健康に長生きを目指すロンジェビティ研究では、実年齢だけではなく、体の中で老化がどれほど進んでいるかを測ることが重要になる。
東北大学、米国のブリガム・アンド・ウィメンズ病院/ハーバード大学などを含む国際研究グループは、老化の進み方を遺伝子の働きから測る新しい指標を開発した。研究成果は2026年5月、科学誌Natureに掲載された。
老化を「遺伝子の働き」から測る

長寿や健康づくりに関わる要素を表したブロック。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 新しい老化指標を開発→ 遺伝子の働きから、体内でどれだけ老化が進んでいるかを推定する「tAge」を開発した。
- 1万1000以上のデータを解析→ ヒトやサル、げっ歯類のトランスクリプトームを統合し、老化に共通する変化を調べた。
- 体内の老化を評価→ 治療や生活習慣改善による老化への影響を測る新たな手法として期待される。
老化は、がんや心血管疾患、糖尿病など、さまざまな慢性疾患の背景にあるが、その進み方は人によって異なる。同じ年齢でも、体の衰え方や病気のリスクには差があり、見た目や体力だけでは体の中で何が起きているかまでは分からない。
そこで研究グループが開発したのが、「トランスクリプトーム時計(tAge)」と呼ばれる新しい指標だ。トランスクリプトームとは、細胞や組織の中で、どの遺伝子がどれくらい働いているかを網羅的に調べた情報を指す。体の中の老化を、遺伝子の働き方の変化として捉える考え方だ。
これまでにも、老化を測る方法として、DNAにつく化学的な目印を使う「エピジェネティック・クロック」が知られてきた。ただし、従来の方法には、遺伝子の働きや、臓器ごとの変化を十分に捉えにくい面があった。今回の指標は、細胞や組織で実際に動いている遺伝子の情報を使い、老化や慢性疾患に関わる変化をより広く評価しようとするものになる。
研究では、米国国立老化研究所のプログラムで調べられた、寿命を延ばす可能性のある物質などを試したマウスのデータを新たに得た。これに公開されているデータも加え、げっ歯類、サル、ヒトを含めた、1万1000以上のトランスクリプトームを統合して解析した。さまざまな生物、組織、年齢のデータを組み合わせることで、老化に共通する遺伝子の働き方の変化を探った。
その結果、老化や慢性疾患に伴う体内変化を基に、老化の進み方や疾患リスクに関わる変化を推定する指標が構築された。ロンジェビティ研究では、治療や生活習慣の改善などによって体の中の老化がどう変わったのかを測る必要がある。今回の研究は、そのための新しい評価法を示したものといえる。
ロンジェビティ研究で効果を測る手掛かりに

時間の経過や寿命を象徴する砂時計。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 老化の共通変化を確認→ 炎症や免疫の活性化、ミトコンドリア機能の低下などが老化と関連していた。
- ロンジェビティ研究に活用→ 老化対策や若返り研究の効果を、遺伝子の働きから評価できる可能性が示された。
- 血液検査への応用も期待→ 老化や疾患リスクに関連するタンパク質も見つかり、実用化につながる可能性がある。
今回の研究では、老化や慢性疾患で体の中にどのような変化が起きやすいかも確かめられた。
研究グループは、同じように動く遺伝子をグループ分けして調べた。その結果、炎症や免疫の反応が強まること、細胞の中でエネルギーを作るミトコンドリアの働きが落ちること、脂肪の利用や処理に関わる働きが変わることなどが、老化に関わる共通した変化として示された。
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを作る場所。体を動かす、臓器を働かせる、細胞を維持するといった基本的な活動に関わるため、ロンジェビティ研究でも重要なテーマになっている。
例えば、ある治療や生活習慣の見直しによって、体の中の炎症が落ち着いたのか、ミトコンドリアに関わる働きが保たれたのか、老化に伴う変化が若い状態に近い方向へ動いたのかを、遺伝子の働きから評価できる可能性がある。
研究では、老化した状態を若い状態へ近づける実験モデルでも、この指標が使える可能性が示された。老化や慢性疾患で見られる遺伝子の変化とは逆方向の変化が確認されたためだ。これは、若返りそのものを実現したという意味ではない。老化を抑える取り組みや、健康寿命を延ばす研究の効果を、体の中の変化として測る指標になるということだ。
また、実用化を考える上で、血液から得られる手掛かりも示された。研究では、CDKN1A、GPNMB、LGALS3というタンパク質が、死亡リスクや疾患リスクと関連する可能性も確認された。これはtAgeそのものではないが、遺伝子の働きから見えた老化の変化が、血液中のタンパク質にも反映される可能性を示すものだ。
参考文献
老化・慢性疾患・若返りに共通する「死亡リスクを推定する指標」を開発 ―RNA-seqデータから加齢を測定―
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2026/06/press20260618-02-aging.html
Tyshkovskiy A, Kholdina D, Davitadze M, Molière A, Moldakozhayev A, Tongu Y, Kasahara T, Glubokov D, Eames A, Kats LM, Vladimirova A, Ying K, Liu H, Zhang B, Khasanova U, Moqri M, Van Raamsdonk JM, Harrison DE, Strong R, Abe T, Dmitriev SE, Gladyshev VN. Universal transcriptomic hallmarks of mammalian ageing and mortality. Nature. 2026 Jun;654(8117):173-188. doi: 10.1038/s41586-026-10542-3. Epub 2026 May 27. PMID: 42203874; PMCID: PMC13233323.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42203874/
