美容医療、どう選ぶ?専門家の意見とアドバイス、第46回日本美容外科学会総会・第148回学術集会
ポイント
- 美容医療の学会で、医師や施術を受ける人々が直面している課題が議論された
- SNSで人気の医師が腕があると認められているわけではない可能性がある
- 美容外科と形成外科の技術は異なり、教育の体制を整える必要性がある
美容医療は、関連したトラブルの懸念もあり世間の注目を集めている。では、美容医療を受ける前に、人々は何を考えるべきなのか。美容医療における課題は何か、情報を共有することはどのように役立つのか。
2023年9月14日に開催された第46回日本美容外科学会総会・第148回学術集会では、さまざまな分野の人々が集まり議論を交わした。その中には、形成外科から美容外科に転身した医師、美容医療での麻酔に取り組む麻酔科医、化粧業界の専門家、美容ライター。
なお、国内には日本美容外科学会が2つあるが、今回は形成外科医が中心となる日本美容外科学会(JSAPS)が開催しているもの。議論は広報委員会企画ラウンドテーブル「『幸せを生まない美容外科』を探る」として行われ、リアルタイムにYouTubeでも配信された。
SNSの情報発信は限界も
ラウンドテーブルは、THE ONE.診療統括部長の原岡剛一氏、北海道大学医学部形成外科舟山恵美氏が司会を務め、議論をリードした。
このほか壇上に上がったのは、美容外科の立場からは、THE ONE.院長の上原恵理氏、東京美容外科輪郭形成診療部長の山本崇弘氏。
麻酔科の立場からは、複数の美容医療関連の医療機関で麻酔に取り組む、出張麻酔診療所Anestudio代表の小磯進太郞氏。
コスメコンシェルジュとして活動し、日本化粧品検定協会代表理事を務める小西さやか氏、東京藝術大学卒業後、マーケティング企業を経て、美容ライターとして活動する栗林良子氏。
議論の始め、舟山氏は、美容医療に関するトラブルが多いという報告を示した。
それはヒフコNEWSでも伝えている国民生活センターがこの9月に報告した、美容医療関連のトラブルの発生件数についての統計である。23年は4~7月だけで1845件を記録。過去最多だった22年の3709件を年間では超えるペースになっているという問題だ。
これに対して、小西氏らが日本化粧品検定協会で20~30代の女性を中心にアンケートしたところ、「美容医療で嫌な経験をしたことがある」との回答が3割に上ったという。
ラウンドテーブルでは、人々が治療を決定する前に良い情報をいかに得るとよいのか、そして、いかに頼りになる情報が乏しいかという状況の認識が共有された
そうした中で最も参考にされるのがインスタグラムをはじめとしたSNSである。それに対して、そのようなプラットフォームで発言力の強い人々が、必ずしも腕も良い医師と受け止められているわけではないという。アンケートからは、SNSの発信力が強い医師と、腕の良い医師とが必ずしも結ぶ付けられていない可能性が示されていた。それは良い面だけが発信されているのが見透かされているためではないかという。次いで口コミが続いているが、なかなか治療を受ける前に、頼るべき医師を探るのは困難という意見が述べられた。
トラブルを防ぐための対処どうする
そうなると「良い先生」をどう探すかは難しい状況なってくるが、そもそも良い先生はどういうものかについて、「腕が良い」「親身に話を聞いてくれる」に次いで、「トラブルがあったときに最後までケアしてくれる」が評価されているというアンケート結果が紹介された。
上原氏はトラブルへの対処の問題に関して今、気になることとして、修正を引き受けた場合、治療を受けた本人が前の医師への信頼関係が壊れている状況があると指摘。そこで問題になるのが、前医からの情報がなく、対処が難しいことだとした。
栗林氏らは、修正ができる施術しか手掛けるべきではないのではと、意見を述べた。
それに関して、小磯氏は、麻酔関連のトラブルについて述べ、大きくテクニカルスキルの問題と、ノンテクニカルスキルの問題があると指摘した。
テクニカルスキルの問題は、経験の浅い医師が麻酔を担当した場合に問題になりやすいということ。一方で、ノンテクニカルスキルは、売上至上主義の医療機関で、安全上のリスクがあった場合に、売上を上げている医師に対して周囲が意見しづらい状況が生まれることという。
麻酔の安全性については、静脈麻酔よりも全身麻酔の方が安全に行えるが、そうした知識が知られていない問題など、広報をより丁寧にしていく必要があるのではという声が上がっていた。
山本氏は、麻酔関連のトラブルへの対処に関連して、美容医療では情報が表に出てこないために、全体の状況を把握できず、対策が打ちづらい問題があると指摘した。
専門医の資格は目安になるか?
続いて、形成外科専門医であることの意義について議論された。
ヒフコNEWS でも伝えたが、日本美容外科学会には形成外科医が中心となったJSAPSと、美容医療関連の医師が中心となったJSASの2つの学会がある。
しかし、形成外科で修練を積む際に、必ずしも美容医療の技術を学べるわけではない問題がある。
議論では、美容外科に携わる医師らから、美容医療の技術を実践するには、形成外科ではなく、美容医療の現場で、美容医療ならではの知識が技術、振る舞いを身に付ける必要があると述べられた。
ヒフコNEWSでも伝えたが、美容医療の中でも非外科的治療が多くなり、外科治療の割合が少ない現状もある。
美容医療においては、手術ばかりではなく、そのほかにも注入系などの手術以外の手技も多く、それらはまさしく美容医療ならではの知識や技術が求められるといえるだろう。
形成外科が扱う「外傷」「腫瘍」「先天異常」に対して、より専門性の高い分野として美容外科が位置づけられているが、美容外科に携わる医師らからは、形成外科の技術は必ずしも美容医療では必要とされないと指摘された。
一方で、麻酔科医である小磯氏は、どの分野であれ、専門医を取得する課程で、医療に対する謙虚さや責任感を生むところがあり、広い視野で専門医の意義をとらえるとよいのではと意見を述べた。
小西氏や栗林氏らは施術を受ける立場から、形成外科専門医の資格は施術を受ける際に参考にできると語った。専門医を取得するための修練は評価すべきで、医師を理解するための一つの参考情報になるためだ。
症例数は評価されるポイントだという意見も出ていたが、一方で、より総合的に医療技術について考える必要もあるのではという意見もあった。
トレーニングの重要性をもっと強調すべきか
形成外科と美容外科の違いに関連して、教育の問題についても話が及んだ。
大学の形成外科では、美容医療の技術を教えるプログラムがない。原岡氏は、元々神戸大学で美容外科を手掛けていた経験があり、大学の課題について身をもって理解する立場にある。彼は一つの解決策として、CST(Cadaver Surgical Training、カダバーサージカルトレーニング)と呼ばれる遺体を対象として医療技術を学ぶ体制が必要ではないかと話した。
一方、「モニター」の問題点についても話は及んだ。美容医療においては、モニターとして低価格で若手の教育のために治療が行われている現状がある。小西氏は美容医療を受ける立場から、写真を撮らせてくれれば低価格になるくらいに理解されており、若手の教育として行われている認識がないのではという。
こうしたモニターの位置づけについては、治療を受ける側も知っておくべきであるという意見が交わされ、今後の情報共有の課題の一つとして浮かび上がった。その上で、モニターの手術においては、上の医師が一緒に診るような体制が必要ではないかと意見が出された。
信頼できる情報を得る上では、SNSだけではなく、実際に医院に訪れ、カウンセリングを受け、医師の人となりを理解するという足を運ぶ手間を惜しまないでほしいという意見が出された。また、継続的な学習を続けている医師は信頼できるのではないかという見方も示された。
美容医療がより安全で有益なものとなるためには、受ける側が知識を得て情報を積極的にとることが必要であり、学会側も医療機関の認証の仕組みを作るなどのやるべき課題が多いのではないかと今後の展望が語られた。
参考文献
第46回日本美容外科学会総会・第148回学術集会広報委員会企画ラウンドテーブル『幸せを生まない美容外科』を探る
https://www.youtube.com/watch?v=IuqnxyNXusY
美容医療のトラブル急増、過去最多の相談件数に国民生活センターが注意喚起
https://biyouhifuko.com/news/japan/3141/
日本の美容医療、課題と展望 日本美容外科学会JSAPSの前理事長の大慈弥(おおじみ)裕之氏に聞く
https://biyouhifuko.com/news/interview/253/
日本で人気の美容施術トレンドが明らかに、2位は「女性脱毛」、1位は…
https://biyouhifuko.com/news/japan/1645/
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