美容医療の注入治療が、減ったボリュームを「補う」だけでなく、組織を「刺激する」方向にも広がっている。その一方で、刺激を重ね過ぎることへの警戒も出ている。
2026年9月に東京で開催されたAMWC Japan 2026では、新しいヒアルロン酸製剤や多孔質CaHAなどが紹介され、皮膚や脂肪などの状態に応じた治療の組み立て方や、バイオスティミュレーターの使い過ぎについて議論された。
その人の状態を見極める

何を注入するとよい?画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 治療の考え方→製剤から治療を決めるのではなく、皮膚や脂肪、骨など、顔のどこに変化が起きているかを見極めることが重要とされた。
- 新しい注入剤→表在性の脂肪への注入を想定したヒアルロン酸製剤や、組織との接触を増やす多孔質CaHAなどが紹介された。
- 自然な仕上がり→大きく顔を変えるのではなく、全体のバランスや自然な若々しさ、本人らしさを保つことが重視された。
最初に登壇したヤナガワクリニック(大阪市中央区)院長の梁川厚子氏は、「製剤から治療を決める」のではなく、まずその人の顔のどこに変化が起きているかを見ることが重要との考えを示した。
顔の老化には、皮膚そのものの変化だけではなく、表情筋の働きや、骨・脂肪など顔を支える構造の変化、紫外線や慢性的な炎症によるダメージなどが重なっている。このため、一つの注入剤ですべてを解決しようとするのではなく、その人の状態に合わせて治療を組み合わせる必要があるという。
中でも梁川氏は、コラーゲンやヒアルロン酸などで構成される「細胞外マトリックス(ECM)」を、植物が育つ「土壌」に例えた。表面だけを整えるのではなく、皮膚そのものの環境を整える考え方だ。
講演では、従来のヒアルロン酸フィラーとは少し異なり、顔の表在性の脂肪区画への注入を想定した新しいタイプの製剤も紹介された。
続いて中国のジョセフ・リャオ氏は、「多孔質CaHA」と呼ばれる新しいタイプの注入剤を取り上げた。
CaHAはカルシウムハイドロキシアパタイトの微粒子で、これまで顔のボリュームや支えを作る目的などで使われてきた。周囲の組織に働き掛けてコラーゲンなどの形成を促す作用にも注目が集まっている。講演では、表面積を広げて周囲の組織との接触を増やす設計と説明された。
中国人210人を対象にした試験では、ほうれい線の左右にこの多孔質CaHAと一般的なヒアルロン酸フィラーをそれぞれ注入して比較した。24週後、多孔質CaHAはヒアルロン酸フィラーに劣らない効果を示した。ただし、この試験は多孔質CaHAと従来型CaHAを比較したものではなく、多孔質化そのものの優位性を示した試験ではない。
リャオ氏は、施術後に大きく顔を変えることより、「顔全体のバランスが整ったか」「自然に若々しく見えるか」「本人らしさが残っているか」を重視する考えも示した。
過剰な再生治療に警鐘

ヒアルロン酸やバイオスティミュレーターによる合併症も増えている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 刺激のし過ぎ→コラーゲン形成を促す注入剤でも、量や回数を増やし過ぎれば過剰な刺激につながる可能性があると指摘された。
- 治療の調整→年齢や組織の状態、治療後の反応を見ながら、製剤の種類や量、治療間隔を個別に調整する必要がある。
- 線維化への懸念→PCLなどを大量かつ反復して使うことで線維化が起こる可能性が示されたが、現時点では因果関係は確立していない。
新しい注入剤への期待に対し、台湾のチャオチン・ワン氏は「刺激のし過ぎ」に警鐘を鳴らした。
ワン氏は、来院者から「フィラーで顔を膨らませたくない。肌そのものを良くしたい」と求められることが増えていると説明した。こうした希望を背景に、コラーゲン形成などを促す「バイオスティミュレーター」が使われているという。しかし、フィラーの入れ過ぎが、今度は刺激する注入剤の使い過ぎに置き換わっていないかと問い掛けた。
同じ製剤を同じ量使っても、老化した組織が若い組織と同じように反応するとは限らない。だからといって、反応が弱い人に量や回数を増やせばよいとも限らない。細胞だけでなく、周囲のコラーゲンや炎症の状態なども影響するため、ワン氏はまず「再生する準備ができているか」を確認し、それに応じて製剤や量、治療間隔を考える必要があるとした。治療後の反応を見ながら、十分に効果が出ていれば追加しないという判断も必要だとした。
これをさらに掘り下げたのが、マレーシアのティン・ソン・リム氏だ。
リム氏は、フィラーの過剰な注入や不適切な使用による「フェイシャル・オーバーフィルド・シンドローム(入れすぎ症候群)」に続き、ポリカプロラクトン(PCL)など組織を刺激する製剤を大量に、しかも反復して使うことで、顔の結合組織に線維化が起こる可能性を指摘した。少量を慎重に使うこと自体は否定しない一方、顔全体への大量投与には懸念を示した。
こうした状態を「顔面間質性線維化(フェイシャル・インタースティシャル・ファイブローシス)」と呼んで問題提起した。
今回の議論では、フィラーの「入れ過ぎ」に続き、再生を促す製剤の「刺激し過ぎ」も課題になり得ると指摘された。重要なのは、できるだけ強く刺激することではなく、その人に必要な量と間隔を見極めることだ。
参考文献
英国の美容施術の合併症 87%がフィラー関連、専門団体が対処件数を報告 ライセンス整備進行の中で医療関係者以外によるトラブル目立つ、「施術前チェック」を呼びかけるキャンペーン実施
https://biyouhifuko.com/news/world/16198/
Pan Y, Luo Z, Chen S, Lu N, Zhang Y, Yang Y, Chen C, Liu J, Zhang R, Ge Y, Qi F, Zhu M. A Multicenter, Randomized, Double-Blind, Parallel-Grouped, Positive-Controlled, Non-Inferiority Clinical Study to Evaluate the Efficacy and Safety of Injectable Calcium Hydroxylapatite Microsphere Hydrogel Fillers in the Correction of Nasolabial Fold in Chinese Subjects. Aesthetic Plast Surg. 2025 Mar;49(6):1661-1668. doi: 10.1007/s00266-024-04378-3. Epub 2024 Sep 27. PMID: 39331081.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39331081/
