肥満症や糖尿病の治療に使われるGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)「セマグルチド」が、生物学的な老化の進行を抑える可能性が示された。
米国カリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究グループが2026年5月に発表した。
体重減少だけではないGLP-1薬の働きを検証

GLP-1薬の体重減少の効果。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- セマグルチド→食欲や血糖値を調節するGLP-1の働きを利用し、肥満症や2型糖尿病の治療に使われる薬。
- 研究対象→HIV関連脂肪蓄積症の成人84人を対象に、セマグルチドとプラセボの影響を32週間比較した。
- 測定方法→血液細胞のDNAメチル化を調べ、老化速度や病気、死亡リスク、臓器の健康状態に関わる複数の指標を解析した。
セマグルチド(商品名オゼンピック、ウゴービ)は、食欲や血糖値を調節するホルモン「GLP-1」の働きを利用した薬。肥満症や2型糖尿病の治療に使われるほか、内臓脂肪の減少や心血管疾患のリスク低下につながることも報告されている。
こうした代謝や炎症への作用が、生物学的な老化にも影響するのではないかと注目されている。
暦の上での年齢とは別に、細胞や臓器の状態から推定する「生物学的年齢」の研究が進んでいる。その測定には、DNAに付く化学的な目印である「DNAメチル化」を調べ、老化の進み方を推定する「エピジェネティック・クロック」が使われる。
今回、研究グループは、腹部や臓器の周囲に脂肪が過剰にたまるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)関連脂肪蓄積症の成人を対象に、セマグルチドの影響を調べた。
HIV感染者では、治療によってウイルスが抑えられていても、慢性的な炎症や代謝異常などを背景に、生物学的な老化が早まることがある。
もともとの臨床試験には108人が参加し、セマグルチドのグループとプラセボのグループに無作為に分けられた。参加者は32週間にわたり、週1回の注射を受けた。
今回の追加解析では、試験開始時と32週後の血液がそろっていた84人を対象とした。内訳はセマグルチドのグループ45人、プラセボのグループ39人だ。
研究グループは血液細胞のDNAメチル化を測定し、老化速度や病気、死亡のリスク、臓器ごとの健康状態などに関連する複数のエピジェネティック・クロックを比較した。
臓器ごとの健康指標でも老化が遅く

時間の経過や寿命を象徴する砂時計。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 老化速度→セマグルチドのグループでは、老化速度を示す指標がプラセボのグループより9%低下した。
- 臓器への影響→炎症や血液、脳、心臓、腎臓、肝臓、代謝に関わる指標でも、老化が遅くなる方向の変化が見られた。
- 研究上の課題→対象はHIV関連脂肪蓄積症の人に限られ、一般の肥満症患者や健康な人への効果は今後の検証が必要。
解析の結果、セマグルチドのグループでは、複数の指標で生物学的老化の進行がプラセボのグループより遅かった。
老化速度を示す「DunedinPACE」では、セマグルチドのグループで老化の進行がプラセボのグループより9%遅かった。死亡や加齢関連疾患のリスクに関係する「PCGrimAge」でも、老化に関わる変化が抑えられていた。
炎症や、血液、脳、心臓、腎臓、肝臓、代謝の健康状態に関連する指標でも、幅広く老化が遅くなる方向の変化が確認された。
背景には、内臓脂肪の減少や代謝ストレスの改善、慢性的な免疫反応の抑制があると考えられる。GLP-1薬が各臓器に存在する一部の細胞の働きを変える可能性も指摘されている。
今回の結果は、セマグルチドが体重や血糖値だけでなく、老化に関わる複数の生物学的な仕組みにも作用する可能性を示している。
関連する追加研究では、HIV感染症と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患のある人にセマグルチドを24週間投与した。その結果、参加者の42%で生物学的老化の速度が低下し、該当者では肝臓脂肪の減少幅も大きかった。このほか、一部の参加者では、死亡リスクに関連する老化指標の改善や、DNAから推定したテロメア長の増加も見られた。
一方、対象はHIV関連脂肪蓄積症の人に限られ、観察期間も32週間と短い。一般の肥満症患者や健康な人にも同様の効果があるのか、効果がどの程度続くのかを明らかにするには、より大規模で長期間の臨床試験が求められる。
今後は、食事や運動、睡眠の改善と組み合わせることで、老化に関わる変化をさらに抑えられるかについても研究が進むとみられる。GLP-1薬が健康寿命を支える治療につながるのか、今後の検証が待たれる。
参考文献
New study shows popular GLP-1 weight loss drug may slow biological aging
https://www.universityofcalifornia.edu/news/new-study-shows-popular-glp-1-weight-loss-drug-may-slow-biological-aging
Corley MJ, Dwaraka VB, Pang AP, Labbato D, Smith R, Ross Eckard A, McComsey GA. Semaglutide slows epigenetic aging in a randomized trial of HIV-associated lipohypertrophy. Nat Commun. 2026 May 19;17(1):6606. doi: 10.1038/s41467-026-72861-3. PMID: 42156721; PMCID: PMC13381876.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42156721/
Corley MJ, Pang APS, Kitch DW, Kantor A, Sattler F, Belaunzaran-Zamudio PF, Brown TT, Landay A, Lake JE, Erlandson KM. Pilot study of epigenetic aging and treatment response to semaglutide in the SLIM LIVER study. NPJ Aging. 2026 Apr 21;12(1):88. doi: 10.1038/s41514-026-00383-9. PMID: 42014432; PMCID: PMC13287572.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42014432/
