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エステティックサロンなどでの日本のハイフ関連事故の詳細明らかに、国の消費者安全調査委員会が報告書

カレンダー2023.3.31 フォルダー 国内

ポイント

  • 21年からハイフに関する事故調査が行われていたが、29日調査結果がまとまった
  • 15年から22年12月までのハイフによる事故は135件で、その8割近くがエステで起こっていた
  • 事故の中には神経を損傷するものもあり、施術者が施術を完全に理解していないケースもあった

 HIFU(High Intensity Focused Ultrasound、以下ハイフ)は、超音波を利用して肌を引き締め、リフトアップする美容治療。美容医療施設やエステティックサロン、セルフエステなどで行われている。

 一般に安全性が高いとされるハイフ施術だが、施術中に事故が発生することがある。エステティックサロンで施術を受け、三叉神経まひと診断された人の申出をきっかけに、2021年から国の消費者安全調査委員会がハイフ施術に関する事故の調査を進めてきたが、このたび報告がまとまり、結果が3月29日に公表された。

シワやたるみの改善などに行われるハイフ施術

ハイフ施術のイメージ。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

ハイフ施術のイメージ。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

 ハイフは、虫眼鏡が光を集めるのと同じように、超音波で特定の部位に熱を発生させる治療法である。シワやタルミの改善には、皮下組織や脂肪、顔の組織を支えるSMAS筋膜、痩身には脂肪をターゲットにして、こうした特定の層にやけどを起こさず熱を発生させ、組織のボリュームを増やしたり減らしたりすることで狙った効果を引き出すものだ。

 ハイフの施術では、ジェルを塗った皮膚に超音波プローブを当て、トランスデューサーから発振される超音波を焦点に集束させて熱をかける。その様子は次の図の通り。

ハイフ照射のイメージ。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

ハイフ照射のイメージ。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

 ハイフ施術は、医師でなければ行えない医行為に当てはまるかと言えば、現状では厚生労働省から統一した基準が示されていない。また、前立腺がんなどの治療目的でハイフが医療機器として承認された例はあるものの、美容医療を目的として承認されたハイフ機器はない。

 こうした背景の下、ハイフ施術は、美容医療クリニックのほか、エステティックサロンやセルフエステで行われ、自宅で利用者が自分で施術していることもある。

 ただし、エステティック業界は、消費者被害を防止するために、ハイフ施術を自主的に禁止の方針を示している。しかし、消費者安全調査委員会によると、国内に存在するエステサロン約2万4000店のうち業界団体に加盟するのは1割に満たない約1700店にとどまり、残りの約2万2300店のうちの約4600店でハイフ施術が行われている実態がある。

日本におけるハイフ関連事故が明らかに

ハイフ施術による事故件数の推移。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

ハイフ施術による事故件数の推移。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

 ハイフは体内で熱を発生させるため、やけどなどの危険もある。消費者庁と国民生活センターが運営する事故情報データバンクでは15年以来ハイフによる事故の報告を受け、件数は増加傾向にある。国の消費者安全調査委員会は生命に関わるような事故の申出があった場合に調査を行うが、ハイフ施術による顔面まひの報告を受け、21年7月に消費者安全法に基づく「事故等原因調査」に着手することになった。

 22年7月26日、経過報告書を公開している。報告書では調査完了まで1年以上かかる可能性があるとした。その上で、15年11月から22年5月までの間にハイフによる事故が110件発生したとまとめた。事故の多くはエステティックサロンとセルフエステで発生し、医療機関で医師以外のスタッフによって行われた事故もあった。97%は女性が占め、年代別で見ると30代が最も多かった。

 経過報告書を公表した後も継続的に調査が続けられ、このたび3月29日に提言なども含めた報告書をまとまり、それが公開された。

 その報告書では、件数の水を含むグラフなどが次のように掲載されている。

年代別の事故件数。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

年代別の事故件数。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

性別の事故件数。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

性別の事故件数。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

ハイフ施術による事故件数。事故情報データバンク:2015年11月~2022年12月。表中の( )は傷病の程度が1カ月以上の事故件数を示す。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

ハイフ施術による事故件数。事故情報データバンク:2015年11月~2022年12月。表中の( )は傷病の程度が1カ月以上の事故件数を示す。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

ハイフによる部位別の事故件数。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

ハイフによる部位別の事故件数。出典/消費者庁 消費者安全調査委員会

 15年11月から22年12月までの間に、ハイフによる関連する事故が135件発生した。このうち77%はエステティックサロンとセルフエステで起こり、23%が医療機関で起こった事故である。事故の97%は女性で起こり、30代が最も多い。事故の多くは熱傷であったが、神経損傷も起きており、深刻な影響が報告されている。事故の大半は顔に起こっている。ハイフ施術で事故に遭った人への聞き取りで、その詳細を報告書には掲載しており、その一部を紹介する。

  • 左眉毛の上に、強い痛みを覚えた。2週間後、おでこ全体と頭の痛みが 治まらず。左眉の上の三叉神経が損傷している可能性(神経障害)
  • 施術後顔がピリピリしてお面を被っているような感覚で顔の皮膚が動きにくい(皮膚障害)
  • 帰宅後機器を当てられた部分に違和感があり鏡を見たら黒くなっていた。 翌日一層黒くなっていた(熱傷)

不十分なリスク説明の問題を指摘

 同委員会では、インターネットを通じて、ハイフ施術の利用者1000人と施術者269人にアンケートを実施した。調査の結果、次のような懸念があると判明した。

  • 施術者に対する機器や施術の教育が⼗分ではない。
  • 施術の際の利⽤者への説明が⼗分ではない。
  • 利⽤者が HIFU 施術のリスクを認識していない。
  • 利⽤者の約1割が、施術を受けた後に痛みや違和感があった。

 委員会は、「施術者が、施術内容や注意事項に関する利用者への説明を十分にしていないこと、また、利用者が、HIFU施術のリスクを認識した上で施術を受けていないことが分かった」と説明している。

 委員会はエステサロン、セルフエステサロン、美容クリニックの協力を得て、施術現場に測定器具を持ち込んで、実際に使用されているハイフ機器による実験も行った。分析の結果、「エステサロンやセルフエステで使用されているHIFU機器と、美容クリニックで使用されているHIFU機器との間で、照射した箇所の温度を上げる能力に明確な差は見られないことが分かった」と説明している。

 このほか委員会ではシミュレーション解析を行い、神経障害を起こすリスクがある点、難しい施術である点を指摘した。また、委員会は、ハイフ機器が国内で美容目的としては未承認で医師が個人輸入している状況のほか、エステでは医療機器ではない製品として輸入していると推定されるとまとめている。

安全なハイフ施術に向けて委員会が提言

 委員会では調査を受けて、厚生労働大臣に対し、医療行為としてハイフ施術を行える施術者の制限や、輸入機器の監視強化などを要請した。また経済産業大臣には、エステティック業界への早急に広く注意喚起を、消費者庁長官には消費者への注意喚起を求めた。

 ハイフ施術を受ける人の中にはリスクを知らない人も多いと判明しており、このままでは被害を回避できないことになる。今後、このような事故を起こさないためにも、施術内容や潜在的なリスクについて知らせることが重要だ。ヒフコNEWSでも今回の報告書を含め続報をお伝えする。

参考文献

消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書 エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故
https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_022/assets/csic_cms101_230329_02.pdf

消費者安全法第 23 条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書【概要】−エステサロン等での HIFU(ハイフ)による事故−
https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_022/assets/csic_cms101_230329_01.pdf

エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故に係る事故等原因調査について(経過報告)
https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_019/assets/csic_cms101_220726_01.pdf

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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