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「直美」問題、医師個人の選択だけではない 日本の医療制度や美容外科教育にも課題 美容医療の社会的価値や財務省の負担金案も議論 第49回日本美容外科学会(JSAPS)総会

カレンダー2026.11.6 フォルダー 国内
第49回日本美容外科学会総会の開会式であいさつする、医療法人こころ満足会・形成外科KCの新城憲氏。

第49回日本美容外科学会総会・第157回学術集会の開会式であいさつする新城憲氏(医療法人こころ満足会・形成外科KC)。2026年11月5日、沖縄県糸満市。

 医師が2年間の初期臨床研修を終えた後、形成外科などの専門研修に進まず、直接美容医療に従事する「直美(ちょくび)」が問題になってきた。

 若手医師が保険診療から美容医療に流れることによる医師不足に加え、経験の浅い医師による施術の安全性が懸念されている。

 2026年11月5日、沖縄県糸満市で開催された第49回日本美容外科学会総会・第157回学術集会では、会長特別企画「直美と日本の医療」が開かれ、6人の演者が異なる立場から問題を検討した。

 今回の会長特別企画から、3回に分けてそこで語られた問題意識を伝えていく。

 第1回は、当山美容形成外科の當山護氏と、厚生労働省で医療行政に携わった経験を持つ東京理科大学薬学部の磯部総一郎氏の講演を取り上げる。

美容外科を学ぶ教育制度は十分?

  • 直美問題の背景→當山護氏は、医師の偏在や国民皆保険制度の変化を指摘。美容医療が経営の厳しい保険診療からの「避難先」になっている可能性。
  • 美容外科の歴史→形成外科と美容外科は歴史的に深い関係。美容外科の発展に対する形成外科の責任も問題提起。
  • 専門教育の課題→美容外科は専門医制度の基本領域に含まれず、独立した専門研修制度も未整備。医師個人の進路だけでなく教育体制の充実が課題。

 當山氏は「直美をめぐる3つの物語」と題して講演し、直美の問題を日本の医療制度や美容外科の歴史から考察した。

 まず、當山氏が着目したのは「直美」という言葉そのものだ。當山氏はこれを「行政用語」と表現し、若手医師が専門研修を経ずに美容医療へ進むことに対して、地域医療や保険診療を担う医師の不足を懸念する厚生労働省の問題意識が反映されているとの見方を示した。医師の偏在という行政上の課題と結びつけて、「直美」が問題視されているのではないかという指摘だ。

 その背景として取り上げたのが、国民皆保険制度を取り巻く環境の変化だった。1961年に実現した国民皆保険は、少子高齢化や人口減少によって持続可能性が問われている。日本医師会も制度の維持を重視してきたが、診療報酬で価格が決まる保険診療では、医療機関の経営が厳しくなっている。

 一方、自由診療を中心とする美容医療では、医療機関が価格を設定できる。當山氏は、こうした制度上の違いから、美容医療が保険診療からの「避難先」となっているのではないかという見方を示した。

 當山氏は、美容外科と形成外科の歴史にも目を向けた。

 日本形成外科学会の準機関誌は、1961年までは「形成美容外科」という名称だったが、1962年に「形成外科」へと改称された。両分野が歴史的に深い関係にあったことを示すものだ。

 また、形成外科では、外傷や再建手術など、病院の設備や他診療科との連携を必要とする診療も多く、開業後に同じ医療を提供し続けることは容易ではないと指摘した。その中で、美容外科は形成外科医が専門性を生かせる開業分野の一つとなってきた。

 一方、「美容整形」と呼ばれる医療が広がり、不適切な診療なども問題となる中、形成外科の学会はこうした流れに十分に歯止めをかけられなかった。當山氏は、美容外科の発展に対する形成外科の歴史的な責任も問いかけた。

 現在も美容外科は専門医制度の基本領域に含まれておらず、美容外科を独立した基本領域として体系的に学ぶ専門研修制度は整備されていない。直美という若手医師の進路選択だけに問題を矮小化せず、形成外科が培ってきた知識や技術を生かし、美容医療の専門教育と安全性をどう高めていくかが問われているという問題提起だった。

美容医療の社会的価値をどう評価

沖縄の海を背景に設置された第49回日本美容外科学会総会「JSAPS 2026 OKINAWA」の看板。

沖縄の海を背景に掲げられた第49回日本美容外科学会総会・第157回学術集会の看板。2026年11月5日、沖縄県糸満市。

  • 行政による適正化→磯部総一郎氏は、美容医療の健康被害などを背景に行政が対応を強化する一方、美容医療の社会的価値が十分に伝わっていないと指摘。
  • 財務省の負担金案→美容医療などの自由診療に新たな負担を求める構想に言及。医療人材の確保や合併症治療の負担についての問題意識は続くとの考え。
  • 医師の進路選択→高収入や働きやすさだけでなく、専門性を磨き、美容医療をより良くする意欲を持つ医師の進路まで一律に否定すべきではないと指摘。

 続いて登壇した磯部氏は「日本美容医療の課題と今後、直美の問題を含めて」と題して講演し、美容医療の社会的価値や医療行政のあり方について考察した。

 磯部氏は、厚生労働省での勤務経験を踏まえ、医療行政には国民の命を守る医療や医療提供体制の維持など、優先すべき課題が多く、美容医療にまで十分に目を向けにくい事情があると説明した。

 しかし、美容医療による健康被害や不適切な勧誘などが社会問題となり、行政も対応を求められるようになった。ヒフコNEWSでも伝えたが、厚生労働省は2024年に「美容医療の適切な実施に関する検討会」を設置し、同年11月に報告書を取りまとめた。

 磯部氏が着目したのは、こうした行政の動きの中で使われる「適正化」という言葉だ。実際、検討会の報告書でも、ガイドラインの策定による「適正化」に言及している。磯部氏は、この表現の背景には、美容医療の現状に改善すべき問題があるという行政の認識があると指摘した。

 一方、磯部氏は、美容医療には外見の悩みを改善し、自信や生活の質(QOL)を高める役割があり、社会的な価値があるとの考えを示した。問題点の改善を進めるだけでなく、こうした価値についても積極的に情報発信し、行政や社会の理解を広げていくことが重要だと訴えた。

 さらに、学会開催前日の11月4日に財務省が示した負担金案にも言及した。ヒフコNEWSで伝えたように、美容医療などの自由診療を行う医療機関に、医師や看護師の人数に応じた負担金を求め、地域の医療人材確保に活用する構想だ。自由診療に伴う合併症の治療費についても、保険給付の対象から除外し、別途集めた負担金を充てる案が示された。

 磯部氏は、負担金案の背景には、公費などを投入して養成された医師が保険診療から美容医療へ進むことを、社会的な損失と捉える見方があると見る。一方、磯部氏は、美容医療にも社会的な価値があることを踏まえれば、保険診療から美容医療へ医師が移ることを一律に否定的に捉えるべきではないとの考えを示した。負担金の議論においても、美容医療が社会に果たしている役割を考慮する必要があるという問題提起だ。

 負担金の制度化は容易ではなく、直ちに導入されるものではないとしつつ、医療人材の確保や、美容医療で生じた合併症の治療費負担をどうするかという課題については、今後も議論が続く可能性を指摘した。

 磯部氏は、医師が美容医療を選ぶ動機についても考察した。高収入や働きやすさだけを目的とするのでは、周囲の理解を得ることも難しい。一方、美容医療をより良いものにしたいという意欲を持ち、技術や専門性を磨こうとするのであれば、その進路選択まで一律に否定されるものではないとの考えを示した。

参考文献

美容医療クリニックに新たな「負担金」案、医師と看護師の人数に応じた負担を財務省が4日提案 地域の医療人材確保に活用する構想 美容医療の合併症治療費にも負担金を想定
https://biyouhifuko.com/news/japan/20127/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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