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知ってましたか?美容医療の長期的影響と問題点、大阪みなと中央病院、院長の細川亙氏と美容医療センターの村西佑美医師に聞く

 美容医療の現場における問題が注目を集めている。大阪みなと中央病院、院長の細川亙氏と美容医療センターの村西佑美医師が、日本の美容医療の現状と問題点、そして未来について語った。

美容医療の長期的な影響などを説明する大阪みなと中央病院、院長の細川亙氏(左)と美容医療センターの村西佑美医師。(写真/編集部)

美容医療の長期的な影響などを説明する大阪みなと中央病院、院長の細川亙氏(左)と美容医療センターの村西佑美医師。(写真/編集部)

──美容医療のリスクや長期的な影響が注目されているが、どのような問題が起きているのか。

細川氏:私たちが美容医療において問題があると考えている施術の一つがフィラー治療です。私たちはフィラーに関しては、基本的に厚生労働省などによって承認された材料のみを使用するのが安全だと考えています。

※フィラー治療とは、皮下に充填剤を注入する治療のこと。

 特に非吸収性材料のフィラーの注入はたとえ一時的には無害に見えても、長い年月で見ると合併症を引き起こす可能性が十分あるのです。しかも注入されたフィラーを除去するのは容易ではありません。

村西氏:アクアフィリングの注入後に問題を生じた方が当院には多く来院されます。フィラーが意図しない部位に流れたり、痛みが続いたりすることがあるのです。他院での施術後、何年も経過してから感染して腫れ、うみが出てきた方が全国から何人も来られています。

細川氏:フィラー注入によるトラブルは、10年以上経過しても現れることがあります。

村西氏:トラブルを経験した方の中には、最初に治療を受けた施設で適切な解決策を見つけられずに苦労している方が少なからずいます。ただ、当院を受診されてもフィラーを完全に除去することはほぼ不可能です。

──具体的にどのような課題があるのか。

細川氏:体内に注入されたフィラーは拡散しますし、流れて移動します。胸に入れた注入フィラーがおなかの方まで流れて膨らんでいるケースもあります。先日は、胸に入れたフィラーが陰部まで流れて大陰唇が大きく腫れあがっているケースもありました。

村西氏:フィラーが、本人も気づかないうちに皮下組織の中を移動するのです。本人はまさか、入れたフィラーが遠く離れた場所で病気を引き起こすとは想像さえしません。自分に生じた症状と入れたフィラーを結びつけて考えないので、自分自身の病状を、フィラーと関係のない別の病気のせいだと思い込むこともあります。

細川氏:そのようにフィラーの影響に気がつかない人もいれば、逆にフィラーの有害性を知ったため、自分に生じている病状すべてがフィラー注入のためと考えてノイローゼのようになる人もいます。

──本人が美容医療の治療を受けたことを周りに話しておらず、対応が難しいこともある?

村西氏:その通りです。美容医療を受けたことを家族に知らせない選択をしている人もいます。治療中に、家族には別の病名を伝えてほしい、ちょっと口裏を合わせてほしいと希望する人もいます。私たちはプライベートにも配慮しながら治療しますが、そんな配慮が無理なほどの重大な症状が出ていることもあります。

──アクアフィリングは本人の満足度が高いこともあり、対応は難しい。

村西氏:アクアフィリングは柔らかいですし、トラブルになった胸と、なっていない胸を比べると、なっていない胸は綺麗であることもあります。本人も一時的には見た目やボリュームに満足されていることが多いと思います。

 しかし、注入した部位にフィラーが留まっているように見えても、液体ですから周りの組織に浸潤拡散したり移動したりして、そのうちに様々な問題を引き起こしてきます。また、フィラーが浸潤した組織はしこりになることもあります。こうなると注入したフィラーの完全な除去は不可能です。

※浸潤は、染み出るように広がっていること。

 なぜこうした問題が起こるのかと考えると、広告が出ているから安心と思って美容クリニックに行かれることが多いのだろうと推測しています。施設を慎重に選ばずにそこに行き、言われるがままアクアフィリングのようなフィラーを入れることになるのでしょう。ところが、後で何か不具合が起こり、ネットなどで調べるといろんな被害を生じていることを知り私たちのところに来院するという流れになっているようです。

──美容医療では情報を得るのが難しいのも問題です。

細川氏:どんな医療でもそうですが、ある程度合併症が起こるケースはあります。しかし残念ながら美容医療の場合、合併症の頻度について正確なデータはありません。10万例中10例なのか、1000例なのかもわからない。こうした情報不足は美容医療独特のところもあります。実際にはかなりたくさんのトラブルが起こっているようで、死亡などの重大事故も少なからず起こっています。その美容医療を受けて本当に大丈夫なのか慎重に考えるべきです。

 ただ、実際問題としては、治療を受ける方は医師の説明を受けると、そのまま受け入れることが多い。美容医療に対する警戒心、懐疑心の欠如が事態を深刻にしています。

──美容医療に伴うヤケドなどの注意点は?

細川氏:例えば脱毛を考えてみましょう。レーザー脱毛は黒い毛根に光を当て、熱を発生させることで発毛を防ぎます。毛の再生が起こらないようしっかり焼く必要があります。このように脱毛は毛根にヤケドを起こす施術なのですから、毛根だけではなく、周囲の組織にもヤケドが及ぶ可能性があります。

 わき汗治療器のミラドライも同じで、汗腺の活動を停止させ過剰な発汗を防ぐための熱処理器械です。それは電子レンジと同じように、マイクロ波による熱で真皮や皮下の汗腺を焼くのです。しかし、汗腺の接している脂肪や皮膚、近くを通っている神経などを決して焼くことがないかといえば、そんなことはないわけです。

 ミラドライでは死亡事故も報告されました。厚労省や学会は、その事故が、ミラドライを外陰部という認可外部位で使ったから起きたと強調しました。しかし、本当にわき以外の部位に用いたことが原因なのか、私は怪しいと思っています。なぜ死亡につながるような重篤なヤケドを生じてしまったのか、原因をしっかりと究明して検証し、二度とこのようなことが起こらないように対策しなければなりません。現状では、結論付けが甘いように思えます。

村西氏:安全に配慮してもどうしてもヤケドが起こることはあります。細心の注意が必要です。

細川氏:医療事故情報の透明性を徹底することが重要です。標準的な保険医療と同じように、合併症が起きた場合に報告する仕組みが必要です。

大阪みなと中央病院、院長の細川亙氏と美容医療センターの村西佑美医師は、美容医療の合併症の実態を説明。(写真/編集部)

大阪みなと中央病院、院長の細川亙氏と美容医療センターの村西佑美医師は、美容医療の合併症の実態を説明。(写真/編集部)

プロフィール

細川亙(ほそかわ・こう)氏
大阪みなと中央病院長・美容医療センター長
大阪大学名誉教授、アメリカ形成外科学会名誉会員、日本美容外科学会常務理事
日本形成外科学会理事長、日本形成外科手術手技学会理事長などを歴任

村西佑美(むらにし・ゆみ)氏
大阪みなと中央病院美容医療センター医師
日本形成外科学会専門医

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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