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再生医療連載Vol.3 エクソソームとはそもそも何か──第22回日本再生医療学会総会の会議を通して考える

カレンダー2023.4.30 フォルダー連載・コラム

ポイント

  • 高品質なエクソソームを抽出し、その特性を安定化させることは、依然として難しい
  • エクソソームの統一的な定義があいまいで、エクソソーム製剤に関する規制がない
  • エクソソームの利用を考える際には受ける治療が本当は何かを知っておくと良い
注射。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

注射。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 3月に開催された第22回日本再生医療学会総会で、エクソソームに関するカンファレンスが開催された。エクソソームとは、細胞から放出され、脂肪層に包まれた小さな粒子。細胞が健康でいるための大切なものが含まれている。エクソソームと呼ばれるものが美容医療クリニックでも提供されることが増えているが、実際に本当にエクソソームと呼ばれるものはまだないようだ。それはいったいどういうことか、学会での専門家の話から解き明かしていく。

世界中で開発が急速に進むエクソソーム

研究が続いている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

研究が続いている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 再生医療学会が開催したシンポジウムでは、細胞内に存在する小さな粒子で、医療やヘルスケアに活用できる「エクソソーム」について、専門家が解説していた。

 会議の中では、最初に、東京医科大学・医総研・分子細胞治療研究部門教授の落谷孝弘氏がエクソソーム研究の進展について説明した。

 「国内では、体内からエクソソームを取り出して、これを調べることで、がんを診断する方法の研究が進んでいる。エクソソームは細胞から放出されているために、これを調べることで体の状態を知る重要な手掛かりになる」

 さらに、国内外の研究グループが、エクソソームがさまざまな病気の治療薬になる可能性を検討している。一例としては、体の腫れや発熱を引き起こし、病気の悪化につながる「炎症」を抑えるエクソソーム療法の可能性が考えられている。

 既にエクソソームは医療において多くの利点が期待され、実際に実用化に向けた開発が急速に進んでいるのが現状である。

 一方で、解決すべき課題も多い。

 「高品質なエクソソームの入手や治療への利用を規制することには課題がある。エクソソームは生きた細胞から得られるため、その性質を一定に保つことは難しい」(落谷氏)

 さらに、エクソソームには、体の状態を変化させる遺伝情報を伝達する機能がある。このほかにも複数の成分を含むため、思わぬ変化をもたらす可能性もあり、安全性の懸念も解決されていない。

エクソソームは研究の途中に過ぎない

エクソソームの品質や安全性をめぐる課題は多い。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

エクソソームの品質や安全性をめぐる課題は多い。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 会議での議論を踏まえると、エクソソームは有望であるものの研究の途中段階にあると言っていい。

 現在、クリニックで提供されているエクソソームもそのような研究段階にあるものが実験的に使われている。

 しかも、日本の多くの美容医療クリニックでは、治療法として「エクソソーム」を提供しているが、実際には「幹細胞培養上清」というものである場合が多い。これは幹細胞を培養したときに分泌されるエクソソームが含まれていると考えられるが、純粋なエクソソームとは異なっている。

 落谷氏は、「培養上清はエクソソームではない。さまざまな細胞からの副産物が含まれており、意図しない物質も含まれている。そのなかに果たしてエクソソームが何%あるか分からない」と述べた。

 前述したように、エクソソームはまだ法律で規制されておらず、医薬品として承認されていない。美容医療クリニックで再生医療のような形で使われていることがあるが、細胞を使用していないので再生医療とも別物になる。規制がないということは、適切な監視を受けることがないとも言える。

日本の「エクソソーム報告書」は世界初

科学委員会報告書「エクソソームを含む細胞外小胞(EV*)を利用し た治療用製剤に関する報告書」。出典/PMDA科学委員会

科学委員会報告書「エクソソームを含む細胞外小胞(EV*)を利用し た治療用製剤に関する報告書」。出典/PMDA科学委員会

 このような背景の下で作られたのがエクソソームに関連した報告書だ。その内容はヒフコNEWSで既に紹介したが、エクソソームの最近の動向を受けて政府機関PMDAの科学委員会で作られたもの。その情報はかなり専門的だが、一般の人がエクソソームとは何かを知る一つのヒントになればと記事にしたものだ。

 一方で、逆に言えば、エクソソームについては、専門家の間でも世界的に認知されている明確な説明書がないのが現状になっていた。日本が作成した報告書は世界初となる。

 この報告書は、エクソソームが炎症を抑えることで病気を治療する可能性があることなどを示している。しかし、エクソソームを利用するためのベストプラクティスについてはまだコンセンサスが得られていないことも読み取れる。不純物の除去方法、アレルギーを引き起こす可能性の有無、性質の安定化方法など、さまざまな問題が残っている。

 こうした課題は美容医療で活用する上でも当然考えていかなければならない。

純粋なエクソソームを取り出すのは難しい

エクソソームは細胞から分泌される。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

エクソソームは細胞から分泌される。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 シンポジウムのタイトルは、「エクソソームの臨床応用に向けた取り組み──エクソソーム製剤の品質管理戦略」だったが、その名前の通り、エクソソーム製剤をどう安定的に作るかが議論されていた。細胞から放出される物質の中からエクソソームだけを取り出すために、遠心分離器という機会やフィルターなどを使って分離する方法が検討されている。

 エクソソームを純粋な状態で取り出す方法はまだない。これは、エクソソームを作ること自体、ハードルが高いのである。

 エクソソームは健康増進や病気の治療に役立つ可能性を秘めているが、エクソソームとは何か、どのように作られるのか、専門家の間でもまだ混乱がある。

 一部の美容クリニックではエクソソームを提供していると説明しているが、再生医療学会のディスカッションを参考にすると、今のところ使用する種類に統一性がなく、安全性を考慮する必要があると言えるだろう。多くは幹細胞培養上清が使われている。

 関連する治療を検討するときには、このような背景も知っておく必要があるのだろう。

参考文献

エクソソームの応用を加速させるか、PMDA科学委員会が「EV」の品質と安全性に関する報告書を発表
https://biyouhifuko.com/news/japan/798/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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