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Netflix『ダウンタイム』で描かれた「脂肪注入後の失明」は起こり得る 海外61例を分析、多くは1時間以内に発症 視力低下は緊急対応が重要

カレンダー2026.9.28 フォルダー連載・コラム
白杖を使って横断歩道を歩く人の足元。

美容目的の注入施術では、まれながら視力障害が報告されており、予防と緊急対応体制が重要となる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

 Netflix『ダウンタイム』では、顔への脂肪注入後に失明する人物が描かれている。実際に、こうした合併症は起こり得るのか。

 ドイツなどの研究グループが過去の報告を調べ、2023年に論文発表しており、顔への脂肪注入後に動脈が詰まった61例が確認された。失明のほか、脳卒中や死亡に至ったケースも含まれていた。

 2025年のレビューでは、美容目的の注入施術後に視力低下が起きた場合、迅速な対応が重要と指摘された。

61例を分析、症状の66%は注入後1時間以内

患者の顔の近くで、注射器を使って美容施術を行う手元のイラスト。

顔への注入施術後に突然の視力低下などが起きた場合、速やかな救急対応が重要となる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

  • 脂肪注入後の失明は実際に報告→ ドイツの報告によれば、顔への自家脂肪注入後に動脈塞栓を起こした61例が確認され、永久的な視力障害や神経障害、死亡例も含まれていた。
  • 症状は早く出ることが多い→ 発症時期が分かった50例のうち66%は、注入直後から1時間以内に視力低下などの症状が現れていた。
  • 眉間やこめかみ、額などで報告→ 顔の血管は目や脳につながっており、脂肪が動脈内に入ると眼動脈や脳血管を塞ぐ可能性がある。

 自家脂肪注入は、自分の体から採取した脂肪を顔に注入し、頬やこめかみなどのボリュームを補う方法だ。『ダウンタイム』では、Kōki,氏が演じる鴻池紗良が、この施術を受けた後に失明する展開が描かれている。こうした描写は、医学的にも起こり得るのだろうか。

 重い合併症につながるのは、注入した脂肪が誤って動脈内に入った場合だ。顔の血管は目や脳につながる血管と複雑につながっており、注入時の圧力で脂肪が血管内を逆方向に進むと、眼動脈や脳の動脈を塞ぎ、網膜や脳への血流が途絶えることがある。

 2023年、ドイツの研究グループは、顔への自家脂肪注入後に動脈塞栓を起こした過去の報告を調べ、39報、計61例を確認した。

 注目したいのは、症状の重さと発症の早さだ。

 症状が出た時期が分かった50例のうち、33例、66%は注入直後から1時間以内に発症していた。症状がその後どうなったか確認できた54例では、32例で永久的な視力障害が残り、12例では麻痺などの神経障害が残った。『ダウンタイム』では両眼の視力を失う人物が描かれているが、医学文献にも両眼の視力喪失例は報告されている。

 さらに4例では視力障害と神経障害の両方が残り、6例は死亡していた。

 注入部位では、眉間が16例で最も多く、複数の顔面部位への注入も16例だった。次いで、こめかみが10例、額が9例と続いた。ほかに、ほうれい線や頬などの顔の中心部が5例、目の周囲が3例、鼻が2例だった。

 ただし、これは各部位で合併症が起こる確率を示した数字ではない。脂肪注入を受けた人全体のうち、実際にどの程度の頻度で起こるのかもはっきりしていない。

 顔への脂肪注入では、まれながら失明や脳卒中につながる血管塞栓が起こることがあり、症状は施術直後から現れる場合がある。この点は、施術を受ける側も知っておきたい。

緊急の対応が必要に

医療従事者が患者の顔に注射器で施術を行っているイラスト。

顔への脂肪注入などの美容施術では、まれに血管塞栓による視力障害など重い合併症が起こることがある。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)

  • 視力低下は緊急対応が重要→ 網膜への血流が短時間途絶えるだけでも不可逆的な障害につながる可能性があり、迅速な評価と搬送が求められる。
  • 脂肪には分解薬がない→ ヒアルロン酸のように分解酵素で溶かす方法がなく、自家脂肪による塞栓は治療が難しい。
  • 目だけでなく脳卒中としても対応→ 突然の視力低下や片側の麻痺などがあれば、眼科だけでなく神経系の評価や画像検査を含む救急対応が必要になる。

 重要なのは、視力低下などの症状が起きたときの対応だ。自家脂肪による塞栓への対応が難しい理由の一つは、脂肪そのものを分解する薬剤がないこと。ヒアルロン酸には分解酵素「ヒアルロニダーゼ」がある一方、脂肪塞栓には同じような分解薬がない。

 2025年に発表されたレビューでは、ヒアルロン酸や自家脂肪など、美容目的の注入施術後に起きる視力障害への対応が整理された。

 レビューでは、動物研究などから、網膜への血流が12~15分途絶えただけでも元に戻らない障害が起こり得ると説明している。90分以内に血流が戻れば一部回復する可能性がある一方、4時間を超えると深刻で不可逆的な障害につながるとされる。

 そのため研究グループは、美容注入後に突然の視力低下や片側の手足の麻痺などが起きた場合、目だけの合併症として対応するのではなく、脳卒中としての対応も必要ととらえる考え方を示している。

 脳卒中への対応が可能な医療機関への速やかな搬送、眼科と神経系の評価、画像検査などを早期に行うことを提案している。

 ヒアルロン酸の場合にはヒアルロニダーゼによる分解が試みられているほか、血流を再開させるための血栓溶解療法などが検討されることもある。ただし、美容注入による視力障害について、広く確立された治療法はまだない。

 だからこそ、予防に加え、万一視力低下や神経症状が起きたときに、すぐ救急医療につなげられる準備が重要になる。

参考文献

Moellhoff N, Kuhlmann C, Frank K, et al. Arterial Embolism After Facial Fat Grafting: A Systematic Literature Review. *Aesthetic Plastic Surgery*. 2023;47(6):2771–2787. doi:10.1007/s00266-023-03511-y.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10784353/

Madala S, Davuluru S, Li J, Gluckstein J, Martin J, Khatibi K, Zhang-Nunes S. Management of vision loss associated with complications of cosmetic filler injections. *Front Ophthalmol (Lausanne).* 2025;5:1568370. doi:10.3389/fopht.2025.1568370.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40291837/

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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