美容医療とクーリング・オフ Vol.1 契約を解除できるケースとその条件
ポイント
- クーリング・オフは「1カ月超・5万円超」の契約に8日間適用される
- 消費者の自由な選択によって、単発の治療が「1カ月超・5万円超」を超えても適用外
- 「1カ月超・5万円超」を超える来院や治療を強制されている場合は適用
「クーリング・オフ」という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、それはいったいどういうものなのか。また、美容医療にも関連しているが、どのような場合に当てはまるのか。連載で見ていく。第1回は、クーリング・オフが可能なケースとその条件について。
そもそもクーリング・オフとは
国民生活センターの発表によると、「クーリング・オフは、いったん契約の申し込みや契約の締結をした場合でも、契約を再考できるようにし、一定の期間であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりできる制度」とされている。
クーリング・オフの対象となる業種には、以下のようなものがある。
- 特定継続的役務提供(エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービス)
- 訪問販売(キャッチセールス、アポイントメントセールス等を含む)
- 電話勧誘販売
- 訪問購入(業者が消費者の自宅等を訪ねて、商品の買い取りを行うもの)
上の例の場合、クーリング・オフできる期間は、申込書面または契約書面のいずれかを受け取った日から起算して8日間とされている。また、書面に不備があるときは、所定の期間を過ぎていてもクーリング・オフできる場合があるという。
クーリング・オフになる条件
医療脱毛などを含む一部の美容医療サービスは、期間が1カ月を超え、金額が5万円を超える場合は特定商取引法の規制対象となる「特定継続的役務提供」とされ、クーリング・オフできるとされている。
またクーリング・オフ期間を過ぎていても、契約期間内であれば、決められた金額を支払うことで中途解約ができる。
- 特定継続的役務提供とクーリング・オフの対象
医療脱毛などの美容医療サービス → 医療脱毛など一部の美容医療サービスは、期間が1カ月を超えて、金額が5万円を超えると、特定商取引法の規制対象になる「特定継続的役務提供」とされる。その場合、クーリング・オフができる。
- 中途解約の条件
契約期間内の中途解約 → もしクーリング・オフ期間を過ぎても、契約期間内であれば、決められた金額を支払うことで中途解約ができる。
しかし、実際に契約したり施術を受けたりする上では、様々なケースが存在するようだ。
どのような場合、クーリング・オフは可能なのだろうか。消費者庁から発表されたガイドをもとに解説していく。
治療が結果的に「1カ月超・5万円超」
【ケース1-1】
コース契約をせず、「1カ月超・5万円超」に該当しない範囲での治療と支払いを繰り返すうちに、結果として治療が1カ月以上にまたがり、総額が5万円を超えた場合。
解説:
コース契約せずに、その都度治療を行う場合 → 「治療の継続を消費者が自由に選択できる場合」は、特定継続的役務提供に該当しない。つまり、クーリング・オフできないといえる。
治療の継続について消費者の選択の自由が妨げられていると認められる場合 → このときには特定継続的役務提供とみなされ、クーリング・オフできる場合があるようだ。
この場合、初回の治療の契約が行われる時点において、特定商取引法で規定されている書面交付等の義務や勧誘規制等が課されることになる。
初回において書面交付が行われていなかった場合 → 消費者の申し立てにより「1カ月超・5万円超」に該当すると判断された時点で、書面交付を受けられる可能性がある。
その場合は、初回から過ぎた日程はカウントされず、書面が交付された日から8日間がクーリング・オフの対象期間となる。
【ケース1-2】
「1カ月超・5万円超」に該当しない範囲でコース契約をして治療を行い、期間の延長や内容の追加で結果的に「1カ月超・5万円超」となった場合。
解説:
基本的には、期間の延長や内容の追加は「新たに契約が締結された」ことと見なされる → しかがって、延長や追加部分を、最初の契約内容の延長として足していくことはできないようだ。
当初から、当然のごとく契約の延長が予定されている場合など、追加された契約が当初の契約と実質的に一体と判断される場合 → 規制の対象と判断され、当初の時点で書面の交付等の義務が課される可能性がある。
この場合も同様に、消費者の申し立てにより書面交付を受けられる可能性があるようだ。初回から過ぎた日程はカウントされず、書面が交付された日から8日間がクーリング・オフの対象期間となる。
「実質的に一体」の契約
【ケース1-1】で解説したように、「治療の継続を消費者が自由に選択できない場合」は、「実質的に一体」と判断されるようだ。
以下の場合は「実質的に一体」とされる可能性がある。
- 入会金、施設利用料等の名目で高額の初期費用を徴収している場合 → その費用がその後の複数回にわたる治療の対価の一部であると判断されるならば実質的に一体とされる可能性がある。
- 「次回も来院しなければ後遺症が残る可能性がある」「当院でなければ治療できないので、他の病院にいってはダメ」などと告げている場合 → 消費者に対し継続的に治療を受けることを事実上強制するようにとらえられ、実質的に一体と見なされる可能性がある。
- 契約の当初時点において、例えば1カ月を超える期間をかけて使用される分量の医薬品(美容を目的とするものに限る)や健康食品等を関連商品として販売し、医師の指導の下で服用等を行うものとしている場合 → 関連商品の販売が治療と一体をなすと判断される可能性がある。
次回の治療に関連するアクション
【ケース2-1】
その都度治療を行う場合 → 初回の治療時に「一般的には2カ月おきの治療を5回程度行うことで治療が完結する」など、治療の見通しを伝えられた場合。
解説:
情報提供として治療の方針・見通しを伝えられただけなら、それが直ちに消費者の選択の自由を妨げていることにはならない。 → 結果的に「1カ月超・5万円超」となった場合も、「特定継続的役務提供」には該当しないといえるだろう。よって、クーリング・オフできない可能性が高い。
治療に関する同意書の提出が求められる場合 → 初回の治療を受けることのみに同意を求める内容であれば、以降の来院や治療について拘束していないと言える。
同一の病院で継続的に治療を受けることや、複数回の治療費を払うことについてあらかじめ同意させるような場合 → 「特定継続的役務提供」に該当する可能性がある。その場合は、クーリング・オフできることがある。
【ケース2-2】
「次は○○(1カ月以上)後に来てください」と告げられて治療の予約をした場合。
解説:
「次期の治療として、適当と考えられる日程に関する情報提供が行われた」というポイントが明確であれば、消費者の選択の自由を妨げているとはいえない。 → この予約により治療を継続しても「特定継続的役務提供」には該当せず、クーリング・オフできない可能性が高い。
ケース2-3
一定期間(1カ月以上)の経過後に、治療の経過観察を行うために来訪を要請された場合
解説:
消費者にとって当該病院等を選択して治療を受けることが「強制されている」とまで言えないことから、消費者の選択の自由を妨げているとはならない。 → 「特定継続的役務提供」には該当せず、クーリング・オフできない可能性が高い。
自己判断より専門家へ相談
今回紹介したケースについても、個々の状況によって詳細が異なる場合が考えられる。クーリング・オフしたい時や、施術及び契約の内容に疑問がある際は、専門家へ質問する方法がある。
全国共通の電話番号「消費者ホットライン」に電話すると、地方公共団体が設置している身近な消費者生活センターや消費生活相談窓口を案内してくれる。
「消費者ホットライン」188(局番なし)
通話料金の負担のみで専門家に相談できるだけでなく、クーリング・オフに必要な書面の書き方などを教えてもらうこともできるようだ。必要に応じて、消費者生活センターへ実際に出向いても良いだろう。
美容医療やエステなど、審美に関わる治療や契約については周囲に相談しにくい場合もあるかもしれない。自己判断をせず、専門家とともに解決の道を探ることが賢明だろう。
参考文献
クーリング・オフ(国民生活センター)
https://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/coolingoff.html
美容医療サービスはクーリング・オフできる?(国民生活センター)
https://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2021_05.html#:~:text=%E5%9B%9E%E7%AD%94,%E4%B8%AD%E9%80%94%E8%A7%A3%E7%B4%84%E3%82%82%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
特定継続的役務提供(美容医療分野)Q&A(消費者庁)
https://www.no-trouble.caa.go.jp/pdf/20171213ac01.pdf
SNS広告経由の美顔器購入でトラブル、説明の分かりづらさには問題のリスク、国民生活センターがトラブル解決事例を公開
https://biyouhifuko.com/news/japan/4998/
シミ取り施術での問題発生、国民生活センターが返金トラブルを詳細解説
https://biyouhifuko.com/news/japan/3684/
当日の高額コース契約&施術、キャンセル時の返金トラブル、国民生活センターが経緯を明らかに
https://biyouhifuko.com/news/japan/3627/
「エステティックサービスの解約・返金相談急増 その施術本当に必要?」
https://biyouhifuko.com/news/japan/304/
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