
菊地克子(きくち・かつこ)氏.。仙台たいはく皮膚科クリニック院長。(写真/編集部)
菊地克子(きくち・かつこ)氏
仙台たいはく皮膚科クリニック院長
- 美容皮膚科の対象は健康な人だけではない→ 皮膚疾患がある人や、がん治療中の人、男性、高齢者など、幅広い人の外見上の悩みを支える。
- がん治療中の外見変化にも対応→ 脱毛や爪の変化、色素沈着などが生活や心理に及ぼす影響を考え、ケアにつなげる。
- 満足や生活の支援も役割→ 皮膚をきれいにするだけでなく、本人の気持ちや社会生活を支えることが美容皮膚科に求められる。
──大会テーマは「みんな、キレイに、しあわせに」。どのような思いを込めている?
菊地氏: 美容皮膚科というと、若く健康な人が、さらに美しくなるための医療だと思われやすいところがあります。
しかし、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に悩む人もいれば、がんなどの病気の治療による皮膚障害で受診する人もいます。若い女性だけでなく、男性、高齢者もいます。そうした人たちも、すべて大会テーマの「みんな」の中に含まれます。
健康な人の美容だけを見るのではなく、治療中の人や皮膚に悩みを持つ人も含め、幅広い人に少しでもきれいになってもらい、満足や幸せにつなげたいと考えました。
皮膚をきれいにすることだけが、美容皮膚科診療の目的ではありません。受診した人に満足してもらい、幸せになってもらうことが、美容皮膚科診療の役割ではないかと思っています。
──学会では、特別シンポジウム「化学療法による皮膚障害」も予定されている。
菊地氏: がんの化学療法に伴って起こる脱毛、爪の変化、色素沈着などを取り上げます。
抗がん剤治療では、さまざまな外見上の変化が現れます。髪が抜けることはよく知られていますが、それだけではありません。爪に変化が出ることもありますし、顔などに色素沈着が起きることもあります。
生命に関わる治療が優先されるのは当然です。しかし、外見の変化は、治療を受ける人の気持ちや日常生活にも影響します。
症状そのものを治療することが難しい場合でも、どのようにケアし、外見上の変化を補っていくのかを考える必要があります。
──美容皮膚科はがんなどにも関わる。
菊地氏: 美容皮膚科が持つ知識や技術は、健康な人をさらに美しくするためだけのものではありません。病気の治療に伴う外見の変化を支えることにも生かせます。
がん治療を受けている人も、当然、見た目を気にします。治療中だから、美容を考えてはいけないということではありません。
外見の変化によって人に会いたくなくなったり、仕事や社会生活に影響が出たりすることがあります。治療中の人も含め、外見に悩む人をどのように支えられるのかを、美容皮膚科として考える必要があります。
- 確立していない治療もある→ 化学療法による色素沈着などは、原因や有効な治療法が十分に分かっていない。
- 分かることと限界を共有→ 改善できること、ケアで補えること、現時点では難しいことを整理して伝える必要がある。
- 平時だからこそ成り立つ医療→ 美容皮膚科は平和で穏やかな社会を前提とし、人の幸せにどう貢献するかを考える分野とされた。
──対応が難しい症状には、どのようなものがありますか。
菊地氏: 私自身が特に難しいと感じているのは、化学療法に伴う色素沈着です。
一般的なシミや肝斑と似て見えることがありますが、同じような治療を行っても、なかなか改善しません。ハイドロキノンなどを塗っても、十分な効果が得られないことがあります。
なぜ色素沈着が起きるのか、どのような治療が有効なのかについて、まだ分かっていない部分があります。私も調べていますが、明確な答えが出ていない領域です。
学会では、この分野に詳しい先生に話してもらい、現在分かっていることや対応方法を共有したいと考えています。
──治療法が十分に確立されていない問題もある。
菊地氏: 脱毛であれば、ウィッグや帽子などで外見を補う方法があります。爪の変化についても、ある程度のケア方法があります。
一方、色素沈着は化粧などで隠すことはできても、根本的に改善する方法がはっきりしていない場合があります。本人が困っていても、医療者側が十分な答えを持っていないことがあります。
だからこそ、学会で取り上げ、専門家の知見を集める意味があります。分からないままにせず、何が分かっていて、何が分かっていないのかを共有することが第一歩になります。
──皮膚の症状が改善した後にも、外見上の悩みが残ることがある。
菊地氏: 皮膚疾患そのものが改善しても、色素沈着や傷痕が残り、それを気にする人がいます。医療者から見れば治療が一区切りついていても、本人にとっては、見た目の変化が新たな悩みになることがあります。
一般皮膚科では病気を治すことが中心になりますが、その後に残る外見の悩みにも目を向ける必要があります。美容皮膚科の知識や技術は、そうした治療後の悩みを支えるためにも生かせると思います。
すべてを治療で元通りにできるわけではありませんが、改善できること、ケアによって補えること、現時点では難しいことを整理して伝えることには意味があります。病気の治療と、その後の生活や気持ちを支えることを、切れ目なく考えていくことが大切です。
──日常のスキンケアについては?
菊地氏: 皮膚科の立場から考えると、スキンケアはシンプルです。適切に洗い、保湿し、紫外線を防ぐことが基本になります。
洗顔料や洗浄剤については、乾燥肌なのか、皮脂が多いのかなど、皮膚の状態に合わせて選ぶ必要があります。保湿剤についても、顔に使うものと体に使うものがあります。
ただ、化粧品には非常に多くの種類があります。すべてを細かく説明すると、受診した人が混乱してしまいます。
当院では、体に使う保湿剤や、美容施術後に必要な日焼け止めなど、重要な部分を押さえて案内しています。製品を数多く勧めるのではなく、最低限必要なものをシンプルに伝えるようにしています。
──特にスキンケアに慣れていない人には、シンプルさが重要。
菊地氏: 高齢の人や男性の場合、いくつもの製品を使うように説明しても、なかなか続きません。
どれを、いつ、どのように使えばよいのか分からなくなってしまいます。必要なものを絞り、毎日続けてもらう方が大切です。
短期間で結果が出ることを期待する人は少なくありません。しかし、スキンケアは一度行えば終わるものではありません。半年以上、さらにその先も細く長く続けてほしいと思っています。
──「早く治したい」という希望がある。
菊地氏: 美容医療では、早く効果を得たいと考える人が多いと思います。ただ、皮膚はすぐにすべてが変わるわけではありません。
施術によって短期間に変化が出ることはありますが、その状態を保つためには日常のケアが必要です。紫外線対策や保湿を続けなければ、再び状態が悪くなることもあります。
短期的な結果だけを目指すのではなく、無理なく続けられる方法を一緒に考える必要があります。
──会頭講演では、東日本大震災についても触れる予定。
菊地氏: 東日本大震災を経験した時、皮膚科医としてできることはあまりにも少ないという無力感が残りました。
大きな災害が起き、多くの人が本当に困っている時に、皮膚科医として何ができるのかを考えました。
今回の会頭講演では、震災当時を振り返り、できたこと、できなかったことを含め、災害時における皮膚科診療の在り方について話したいと思っています。
──美容皮膚科とは。
菊地氏: 美容皮膚科は、平時の医療であり、学問だと考えています。
災害が起き、命や生活を守ることが最優先になれば、美容医療を受ける余裕はなくなります。美容皮膚科は、平和で穏やかな社会があってこそ成り立つ医療分野です。
だからこそ、この分野に携わる者として、平和で穏やかな世界が続くことを願わずにはいられません。
同時に、美容皮膚科だけを見るのではなく、皮膚科医として病気を抱える人や、災害時に支援を必要とする人にどのように向き合うのかを考えていく必要があります。
──今回の学会を、どのような場に?
菊地氏: 新しい機器や治療法を学ぶだけでなく、美容皮膚科が誰のためにあり、何のために行われる医療なのかを考える場にしたいと思っています。
健康な人、皮膚疾患のある人、がん治療中の人、男性、高齢者など、さまざまな人が外見に関する悩みを持っています。
そうした一人ひとりに安全で適切な治療を提供するには、皮膚科の知識、診断力、医療安全への理解が欠かせません。治療できることだけでなく、できないことや、まだ分かっていないことも伝える必要があります。
美容皮膚科が人の幸せにどのように貢献できるのかを、多くの医師と考える大会にしたいと思っています。(終わり)
プロフィール

菊地克子(きくち・かつこ)氏.。仙台たいはく皮膚科クリニック院長。(写真/編集部)
菊地克子(きくち・かつこ)氏
仙台たいはく皮膚科クリニック院長。医学博士、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、美容皮膚科・レーザー指導専門医。1989年に東北大学医学部を卒業。同年、東北大学病院で研修を開始し、山形市立病院済生館、東北大学病院、石巻赤十字病院などで皮膚科診療に従事。1994年から米国に留学。帰国後は東北大学病院助手を経て、2004年に同病院講師に就任した。大学では、皮膚の角層機能やバリア機能を中心に研究。2019年から仙台たいはく皮膚科クリニック院長を務め、一般皮膚科を中心に美容皮膚科診療にも携わる。日本美容皮膚科学会理事、第44回日本美容皮膚科学会総会・学術大会会頭。日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会、日本香粧品学会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本がんサポーティブケア学会などに所属。
