
第26回日本抗加齢医学会総会の会場となったパシフィコ横浜ノース。(写真/編集部)
暦の年齢とは異なる、体の状態を反映する生物学的年齢を測定する「エピジェネティック・クロック」が、日本国内でも身近な存在になってきた。
そうした中で注目されるのが、アリババ日本法人社長を務めた香山誠氏と、連続起業家の孫泰蔵氏が、この分野に乗り出していることだ。香山氏と孫氏がCo-Founder/Co-CEO(共同創業者/共同最高経営責任者)を務めるEpigenetic AIが、エピジェネティック・クロックの研究開発と実用化を進めている。
2026年6月に横浜市で開催された第26回日本抗加齢医学会総会では、同社が共催講演を企画し、関心を集めていた。香山氏や孫氏らがこの分野に参入していることは、エピジェネティック・クロックが研究段階の技術にとどまらず、人間ドックや予防医療での社会実装を見据えた動きが進みつつあることを象徴している。
佐賀大学の研究ともリンク

遺伝子情報やゲノム解析を表した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- AIで生物学的年齢を推定→ DNAメチル化などのエピゲノム情報をAIで解析し、生物学的年齢や病気リスクの評価を目指す。
- 佐賀大学のコホートを活用→ 長期追跡データと組み合わせ、病気との関連を検証する構想が紹介された。
- 研究から社会実装へ→ エピジェネティック・クロックを予防医療へ応用する動きが進んでいる。
エピジェネティック・クロックは、生まれ持ったDNA配列そのものではなく、DNAがどのように利用されるかという情報を利用する仕組みだ。
代表的なものがDNAメチル化だ。DNAの配列そのものを変えることなく、遺伝子の働き方を調整する化学的な修飾で、そのパターンは加齢、生活習慣、環境、病気の影響を受けることが分かっている。こうしたDNAの働きを調整する仕組みは、エピジェネティクスと呼ばれる。
DNAメチル化のパターンをAIで解析し、生物学的年齢を推定するのがエピジェネティック・クロックだ。
Epigenetic AIは、この技術を生物学的年齢の測定にとどめず、病気のリスク予測にも広げようとしている。講演では、エピゲノム解析にAIを組み合わせ、生物学的年齢や疾病リスクを評価する考え方が示された。
同社では、この解析の土台として「Large Epigenome Model(LEM)」と呼ぶAIモデルを構築している。DNAメチル化などのエピゲノム情報に加え、血液検査や生活習慣、臓器の状態など、さまざまな生体データを学習する仕組みだ。体の中で起きている変化をAIで読み取り、生物学的年齢や疾病リスクの推定を目指している。
講演では、佐賀大学のコホートデータを活用する構想も紹介された。コホート研究は、多くの人を長期に追跡し、生活習慣や検査値、健康状態、病気の発症などを調べる研究だ。エピジェネティック・クロックを病気リスクの予測に使うには、DNAメチル化の情報だけでなく、実際の健康状態や将来の病気との関係を確かめる必要がある。佐賀大学のコホートデータは、その関係を検証するための基盤になる。
人間ドックにも広がる可能性

遺伝子情報やゲノム解析を表した図。画像はイメージ。(写真:Adobe Stock)
- 人間ドックへの応用も期待→ 従来の検査に加え、将来の老化や病気リスクを評価できる可能性がある。
- 国内外で導入進む→ 日本の長寿研究やロレアルのロンジェビティ研究など、活用の広がりが見られる。
- 実用化には検証が必要→ 病気予測への有用性は、今後の臨床データの蓄積による確認が求められる。
エピジェネティック・クロックの社会実装は、Epigenetic AIだけの動きではない。ヒフコNEWSでもこれまで、生物学的年齢を測る技術が美容医療やロンジェビティの分野で注目されていることを伝えてきた。
例えば、京都府立医科大学とRhelixa(レリクサ)は、百寿者が多い京丹後地方で、エピジェネティック・クロックを使った長寿研究を始めている。京丹後長寿コホートは、65歳以上の住民を長期に追跡し、健康長寿の背景を調べる研究だ。レリクサの生物学的年齢検査は、2025年5月までに国内100医療機関で導入されたとされる。
海外でも動きがある。ヒフコNEWSでは、世界最大手の化粧品企業ロレアルが、米国のTru Diagnosticと提携し、エピジェネティクスを美容とロンジェビティの研究に応用しようとしていることも伝えている。
こうした流れの中で、人間ドックなどでも応用が進む可能性がある。これまでの人間ドックは、血液検査や画像検査で異常があるかどうかを調べ、病気が見つからなければ「異常なし」と判定することが中心だった。その役割は今後も重要だ。一方で、エピジェネティック・クロックのような検査が加われば、従来の検査で異常が見つからない人についても、将来の病気リスクや加齢に伴う変化を評価できる可能性がある。
病気予測にどこまで有用なのかは、今後、臨床データの蓄積や実際の運用を通じて検証される必要がある。
参考文献
百寿者の多い京丹後で DNAから長寿の秘密を探る、 ロンジェビティ研究開始、国内100医療機関で導入済みエピジェネティック・クロック検査、京都府立医科大学とRhelixa(レリクサ)が共同研究
https://biyouhifuko.com/news/japan/13297/
生物学的年齢を測定、エピジェネティックスにフランス・ロレアルが注目、ロレアル×トル、米国の関連バイオ企業と提携、美容や長寿の分野に力入れる
https://biyouhifuko.com/news/world/12087/
