「細川亙 現代美容医療を殿が斬る」では、日本形成外科学会理事長をはじめ、多くの要職を歴任し、米国形成外科学会名誉会員でもある細川亙氏が、現代美容医療が抱える様々な問題に鋭い視点で問題提起する。「殿」というのは、細川氏が細川ガラシャの子孫であるから。その源流は明智光秀に通じる。そんな歴史的背景を持つ細川氏が現代に舞台を移して美容医療の分野で一刀を振るう。激動の美容医療の世界をどう治めるのか。
第15回テーマ「マンジャロなどのGLP-1関連薬」
GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1関連薬)をはじめとした肥満薬が国際的に使用者を増やしている。この薬が、病的な肥満ではない人にダイエット目的で使用されることが問題視されている。こうした状況について、細川氏は、美容医療に取り組む立場から、異論をとなえる。薬剤の適用外使用の是非をどう考える?
美容医療で用いられる薬剤の実態
美容医療の世界で用いられている多くの薬剤は厚労省が認可したものではない。厚労省は疾病の治療を目的として用いられる薬剤については、その効果や安全性、危険性などについて慎重に念入りに検討し、認可不認可の判断をして管理している。しかし、美容医療で用いられる薬剤については、厚労省が管理・監督を放棄しているに近いので、美容医療界では効果や安全性や危険性がきちんと調べられていない物を用いて医療を行なっている。すなわち個々の医師の個人的な評価と判断だけで、ある物質を薬剤として用いるかどうかというような重要なことが決められている。私などからすれば「得体のしれない物」というほかないような物質が多くの美容外科医によって安全な薬剤と判断されて客(患者)の体内に注入されている。アクアミド、アクアフィリングなどという正体不明の物質を注入され全国で健康被害が多発した事件は記憶に新しい。
私は独立行政法人地域医療機能推進機構という厚労省配下の組織に属する大阪みなと中央病院というところで美容医療センターを運営しており、できることなら厚労省が認可した薬剤のみを使って美容医療を運営したいと思う立場である。しかし厚労省が現在までに美容医療用に認可したわずかな薬剤だけでは現実の美容医療の大半は実施不可能である。したがって、安全安心な美容医療を実践しようと思うとき、認可外であってもどのようなものなら使って大丈夫なのかという判断を自ら迫られることになる。公的な機関や大学などの研究機関によってしっかりと調べられたような認可外物質にお目にかかることはなく、正しい判断を出すためのデータはないに等しいなかを判断していかなければならないのが美容医療の実態である。
「氏素性のしっかりした物質」
一方、保険医療で使用が認められている薬剤は、厚労省によって効果、安全性、危険性などが念入りに調べられたものであるから「得体のしれない物」どころか、いわば最も「氏素性のしっかり分かった物質」に他ならない。このような物質を用いるというのは美容医療においては最も望ましい薬剤選択である。たとえその使用目的が保険医療における疾患治療の目的とは異なるものであるとしても、「様々な副作用などの危険性を調べられた物質」は「得体のしれない物質」よりもはるかにましである。
しかし最近、糖尿病や肥満などに対する保険薬であるGLP-1関連薬(マンジャロなど)やSGLT2阻害薬(フォシーガなど)などが、美容医療の世界で「やせ薬」として使用されることに対してマスコミ(NHKや大手新聞社など)が非難していることが多い。保険承認薬であっても副作用はあるというのであるが、そんなことは医師なら(いや医師でなくても)百も承知であるし、投与する時にはしっかり調べられた信頼できるデータを基に客(患者)に副作用の説明もできる薬剤である。大阪みなと中央病院美容医療センターでも、当然これらの「やせ薬」を使用しているし、今後とも使用する。美容医療の世界で使われている多くの正体不明の薬剤に比較すれば、GLP-1やSGLT2ははるかに安心できる薬剤だからである。ただ、これらの薬剤が美容医療に用いられることで、疾病の治療に使われる薬剤が枯渇するというような事態にあるのであれば、美容医療に携わる者として配慮する。
なお厚労省や日本医師会など、美容医療で用いられている物質についての知識をしっかりと持っているべき立場の組織からも、素人と言ってよいマスコミ記者と同等の見解が発信されているのは大変嘆かわしいことである。
プロフィール

細川亙 現代美容医療を殿が斬る
細川亙(大阪大学名誉教授)
米国形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会特別会員、日本頭蓋顎顔面外科学会名誉会員、日本創傷外科学会名誉会員、JCHO大阪みなと中央病院名誉院長。日本形成外科学会理事長、日本形成外科手術手技学会理事長などを歴任。大阪大学形成外科初代教授。1979年、大阪大学医学部卒業。
