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Netflix『ダウンタイム』の「ボトックス・パーティー」は本当にある? 米国ではワインバーで注射の実例、最近でもイベント続く 無資格施術や偽造品など安全性の問題も【編集長コラム】

カレンダー2026.9.19 フォルダー連載・コラム
シャンパンの入ったグラスを持って乾杯する複数の人の手元。

米国では、飲食や社交イベントと美容注射を組み合わせた「ボトックス・パーティー」が告知・開催された例もある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 Netflixシリーズ『ダウンタイム』の序盤で目を引くのが、パーティーのような場でボツリヌス製剤の注射を行う場面だ。

 SNSでは、「こんなパーティーが本当にあるのか」「パーティー会場でボトックスを打つのか」と驚く声や、安全面を気にする投稿も見られた。

 確かに日本で見ると、かなり現実離れした光景に映る。ところが調べてみると、米国には実際に「Botox Party」と呼ばれるイベントがあり、安全性や資格をめぐる問題も起きている。

ダンスバーで「ボトックス・パーティー」

薬剤バイアルの上に注射器が置かれた、美容注射を連想させるイメージ。

ボツリヌス製剤などの美容注射は、医療者の資格や無菌操作、使用薬剤の確認が重要になる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

  • 実際に存在→米国では現在も「ボトックス・パーティー」と呼ばれるイベントが告知され、友人同士で美容施術を受ける形式が見られる。
  • 過去の実例→2008年にはカリフォルニア州のワインバーで、シャンパンを飲んだ参加者に医師がボツリヌス製剤を注射する催しが開かれていた。
  • ドラマとの共通点→『ダウンタイム』の描写は強く演出されているものの、パーティーの場で美容注射を行う設定には現実の下敷きがある。

 しかも、遠い昔の話でもない。

 2025年7月には、ニューヨーク州のダンスバーが「ボトックス・パーティー・ポップアップ」を告知。医療資格を持つ美容医療チームが参加すると案内していた。2026年5月には、テキサス州のレストランでも「ボトックス・アンド・バブルズ」というイベントが告知されている。

 こうした最近の告知だけでは、実際にアルコールを飲みながら、その場でボトックス注射まで行われていたのかまでははっきりしない。「パーティー」とはいっても、ドラマのような光景とは違う可能性もある。

 ところが、過去にはかなり具体的な例がある。

 2008年、カリフォルニア州のワインバーでは、医師が店内でボトックス注射を行う「spa night」が毎週開かれていた。報道によると、注射前にシャンパンを飲んでいた参加者もいた。医師は飲み過ぎた人には注射しないとしていたが、「ワインバーで酒を楽しみ、その場でボトックス注射を受ける」という催しは実際に存在していた。

 米国で出張型の美容医療サービスを展開するピンチ(Pinch)も、「ボトックス・アンド・バブリー」といった名称を紹介し、友人を集めて美容施術を受ける「ボトックス・パーティー」をサービスとして展開している。

 『ダウンタイム』の場面は奔放さを強いインパクトで描いているが、少なくとも米国では全く現実離れした設定というわけでもなさそうだ。なお、作品中、商標に配慮しているからと思われるが、「ボト」と表現している。

 作品の冒頭では、グラスに入った液体を注射器で吸い取るように見える場面があり、SNSでは「感染につながる」と驚く声も見られた。ただ、実際にグラスの液体を注射したという描写ではなく、パーティーらしさや異様さを強調するための演出と見るのが自然だろう。施術自体は、通常どおりボツリヌス製剤を用いて行われた設定と考える。

米国では安全性も問題に

暗い会場で、青い照明と煙の中で踊る人々のシルエット。

パーティー会場で美容注射を行うという設定は、日本では現実離れして見えるが、米国では類似するイベントが問題になってきた。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

  • 健康被害→CDCは2024年、医療機関ではない場所で美容目的のボツリヌストキシン注射を受けた女性7人が体調を崩し、4人が入院した事例を報告した。
  • 資格の問題→テキサス州では「Botox parties」で無資格者が注射するケースが問題となり、規制強化を目的とした法案も提出された。
  • 安全確認→米国形成外科学会も、施術者の資格や無菌操作、皮膚の消毒などを確認するよう注意を呼びかけている。

 米国ではクリニック以外で行われる美容注射をめぐり、安全性も問題になっている。

 米疾病対策センター(CDC)は2024年、医療機関ではない場所で美容目的のボツリヌストキシン注射を受けた女性7人が体調を崩し、4人が入院した事例を報告した。少なくとも4人には偽造品が使われていた。これは「ボトックス・パーティー」で起きた事例ではないが、非医療環境や無資格者による注射の危険性を示すものだ。

 テキサス州でも2025年、「Botox parties」をめぐる問題が州議会で取り上げられた。提出された法案は、美容師やエステティシャンが、必要な医療資格を持たずにボトックスなどを注射することを禁止する内容だった。法案の分析資料には、実際に「Botox parties」を開き、友人や家族に無許可の注射をしているケースが問題として明記されている。

 米国形成外科学会も「Botox Parties」と題した動画を公開し、施術者の資格や無菌操作、皮膚の消毒などを確認するよう注意を促している。

 米国では通常の医療機関とは性質の異なるメディカルスパでの美容施術が問題になっており、ヒフコNEWSでも繰り返し記事にしてきた。医療従事者の管理状況など運営体制が杜撰とされることもある。そうした施設が野放図な治療集会をやっているとしたら不思議ない面もある。こうした問題を下敷きにしながら、ドラマの冒頭ではセンセーショナルに、ややデフォルメして描いた可能性もありそうだ。

 

 日本で同じことができるかは、医療機関の外で診療を行う場合の医療法上の扱いなどが関わるため、米国とは単純に比較できない。飲食店で注射をすると聞けば、多くの人は非常識だと感じるだろう。ただし、国内の美容医療では、国内で承認されていない医薬品が医師の判断で使われることが一般的だ。そうした医療が現実に行われていることを考えると、ではどこまでが常識的で、どこからが非常識なのか、その境界は意外と分かりにくくなってくる。ボトックス・パーティーは、美容医療が抱えるそうした曖昧さも映し出している。

 そして作品を後半まで見ると、「あの人物が本当にあのような場で注射をするだろうか」という素朴な疑問も残る。それでも、米国に実際の下敷きがあるとしたら、美容医療の一つの側面を強く見せたフィクションとして大きく現実離れした描写とまでは言えないようにも見える。

参考文献

Pinch「75 Botox Party Name Ideas」
https://www.bookpinch.com/blog/75-botox-party-name-ideas

CDC「Notes from the Field: Illnesses After Administration of Presumed Counterfeit Botulinum Toxin in Nonmedical Settings — Tennessee and New York City, March 2024」
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7327a3.htm

join us for a botox party!
https://britchesdancebar.com/botox-party-pop-up

Texas Legislature Online「S.B.378」
https://capitol.texas.gov/tlodocs/89R/analysis/html/SB00378I.htm

American Society of Plastic Surgeons「Botox Parties」
https://www.plasticsurgery.org/video-gallery/botox-parties

WSFA「California Wine Bar Hosting “Botox at the Bar”」
https://www.wsfa.com/story/8323641/california-wine-bar-hosting-botox-at-the-bar/

Britches’ Dance Bar「Botox Party Pop Up」
https://britchesdancebar.com/botox-party-pop-up

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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