
2型糖尿病治療薬として使われるメトホルミンは、老化やがんとの関連でも研究が進んでいる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
メトホルミンは、2型糖尿病の治療に長く使用されてきた薬だ。その一方で、健康寿命を延ばしたり、がんの発生や進行を抑えたりする可能性が指摘され、健康寿命を延ばす「ロンジェビティ」という観点から注目する動きがある。
2025年7月25日、UAE(アラブ首長国連邦)などの国際研究チームは、メトホルミンと老化、がんとの関係について、これまでの研究を整理した総説論文を発表した。
総説とは、過去に発表された多くの研究を集め、現時点で分かっていることや今後の課題を整理する論文だ。
研究チームは既存の研究を踏まえ、メトホルミンが血糖値を下げるだけでなく、代謝や炎症、免疫、腸内細菌、遺伝子の働きなど、体内のさまざまな仕組みに影響する可能性があると解説している。
老化とがんに関わる仕組みを狙う薬へ

複数の方法を組み合わせて健康長寿を目指す。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 血糖値への作用→メトホルミンは肝臓の糖新生を抑え、インスリンを働きやすくすることで血糖値を改善する。
- 細胞の代謝調節→AMPKを活性化してmTORによる過剰な細胞増殖を抑え、オートファジーを促す可能性がある。
- 老化・がんとの関係→エネルギー代謝や炎症、免疫、腸内細菌などを調節し、老化とがんに共通する仕組みに作用する可能性がある。
メトホルミンのよく知られた効果は、肝臓で新しく糖が作られる「糖新生」を抑えることだ。さらに、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを働きやすくし、血糖値の改善につなげる。
研究チームによると、メトホルミンは細胞がエネルギーを管理する仕組みにも影響する。
その一つが「AMPK」だ。AMPKは、細胞内のエネルギーが不足していないかを確認するセンサーのような役割を持つ。一方、「mTOR」は、栄養が十分にあるときに細胞の成長や増殖を促す仕組みだ。
研究チームは、メトホルミンがAMPKの働きを高め、mTORによる過剰な細胞増殖を抑える可能性があると説明している。
さらに、古くなったタンパク質や傷ついた細胞内の部品を分解し、再利用する「オートファジー」を促す可能性も取り上げている。オートファジーは、細胞内を掃除して健康な状態に保つ仕組みと考えると分かりやすい。
研究チームがこうした働きに注目するのは、老化とがんに共通する部分があるためだ。年齢を重ねた体では炎症が長引きやすく、細胞内に不要な物質がたまりやすくなる。一方、がん細胞は多くのエネルギーを使いながら、活発に増殖する。
研究チームは、メトホルミンがエネルギーの使い方や炎症、細胞増殖を調整することで、老化とがんの両方に関わる仕組みに作用する可能性があると説明する。
今回の総説では、細胞や動物を使った基礎研究に加え、糖尿病、心血管疾患、がんなどに関する過去の臨床試験が検討された。さらに、老化に伴って増える複数の病気をメトホルミンで遅らせられるか調べる「TAME試験」など、進行中の研究も紹介している。
研究チームはこうした研究を基に、メトホルミンの働きを、エネルギー代謝、炎症、免疫、腸内細菌、遺伝子の調節という複数の視点から解説している。
健康寿命などへの効果の確立はこれから

健康寿命や加齢に伴う病気への影響をめぐり、メトホルミンの可能性が研究されている。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 健康寿命への期待→心血管疾患やがんなどが少なかったとする報告はあるが、健康な人の老化を遅らせる効果は証明されていない。
- がん治療への応用→抗がん薬や免疫療法との併用が研究されているものの、臨床試験の結果は一様ではない。
- 今後の課題→効果が期待できる人や適切な使用方法を見極めるため、より大規模で厳密な臨床試験が必要。
研究チームは、メトホルミンを使用している人では、心血管疾患やがんなど、年齢とともに増えやすい病気が少なかったとする研究を紹介している。
体の老化の程度を示す指標や、慢性的な炎症、糖や脂質の代謝に関係する数値が改善したとの報告もある。研究チームは、こうした結果から、メトホルミンが健康寿命を延ばす薬になる可能性が注目されていると説明している。
ただし、健康な人がメトホルミンを飲めば、老化が遅くなったり寿命が延びたりすると証明されたわけではない。これまでの報告には、メトホルミンを使用した人の経過を後から調べた観察研究も多い。
研究チームも、生活習慣や健康状態などの違いが結果に影響した可能性があり、老化に対する効果を確かめるには、より厳密な臨床試験が必要と指摘している。
がんについて研究チームは、メトホルミンが血糖値やインスリンを下げることで、がん細胞に送られる増殖の信号を弱める可能性を取り上げている。がん細胞のエネルギーの使い方や、腫瘍の周囲にある免疫の働きを変える可能性もあるという。
そのため、抗がん薬や免疫療法と組み合わせる使い方も研究されている。ただし、臨床試験の結果は一様ではなく、一部の臨床試験では、再発や生存に関する指標の改善が確認されなかった。
研究チームは、効果ががんの種類や遺伝子の特徴、患者の代謝状態などによって異なる可能性を指摘している。今後は、血液や遺伝子などの情報を手掛かりに、効果が期待できる人を見極めることが重要になるという。
メトホルミンは長く使用され、価格も比較的安い薬だ。そのため、老化やがんに対する効果が臨床試験で確認されれば、広く活用できる可能性があると研究チームは見ている。
ただし現時点では、老化防止を目的とする薬として認められておらず、がんの標準治療に代わる薬でもない。今回の総説は、メトホルミンの新たな可能性を整理する一方、実際の治療につなげるには、効果を期待できる人や適切な使用方法を見極める研究が必要と結論づけている。
参考文献
肌の老化に作用する可能性のある薬、メトホルミンなど確認 老化した皮膚の変化の一端明らかに、中国の研究チームが細胞を1個ずつ解析し、10代~20歳と高齢者を比べた
https://biyouhifuko.com/news/research/15711/
