
奥謙太郎(おく・けんたろう)氏。ヒルズグレイスクリニック(HILLS GRACE CLINIC)院長、医療法人社団光悠会理事長。(写真/編集部)
奥謙太郎(おく・けんたろう)氏
ヒルズグレイスクリニック院長
- 研究・臨床・教育が柱→ 美容医療も医療である以上、仮説を立て、検証し、臨床と教育につなげる必要がある。
- 根拠を積み上げる→ なぜ効果が出るのか、どう安全性を高めるのかを考え、データとして蓄積することが重要。
- 臨床だけでは不十分→ 目の前の治療だけでなく、治療の考え方を共有して発展させることが求められる。
──診察と診断の先には、治療をどう組み立てるかという課題がある。
奥氏: 医療として治療を行うには、まず仮説を立て、その仮説が正しいかどうかを検証し、その結果を臨床に生かしていく必要があります。その作業が研究にもつながります。
そして、臨床で得た知見を次の世代に伝えていくことが教育です。医療は、研究、臨床、教育の3つがあって初めて成り立つものだと思っています。
今の美容医療では、臨床だけに重きを置いてしまっている部分があります。目の前の治療を行うことはもちろん大切です。ただ、それだけでは、医療として十分に発展していきません。なぜ効果が出るのか、どうすれば安全性を高められるのかを考え、検証し、共有していくことが必要です。
──美容医療では、そうした検討をさらに積み上げていく必要がある。
奥氏: そうです。例えば、この治療はどのような過程で効果が出るのか。どのようなエネルギーを使い、どの組織に作用するのか。その結果、どのような変化が起きるはずなのか。そうした仮説から、治療方針を組み立てることが必要です。
美容医療の分野では、こうした考え方をより広く共有し、治療の土台として積み上げていくことが必要だと思います。だからこそ、医師として、施設として、基礎的な考え方に基づいた美容医療を示していきたいと考えています。
日本の医療レベルが高いと言われる理由の一つは、保険診療の領域で研究がしっかり行われてきたことです。同じことは、美容医療にも求められています。データを蓄積し、検証し、発信し続けていくことが必要です。
──安全性を高めるためにも、治療の根拠が必要になる。
奥氏: 医療の大原則は、安全性を最優先することです。そのためには、自分が行おうとしている治療に、どのような根拠があるのかを考える必要があります。
「やってみたらうまくいった」ではなく、「こういう原理があるから、うまくいくはずである」と考える。その上で実際に試し、結果を確かめる。だからこそ、治療として成り立つのだと思います。この流れをなくしてはいけません。
うまくいかなかった場合も、機器側に問題があるのか、最初の考え方に問題があるのか、治療方法に問題があるのかを考える必要があります。そこを一つひとつ確かめていくことが、研究だと思っています。
──美容医療では、治療の根拠よりも、見せ方や新しさが先に伝わりやすい面もある。
奥氏: そうした傾向は、日本に限ったことではないと思います。アジアを含めた環太平洋地域でも、美容医療の見せ方や伝え方が前面に出やすい面があります。
各国のリーディングドクターも、そうした流れをそのままにするのではなく、治療の根拠や安全性を重視する方向へ進めていく必要があると感じています。安全性を担保しながら治療効果を高めるには何が必要なのか。そこを考えると、臨床だけでなく、研究と教育が必要になります。
今は、研究、臨床、教育の3つの柱をどう結びつけるかを考え始めている段階だと思います。美容医療をより確かな診療として発展させるには、この3つを切り離さず、一つの流れとして考える必要があります。

奥謙太郎(おく・けんたろう)氏。ヒルズグレイスクリニック(HILLS GRACE CLINIC)院長、医療法人社団光悠会理事長。(写真/編集部)
- 機器の原理を理解→ 新しい機器や注入剤は、使えるから使うのではなく、作用する組織や機序を理解する必要がある。
- 仮説と検証が必要→ 高周波なども、どこにエネルギーが届き、どんな変化が起きるかを考えて治療を組み立てる。
- 学会は教育の場→ ビフォーアフターだけでなく、仮説、結果、安全性の見方を共有する場として重要になる。
──新しい機器や注入剤が増えるほど、使い方を考える必要がある。
奥氏: 現在は、機器や注入剤の開発が速く進んでいます。高周波、超音波、レーザーなど、使えるエネルギーベースデバイスも増えています。
ただ、使えるから使う、ということではありません。なぜそれを使うのか。どういう症状に、どのように使うべきなのか。それを考えるのが医師の仕事です。どこかから出てきた情報をそのまま受け入れて使うだけでは、医学とは言えません。
例えば、新しい高周波機器が出たとします。その時には、まずその機械が何なのかを理解する必要があります。高周波にもいくつかの種類があり、どこでエネルギーが発生し、どこをターゲットにしているのかを見なければいけません。
──高周波なら、高周波の原理を理解する必要がある。
奥氏: 高周波では、水分を多く含む組織にどう熱が発生するかを考えます。そうすると、水分子がどこにあるのか、どの組織に多いのかを考えます。どのエネルギーを与えれば、どのような結果が得られるはずなのか。そこから治療法を構築していきます。
そして、実際に試し、仮説通りかを確認します。予想通りいけばよいですが、そうでなかった場合には、その理由を検証します。
この流れがなければ、医学として成り立たないと思っています。研究で考えたことを臨床に持っていき、その結果を正しい形で整理する。さらに、それを他の医師が学べるように教育していく必要があります。
──治療の考え方を広げていくことにも意味がある。
奥氏: そうです。安全で効果的な治療を、より多くの治療を受ける方に届けるには、治療の考え方を共有し、広げていくことも必要です。そのためには、医師が学べる教育の場が必要になります。
研究、臨床、教育は、別々のものではありません。一つの道でつながっています。どこか一つだけがうまくいけばよいものではありません。
日々の診療でも、研究は特別なものではありません。一人ひとりの診察、診断、治療、フォローの流れの中で、今何をしようとしているのか、どのような結果が得られるはずなのかを考えます。そして結果が違えば、なぜ違ったのかを考える。そのサイクルを回すことが大事です。
──学会も、治療の考え方を共有する場になる。
奥氏: 学会の本来の目的の一つは教育です。ビフォーアフターを見せて「すごいですね」で終わる場ではないと思っています。
こういう仮説があり、こういう実験系を立て、こういう結果が得られた。そうした内容を共有し、いろいろな医師の視点で評価していく。その過程を通じて、参加した医師が治療の考え方や安全性の見方を学べることが、学会の大きな役割だと思います。
美容医療では、学ぶための場をさらに整えていく必要があります。学会で講演することも必要ですし、機器の使い方を考えていくことも大切です。論文を出すことも重要です。
美容医療を、見せ方や新しさだけで終わらせず、確かな診療として積み上げていく。そのためには、研究、臨床、教育の流れをきちんと作ることが必要だと考えています。(続く)
プロフィール

奥謙太郎(おく・けんたろう)氏。ヒルズグレイスクリニック(HILLS GRACE CLINIC)院長、医療法人社団光悠会理事長。(写真/編集部)
奥謙太郎(おく・けんたろう)氏
ヒルズグレイスクリニック院長、医療法人社団光悠会理事長。福島県立医科大学卒業後、大学病院や関連病院で皮膚科研修を行い、皮膚科および美容皮膚科クリニックの院長を歴任。2015年4月、あざみ野ヒルズスキンクリニックを開院。2018年4月に医療法人社団光悠会を設立し、2022年3月、ヒルズグレイスクリニックを開院した。皮膚科医として、レーザーや高周波、超音波などのエネルギーベースデバイスを用いた美容医療、画像診断、細胞・組織の状態に基づく診療に取り組む。米国レーザー医学会(ASLMS)フェロー。レーザー機器や各種美容医療機器を用いた治療法の研究、論文発表、国内外での講演、医師向け教育にも力を入れている。
