
複数の方法を組み合わせて健康長寿を目指す。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
美容医療の分野で、健康長寿を目指す「longevity(ロンジェビティ)」が話題に上ることが増えている。そうした中で、「Scientific Zen(サイエンティフィック・ゼン)」と呼ばれる健康長寿を目指した活動が注目されている。
2026年6月に開催された第26回日本抗加齢医学会総会で、順天堂大学大学院医学研究科創造長寿医学の堀江重郎氏が、その実践について講演した。
食、運動などを組み合わせる老化遅らせる

XPRIZE Healthspan。(出展/XPRIZEウェブサイト)
- 世界上位40チームに選出→ 日本発の「Scientific Zen」が、健康寿命延伸を競うXPRIZE Healthspanの準決勝に進出した。
- 生活全体で老化に介入→ 薬だけでなく、食事、運動、睡眠などを組み合わせて健康長寿を目指す。
- 禅の生活を科学的に応用→ 禅僧の生活様式を参考に、日本発のロンジェビティプログラムとして展開している。
サイエンティフィック・ゼンが注目されている大きな理由は、世界規模で健康寿命を延ばす方法を競い合う「XPRIZE Healthspan(エクスプライズ・ヘルススパン、以下XPRIZE)」にエントリーし、準決勝進出に相当する世界上位40チームに選ばれたことがある。このコンペティションの優勝賞金は1億ドル、1ドル160円とすれば160億円だ。
XPRIZEの上位40チームには、日本からは6チームが選ばれており、サイエンティフィック・ゼンはそれらのうちの1チームに位置付けられる。健康長寿を延ばす対象は50〜80歳で、筋力、認知機能、免疫機能を少なくとも10年若返らせることを目標にしている。
サイエンティフィック・ゼンを進めているのが、堀江氏が代表を務める「Japan Longevity Consortium(JLC)」で、順天堂大学、東京大学、大阪大学の研究者らが参加する研究グループだ。
この取り組みの特徴は、一つの薬や成分で老化を遅らせるのではなく、生活全体を設計し直すという点にある。
サイエンティフィック・ゼンの「ゼン」は、禅に由来する。堀江氏によれば、日本の男性の禅僧を対象にした研究で、同じ時代の一般男性と比べて、全体の死亡が18%少なかったと報告されている。その生活様式が長寿につながる可能性が考えられている。そこで、サイエンティフィック・ゼンでは、禅僧のような、質素な和食、心を整える活動などを通して、老化に働きかけようとする。
禅僧の生活を科学で捉え直す「Scientific Zen」

老化を遅らせるには。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- ケトン食やHRVを活用→ 食事、生活リズム、心拍変動(HRV)などを組み合わせて健康状態を評価する。
- 多職種で取り組む→ 医師だけでなく、シェフや運動・睡眠の専門家、研究者が連携してプログラムを支える。
- XPRIZEで効果を検証→ 筋力や認知機能、免疫機能への効果が示され、今後は国際コンペティションで評価が進む。
堀江氏の講演では、北海道ニセコで行われた合宿の様子が紹介された。この生活の中で、サイエンティフィック・ゼンの実践が指導された。
講演によれば、基本となるのは食で、「ケトン食」と呼ばれる、糖質を抑えて、脂肪の摂取を増やす食事を続ける。中鎖脂肪酸(MCT)と呼ばれる油を少量摂取する方法が示されていた。しかも、食事の時間も調整する。こうした取り組みにより、体内の代謝を変えていく効果を狙う。このほか、生活リズムを整えつつ、ダンスをしたり、歌ったりする、独自のプログラムを取り入れている。
鍵になるのが「HRV(心拍変動)」と呼ばれる、心拍の間隔のゆらぎを示す指標。一般に、HRVが保たれていることは、自律神経の柔軟性や回復力を示す指標の一つとされる。生活リズムや自律神経の変化をみる手掛かりになる。
これらを組み合わせることで、禅僧の生活のように、規則正しい食事、身体活動、睡眠と覚醒のリズム、節制などに取り組む。合宿後も、同様な取り組みを続ける。
こうしたプログラムを進めるには、医師だけでは足りないという考え方だ。医学的に正しいことを説明するだけでなく、続けられる食事として設計するシェフ、日々の生活に運動を組み込む担当者、睡眠や生活リズムを支える専門家、HRVや生物学的年齢、免疫、認知機能、筋力の変化を測る研究者が必要になる。
これまでのところ、老化を遅らせる効果が、筋肉、認知機能、免疫のいずれにも見られた。効果が出やすい人と出づらい人の差も見られたという結果が明らかになっている。
今後、こうした成果を受けて、XPRIZEでの評価が行われることになる。
抗加齢医学は、薬やサプリメント、ホルモン、再生医療、美容医療などが注目されてきたが、食事、運動、睡眠などをパッケージとして提案するプログラムが今後注目される可能性がある。
参考文献
順天堂大学発の研究チームが「XPRIZE Healthspan」準決勝進出
https://www.juntendo.ac.jp/news/23037.html
XPRIZE Healthspan Competition Page
https://www.xprize.org/competitions/healthspan
Ogata M, Ikeda M, Kuratsune M. Mortality among Japanese Zen priests. J Epidemiol Community Health. 1984 Jun;38(2):161-6. doi: 10.1136/jech.38.2.161. PMID: 6747517; PMCID: PMC1052341.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1052341/
Maki KA, Goodyke MP, Rasmussen K, Bronas UG. An Integrative Literature Review of Heart Rate Variability Measures to Determine Autonomic Nervous System Responsiveness Using Pharmacological Manipulation. J Cardiovasc Nurs. 2024 Jan-Feb 01;39(1):58-78. doi: 10.1097/JCN.0000000000001001. Epub 2023 May 27. PMID: 37249528; PMCID: PMC10684820.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10684820/
