感覚的につかめる。

 自由が丘クリニックでも、保険診療として口唇口蓋裂の治療に取り組んでいます。再建外科と美容外科の融合により、より高いレベルの治療が可能になると考えています。

 若い先生には、安易に「儲かるから美容へ」と考えるのではなく、こうした再建外科的な経験を積むことが結果的に大きな財産になると知ってほしいのです。

──再建外科と美容外科の融合とは。

古山氏: 再建外科と美容外科の技術を組み合わせて、来院された方に最適な選択肢を提供したいと考えています。大規模なチェーンの美容クリニックであれば、施術方法が限られ「この方法しかできません」となりやすい。でもその人によって状態や希望は多様ですから、手術、スキンケア、レーザーなど複数のオプションを用意しておくほうが、最終的には満足度が高くなると思います。

 規模を追わないことで、密度の濃い実践的教育もできます。

 4月に台湾のピーター・ペン先生と合同で若手専門医向けのトレーニングを企画して、日本からも30人ほど参加予定です。ライブ施術を見ながらの新しい教育プログラムを行います。中国の先生も関心を持っており、今後は日台中の国際的なトレーニングセミナーに発展させたいです。

──現在、美容医療に関するガイドライン整備の動きが進んでいる。

古山氏: 2019年、22年(改訂版)と、学会によって日本美容医療指針が作られていますが、そうした動きをさらに前進させていく必要があると感じています。例えば、アクアフィリングの問題など、もう淘汰された施術はありますが、問題が起きてからでは遅い。最初から明確な基準を作り、安全な美容医療を提供できる仕組みを整えることが重要ですね。

 最低限のルールを設け、その中で技術を高めていく。無秩序に施術が横行すると、業界全体の信頼を失う恐れがあります。健全な発展のためには指針が必要です。

 学会のガイドラインとは別に、2025年に日本美容医療協会などが業界ガイドラインを策定する。実践的な基準をまとめることが大事でしょう。

──思い描く美容医療の未来像とは?

古山氏: 美容医療がどれだけその人の人生に貢献できるかなんですよ。特に日本は、安全性と技術力で世界をリードできる国です。私は、美容医療はビジネスだけではなく、“人生を豊かにするもの”だと捉えています。ガイドラインや専門医制度をきちんと整備すれば、世界の基準になることも可能だと思います。

 あと、私は値段競争には興味がありません。「高い」と言われても構わないから、最高のものを提供すればいい。それが日本の美容医療のブランド価値を上げ、結果的に人々の人生をより豊かにすると信じています。

プロフィール

古山登隆(ふるやま・のぶたか)氏。自由が丘クリニック(東京都目黒区)理事長(写真/秋元忍)

古山登隆(ふるやま・のぶたか)氏。自由が丘クリニック(東京都目黒区)理事長(写真/秋元忍)

古山登隆(ふるやま・のぶたか)氏
自由が丘クリニック(東京都目黒区)理事長

1980年、北里大学医学部卒業。北里大学医学部形成外科入局。85年、チーフレジデント。86年、北里大学形成外科研究員。89年医学博士取得。北里大学形成外科講師。91年、日比谷病院形成外科医長。95年、自由が丘クリニック開設。19年、国立大学法人千葉大学医学部形成外科非常勤講師。

記事一覧

  • 「地域性」と「ノンサージカル」の力で30年、自由が丘クリニックが注目した強みとは、美容クリニックの選び方を考える、自由が丘クリニック理事長 古山登隆氏に聞く Vol.1
    https://biyouhifuko.com/news/interview/11530/
  • 「3LTBST」と「BONSAI」が導くジャパンビューティーとこれからの美容医療、日本の美意識から施術の理想を考え続けてきた、自由が丘クリニック理事長 古山登隆氏に聞く Vol.2
    https://biyouhifuko.com/news/interview/11546/
  • 男性美容が本格化、「かっこよさ」だけではなく「魅力」を追求、シワやたるみのケアが「エチケット」にも、自由が丘クリニック理事長・古山登隆氏に聞く Vol.3
    https://biyouhifuko.com/news/interview/11580/
  • 再建外科の視点で変わる美容医療、美容クリニックで口唇口蓋裂も、若手ドクターの「直美」は技術的な課題も、自由が丘クリニック理事長 古山登隆氏に聞く Vol.4
    https://biyouhifuko.com/news/interview/11595/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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