
奥謙太郎(おく・けんたろう)氏。ヒルズグレイスクリニック(HILLS GRACE CLINIC)院長、医療法人社団光悠会理事長。(写真/編集部)
奥謙太郎(おく・けんたろう)氏
ヒルズグレイスクリニック院長
- シミ治療は2つの視点→ 細胞が不要なものを処理できる状態を作ることと、レーザーでメラニンを砕くことを分けて考える。
- レーザーにも選択理由→ 波長やパルス幅を見ながら、メラニンを狙い、周囲へのダメージを抑える。
- 熱の入れ方が重要→ 高周波や超音波では、どの層にどの程度の熱を加えるかを見極める必要がある。
──シミ治療でも、細胞の状態とレーザーの作用を分けて考える。
奥謙太郎氏: シミ治療で大切なことは、大きく二つあります。一つは細胞生物学、もう一つはレーザーの物理学です。
シミは、本来は排出されるはずのものが堆積した状態です。取り除けるはずだったものが、取り除けなくなったから残っている。そう考えると、治療には二つの方向があります。
一つは、自分で不要なものを捨てられる状態を作ること。もう一つは、排出されやすい大きさまで砕くことです。
──まず、細胞が不要なものを処理できる状態を作る必要がある。
奥謙太郎氏: メラニンを作る工場はメラノサイトですが、その活動には線維芽細胞も関わります。線維芽細胞の状態が悪くなると、メラノサイトの活動が高まりやすくなります。
ですから、まず線維芽細胞の活動度を上げ、メラノサイトの過剰な活性を抑えることが大事です。その上で、すでに堆積しているメラニンをレーザーで砕きます。
この時も、闇雲に壊すのではありません。周囲まで大きく壊すのではなく、ターゲットとなる黒いものをできるだけピンポイントで狙う。壊れているところだけを攻撃できれば、再建はしやすくなります。
──レーザーの選択にも理由がある。
奥謙太郎氏: レーザーは、波長とパルス幅で考えます。波長は、何に反応しやすい光かを決める要素です。シミ治療では、黒いもの、つまりメラニンを主にターゲットにする波長を選びます。
一方、パルス幅は、レーザーをどのくらい短い時間で照射するかを表します。周囲へのダメージをできるだけ抑えるには、ターゲットに合ったパルス幅を選ぶ必要があります。
その意味で、私はピコ秒アレキサンドライトレーザーを好んで使っています。メラニンを細かく砕き、それを周囲の細胞が押し出して捨てていく。その流れを作ることが、シミ治療の一つの考え方です。
ただし、同じ症状でも、20歳と85歳では細胞の活動度が違います。同じ治療をして、同じ結果が出るわけではありません。どの世代の方でもよい結果を出すには、まず細胞の活動度を上げることを考えてから治療に進む必要があります。
──エネルギー治療では、熱をどう入れるかを見極める必要がある。
奥謙太郎氏: 高周波や超音波などのエネルギーベースデバイスでは、熱によって組織を刺激することを考えます。ただ、その時に大事なのは、どの程度の熱を、どの層に、どのように加えるかです。
刺激させるために使った熱が、細胞にネガティブな影響を与えることもあります。線維芽細胞は、あるレベルまでは熱で活性化します。しかし、一定の温度を超えると、活性を失ってしまうことがあります。
コラーゲンを縮めることは大事です。ただ、細胞を傷めるほどのエネルギーを入れてしまっては意味がありません。必要なのは、コラーゲンを縮める熱は入れながら、細胞の働きを損なうような熱にはしないことです。その範囲を見極めながら治療を行っています。

奥美香子(おく・みかこ)氏。ヒルズグレイスクリニック(HILLS GRACE CLINIC)副院長。(写真/編集部)
奥美香子(おく・みかこ)氏
ヒルズグレイスクリニック副院長
- 機器と注入を組み合わせる→ 熱による刺激と、注入によるメカニカルストレッチを組み合わせて細胞に働きかける。
- 注入製剤も使い分け→ ヒアルロン酸、PN製剤、アミノ酸、ペプチドなどを、肌や細胞の状態に応じて選ぶ。
- 全体像を見て治療→ シミやシワだけを個別に見るのではなく、炎症、栄養、細胞活動などを含めて判断する。
──注入治療との組み合わせにも意味がある。
奥謙太郎氏: エネルギーベースデバイスでは、熱を与えることで細胞の活性に働きかけることができます。一方、注入製剤では、線維芽細胞に物理的なストレッチをかけることができます。
線維芽細胞にとって、引き伸ばされる刺激は重要です。注入によるメカニカルストレッチと、機器による適切な熱を組み合わせることで、細胞の活性度を高めることを考えています。
こうした考え方を研究としてまとめ、英語論文として発信しています。様々な肌タイプに対応する必要がありますので、日本でこういう治療を行っているということ海外に示すことは重要です。海外で発表すると、実際の診療ではどう使うのか、何に気をつけるのかという質問も多く出ます。
──その考え方を、具体的な治療法にも落とし込んでいる。
奥謙太郎氏: 私が取り組んでいる治療には、これまで前例がなかったものもあります。これは、理にかなった治療を組み立てていきたいと考えた結果です。
例えば、高周波には、モノポーラーとバイポーラーがあります。モノポーラーは、深いところを加熱するために使います。バイポーラーは、浅いところを引き締めるために使います。
モノポーラーを使う時には、深い層のどこを温めると効果が出るのかを考えます。高周波では、水分を多く含む組織にどう熱が入るかを考えるため、水分を多く含む線維組織を狙うことが効率的です。皮下組織の中にも、線維組織が多い場所があります。
一方、バイポーラーでは、コラーゲンをどの方向に縮めるかを考えます。シワができやすい方向や、皮膚のテンションラインを見ながら、伸びてしまったコラーゲンを効率よく収縮させる方向を考えます。
こうして、深い層への熱の入れ方と、浅いところでコラーゲンを収縮させる方向を組み合わせる。その考え方を実際に研究として確認し、私が「Mono-Bi CrossLIFT Technique」と呼んでいる治療につなげています。これは商標も取得しています。
──注入製剤も、細胞の状態に合わせて考える。
奥美香子氏: 注入製剤も、何を入れるかだけではなく、細胞の状態に合わせて考えるようにしています。
例えばヒアルロン酸には、架橋型と非架橋型があります。非架橋型では、一時的な保水効果が期待できます。一方、架橋型のヒアルロン酸をスキンブースターとして使う場合には、保水だけでなく、シグナル伝達や線維芽細胞の活性化にも関わると考えています。
そのほかにも、ポリヌクレオチド(PN)製剤や、アミノ酸、ペプチドを含む製剤などがあります。それぞれ役割が違います。抗炎症に関わるものもあれば、線維芽細胞が働くために必要な成分を補うものもあります。
──では、そうした製剤をどのように使い分けているのか。
奥美香子氏: 線維芽細胞の働きが低下している状態で成分だけを補っても、建築現場に働き手がいないのに、資材だけが届くような状態になります。だからこそ、その方の今の状態に合わせて使い分けることが大切です。
また、線維芽細胞を刺激する力が長く働く製剤もあります。ただ、刺激すればよいというわけではありません。刺激が強すぎれば、線維化に寄りすぎる可能性もあります。
単に活性化させればよいのではなく、バランスが大切です。
──最後は、その方の肌の状態を全体として見ることが大切になる。
奥美香子氏: 肌の状態は、一つの要素だけで決まるものではありません。炎症、栄養、細胞の活動、外的刺激など、いろいろなものが関わっています。
シミならメラニン、シワならコラーゲンというように、一部だけを見るのではなく、もっと俯瞰的に全体像を見ながら治療することが大切だと思います。
奥謙太郎氏: 美容医療では、機器や製剤の名前が先に出やすいですが、診断し、細胞や組織の状態を見て、どの層に何をするべきかを考える、というのが本来求められる医療だと思います。皮膚科と形成外科の視点を組み合わせることで、その精度を高め、その方の状態に合った治療を組み立てる。こういった医療としての美容が今後さらに大切になっていくと思います。(終わり)
プロフィール

奥謙太郎(おく・けんたろう)氏。ヒルズグレイスクリニック(HILLS GRACE CLINIC)院長、医療法人社団光悠会理事長。(写真/編集部)
奥謙太郎(おく・けんたろう)氏
ヒルズグレイスクリニック院長、医療法人社団光悠会理事長。福島県立医科大学卒業後、大学病院や関連病院で皮膚科研修を行い、皮膚科および美容皮膚科クリニックの院長を歴任。2015年4月、あざみ野ヒルズスキンクリニックを開院。2018年4月に医療法人社団光悠会を設立し、2022年3月、ヒルズグレイスクリニックを開院した。皮膚科医として、レーザーや高周波、超音波などのエネルギーベースデバイスを用いた美容医療、画像診断、細胞・組織の状態に基づく診療に取り組む。米国レーザー医学会(ASLMS)フェロー。レーザー機器や各種美容医療機器を用いた治療法の研究、論文発表、国内外での講演、医師向け教育にも力を入れている。

奥美香子(おく・みかこ)氏。ヒルズグレイスクリニック(HILLS GRACE CLINIC)副院長。(写真/編集部)
奥美香子(おく・みかこ)氏
ヒルズグレイスクリニック副院長、形成外科医。株式会社ヒルズプレミアム代表取締役。福島県立医科大学卒業後、大学病院やがんセンターなどで形成外科、美容皮膚科、美容外科研修を行い、2015年4月、あざみ野ヒルズスキンクリニック副院長に就任。2022年3月、ヒルズグレイスクリニックの開院に伴い、副院長に就任した。形成外科医として、注入治療を中心に、各種注入製剤と機器治療を組み合わせた美容医療に取り組む傍ら、注入指導医として医師向け教育を行っている。美容医療の持つ社会学的意義に関する研究を大学施設との共同で行うなど、臨床診療にとどまらない活動を行っている。
