顔はなぜたるみ、どうしてシワが刻まれていくのか。
若返りを考えるためには、体を構成する細胞がなぜ老化するのかを理解することが欠かせない。
2024年6月1日、第24回日本抗加齢医学会総会会長で、熊本大学分子遺伝学講座教授の尾池雄一氏が老化に関連した研究について紹介した。
会長講演「老化制御の一新紀元 ~老化機構から紐解く健康寿命延伸戦略~」から最先端のキーワード3つを見ていく。美容医療との関わりも深まっている。
「老化細胞・老化細胞除去ワクチン」
老化細胞が老化細胞を生み出し、ますます老化する──。そういう負のスパイラルが存在することが次第に明らかになっている。
「老化では臓器がばらばらに老化するのではなく、ほぼ同時に老化する」(尾池氏)ことから、老化細胞の悪影響が注目されるようになった。
つまり老化細胞を取り除くことが老化を防ぐ重要な鍵になることが分かってきた。
現在、老化細胞を除去するワクチンの開発も進んでおり、既に初期の研究は成功している。今後、老化細胞が若返りの観点からますます注目されることは間違いない。
「SASP」
SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)は、直訳すると老化に伴う分泌型の意味であり、老化細胞がなぜ老化を引き起こすかの謎を解く鍵となる。肌の老化という観点でも、SASPが注目されている。
具体的には、老化細胞がさまざまなタンパク質を分泌し、これらは細胞同士の情報伝達を行うサイトカインなどと呼ばれるが、これにより細胞の老化を引き起こすことが分かってきた。
SASPの影響によって、体の腫れや痛みを起こす炎症を長引かせ、結果として、老化に関係したさまざまな病気を引き起こすことも分かってきた。その病気には、動脈硬化、糖尿病、認知症、がんなどが含まれている。
「ANGPTL2」
ANGPTL2(Angiopoietin-like 2、アンジオポエチン様因子2)は、新しい血管の形成に関連するタンパク質だが、SASPにも関連しており、細胞の老化に影響すると考えられている。
尾池氏は「血液の検査で、ANGPTL2が高いと細胞の老化が進んでいる可能性を考えた」と振り返る。それまで血管新生に注目して研究をする中で、関連するANGPTL2が老化にも関連していると分かり、掘り下げて研究を進めたという。
すると、血液検査でANGPTL2が高い人は、糖尿病や心臓・血管の病気のリスクが高いことが明らかになった。
熊本大学では、7~8年前からANGPTL2の検査ができるようになっているという。
今後、老化のメカニズムが解明されてくるにつれて、思いも寄らない老化予防の手段が登場する可能性がある。