「ロンジェビティクリニック」と聞くと、若返り治療や最先端の再生医療を提供する施設を思い浮かべるかもしれない。しかし、その役割は変わりつつあるようだ。
2026年9月にAMWC Japan 2026で開かれたロンジェビティクリニックをテーマとするセッションで、その現状や課題などが話し合われた。
今後は「何を治療するか」と同じくらい、「何をどう測るか」が重要になりそうだ。
>健康寿命を延ばすため、治療効果をどう測るか

AMWC Japan 2026の講演会場。2026年は講演会場を5会場に拡大し、幅広いテーマで議論が行われた。(撮影:編集部)
- 健康寿命の延伸が目標→ 平均寿命と健康寿命の差を縮めるため、単に長生きするだけでなく、健康に活動できる期間を延ばすことが重視されている。
- 治療前後の変化を客観的に確認→ 各種検査で老化や健康状態を測り、介入後にどのような変化が起きたかを継続的に評価する考え方が広がっている。
- AIで多数のデータを診療に活用→ バイオマーカーや画像、身体データを整理し、医師が介入の優先順位を判断する診療支援システムも登場している。
東京リライフクリニック(東京都中央区)最高経営責任者(CEO)の古山喜章氏は、日本では平均寿命と健康寿命の間になお差が残っていることを課題として挙げた。ロンジェビティ医療では、単に寿命を延ばすだけでなく、健康で活動できる期間を延ばすことが重要になる。
日本では健康寿命も長期的には延びているものの、2022年には平均寿命と健康寿命の間に男性で約8.5年、女性で約11.6年の差が残っている。こうした期間をできるだけ短くすることが、ロンジェビティ医療の大きな課題になる。
古山氏が重視したのが、治療による変化を客観的に確かめていくことだ。東京リライフクリニックでは、老化や健康状態を各種検査で捉えながら、治療前後の状態を測定し、得られた臨床データを研究へ還元する取り組みを進めている。古山氏が寄付者として名を連ねる東京大学大学院理学系研究科「細胞老化制御」寄付講座の合田圭介教授らとも共同研究を進め、研究と臨床を行き来しながら検証を重ねる考え方を取っている。
古山氏らが参加する研究チームは、筋機能、認知機能、免疫機能を少なくとも10年分、目標として20年分回復させる治療法の開発を競う国際コンペティション「XPRIZE Healthspan」にも参加し、2026年には20のファイナリストのうち10チームに贈られるMilestone 2 Awardに選ばれた。
アンチエイジング分野に長く携わる、フランスを拠点とする医師のクロード・ショーシャ氏は、約300のバイオマーカーや画像、身体データなどを整理し、医師の判断を支援するAIを用いた独自の診療支援システム「ロンジェビティ・クリニカル・エンジン(Longevity Clinical Engine)」を紹介した。多数の情報に優先順位を付け、医師が説明や来院者とのコミュニケーションに時間を使うことを狙った仕組みだ。
ロンジェビティ医療では検査項目を増やせばよいわけではない。何を調べ、その結果をどう解釈し、どの介入を優先するのかという診療設計まで含めて整えることが求められている。
新技術が広がる一方、測定法の標準化が課題に

AMWC Japan 2026は2026年9月12日から13日まで、東京で開催された。(撮影:編集部)
- 生活習慣から再生医療まで段階的に対応→ 運動、栄養、精神、環境を整えた上で、必要に応じて薬剤や再生医療を検討する考え方が示された。
- iPS細胞やEVなど新技術に期待→ 細胞そのものだけでなく、細胞外小胞やマイクロRNAなど再生に関わる「シグナル」を活用する研究も進んでいる。
- 世界80施設超で評価法にばらつき→ 検査項目や測定条件が統一されておらず、長期データの活用と共通の評価基準づくりが大きな課題になっている。
近畿大学アンチエイジングセンター創設者の山田秀和氏は、医学的な治療を始める前に、運動、栄養、精神、環境という4領域を整えることが基本になると説明した。それでも必要な場合に薬剤や再生医療などを検討するという考え方だ。目立ちやすい治療メニューそのものではなく、健康寿命を延ばすという目的から逆算し、必要とされる対応を選ぶ必要がある。
山田氏は、測る、対応、測るの繰り返しが重要と見ている。対象になるのは血液検査だけではない。筋力や認知機能、免疫機能、画像検査に加え、ゲノム解析、エピゲノム解析、プロテオーム解析、メタボローム解析など、多様なデータを組み合わせて健康状態を捉える方向が示された。一度だけ検査して「生物学的年齢」を決めるのではなく、同じ人を継続的に測定し、時間とともにどのように変化したのかを見ることが重要になる。
大阪大学大学院医学系研究科特任准教授の日比野佐和子氏は、再生医療が細胞そのものを移植する発想から、細胞が周囲に放出する成長因子、サイトカイン、細胞外小胞(EV)、マイクロRNAなどの「シグナル」に注目する方向にも広がっていると説明した。
2026年には、日比野氏が共著者として参加した研究で、iPS細胞由来心筋細胞の製造、成熟過程に伴うセクレトームやEVの変化が検討された。将来的には「どの細胞を移植するか」だけでなく、「どのような再生シグナルが必要なのか」を考える医療につながる可能性がある。
こうした再生医療の研究が進む一方で、iPS細胞を使った治療は一部で実用化の段階にも入り始めている。日本では2026年3月、iPS細胞由来心筋細胞シート「リハート」と、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」が条件・期限付きで承認された。ただし、再生医療には研究段階の技術から承認を受けた製品までさまざまな段階がある。新しい技術への期待が高まる中でも、どこまで有効性や安全性が確かめられているのかを区別して見ることが重要になる。
ロンジェビティクリニックそのものには大きな課題が残る。2026年に公表された国際ラウンドテーブルの論文では、世界80施設超のロンジェビティクリニックを対象とした調査を引用し、診断アプローチなどに大きなばらつきがあると報告している。
同じ治療を行っても、ある施設ではDNAメチル化によるエピジェネティッククロックを使い、別の施設では握力、さらに別の施設では本人の主観だけを評価していれば、結果を直接比較することは難しい。
筋力測定では測定者の訓練が影響し、認知機能検査では同じ課題を繰り返すことで成績が上昇する「練習効果」が生じる。免疫検査も、採血時刻や検体の保存、測定施設などによって結果が変化し得る。どの機器を使用したか、どの解析方法やソフトウエアのバージョンを使ったかまで記録しなければ、施設を超えた比較は難しい。
こうした中で注目されるのが、日本に既に存在する健康診断のデータ。セッションの質疑では、20代から毎年健康診断を受けていれば、40~50代になるまでに血圧、体重、血液検査など20年近い個人データが蓄積され得るとの指摘があった。一時点の数値だけでなく、「その人が20年間どう変化してきたのか」を追うことができれば、ロンジェビティ医療の重要な基盤になる可能性がある。
ロンジェビティクリニックが本当に健康寿命を延ばす医療へ成長できるか。その鍵になるのは、新しい治療を次々に導入すること以上に、同じ人を長期的に測り、治療前後の変化を確認し、その結果を世界共通の方法で比較できる仕組みを作れるかという点にありそうだ。
