美容目的で盛んに行われているHIFU(ハイフ、高密度焦点式超音波、集束超音波治療)に関連した事故の実態が新たに調査され、ヤケドやその他の皮膚の障害が全体の3分の2を占めたことに加え、神経障害が全体の3割近くを占めており、専門家の予想を超える頻度で神経障害が発生していることが明らかになった。
2024年4月10日、第67回日本形成外科学会総会・学術集会で、東海大学形成外科学会教授の河野太郎氏が、政府の研究資金支援を受けた調査の中間報告として発表した。
シワとタルミ改善を目的とするハイフ施術による事故が9割
ハイフは、虫眼鏡で太陽の光を集めて熱を発生させるように、超音波を集中させて皮膚の深くに熱を発生させる仕組みになっている。河野氏によると、美容目的としては07年から痩身に利用され始め、08年から若返りに利用されるようになった。09年には河野氏を含む研究グループがハイフの有害事象を初めて報告している。日本国内ではハイフ施術を原因としたヤケドなどの事故報告が相次ぎ、21年から国が調査に乗り出し、23年3月に結果が公表され、エステティックサロンを中心として関連事故が急増していることが判明し、社会問題として注目された。
河野氏は2023年度厚生労働科学特別研究事業「HIFU施術における人体への侵襲性に関する研究」により、ハイフ関連の事故の実態調査を進めている。調査は文献調査、国内事故の実態調査、事故原因のシミュレーション研究から構成され、河野氏は実態調査を主に担当し、今回、中間報告を発表した。
アンケートは国内1791施設に配布され、481施設から回答が得られた。事故に遭遇した人の年齢層は25歳~70歳で平均年齢は45.9歳。女性が大部分を占めた。
これらの事故から、ハイフによる事故の実態が従来の知見よりも鮮明に見えてきた。
まず、事故の特徴としてタルミやシワの改善のために行ったハイフによる事故が全体の9割を占め、圧倒的な多数を占めることが分かった。海外ではハイフが痩身目的で行われることも多いが、日本では痩身はほとんどなかった。ハイフによる障害の場所も4分の3が頬と下あごというフェイスライン周辺に集中していた。
神経障害が予想を超えて3割に達する
冒頭に示したように、ヤケドを含む皮膚の傷害と並んで、神経障害が目立った問題として浮上した。
具体的には、有害事象の内訳は、ヤケドが36%、ヤケド以外の皮膚の有害事象が31%と、皮膚関連の事故が3分の2を占めていた。そうした中で、神経障害が「驚くべきことに31%」(河野氏)に上った。
さらに河野氏は神経障害の内訳についても説明し、「当初の予想では神経障害はほとんどがしびれなどの感覚障害だろうと推測していたが、運動障害も多い結果になった」と、こちらも想定と異なる結果になったことを示した。具体的には感覚障害が約6割で、運動障害は約4割だった。
目の障害も実際に発生していた。河野氏は以前のヒフコNEWのインタビューで「皮膚の表面のヤケドは何とか対処はできますが、一番心配なのは目の障害です。水晶体に障害が生じると白内障になり、硝子体に障害が生じると飛蚊症という問題が起こります。目の障害が起きると取り返しのつかないことになるので特に注意しなければなりません。その他の重篤な合併症として、手や顔が動かないという運動神経の障害や痺れる等の感覚神経の障害も大きな問題」と回答している。このコメント通りの状況が中間報告から確認された形になった。
「骨に反射」で皮膚表面近くにヤケド
ハイフでは使用するトランスデューサーによって焦点の深さが異なる。今回の調査によると、焦点の深さが4.5mmと3mmのトランスデューサーを使ったときのヤケドが全体の4分の3を占めていた。それに対して2mm、1.5mmのトランスデューサーではあまり発生していなかった。
河野氏は、「皮膚の厚さが3mmしかないにもかかわらず、焦点がより深いところに熱を発生させるトランスデューサーで多くのヤケドが起きていたのは予想外」と解説した。
というのも、河野氏はヒフコNEWSのインタビューで、1.5mmのトランスデューサーをやや浮かせて使ったときに、「超音波がジェルを通過し、意図したよりも浅い層を加熱するために皮膚表面にヤケドを引き起こす」という事故の原因を予想していた。この解説通りであれば、4mmや3.5mmのトランスデューサーでヤケドが多かったことは説明しづらい。
そこで河野氏は「手技による問題ではなく、構造的な問題がある」と推定。河野氏は東北大学の研究チームと協力してシミュレーションを実施。骨に反射した超音波の影響により、皮膚の表面に熱が発生しやすくなることを突き止めた。
このことから河野氏は、「骨がある場所に超音波を当てるときには反射される超音波の影響を考える必要がある。それと同時に骨の上に神経が存在するときには骨の温度が上昇するために神経が影響を受ける可能性を考える必要がある」と説明した。額のように骨に接するように皮膚が存在している場所などは注意が必要になる。
河野氏は、今回のアンケートは医療機関の一部を調べた点を踏まえ、潜在的な事故も含めると年間1500件~2000件ほどの事故が起きている可能性もあると推定する。
ハイフをめぐっては、現在のところ制度上は法的に規制されていない状況にある。そのためエステティックサロンで行われたり、通販で販売される機械を使って自分でハイフをしていたりする状況になっている。このことが事故の多発につながっていることが国の調査から明るみになっている。
それに対して今回の調査は、医療行為として実施されるべきハイフの条件を決めるための検討材料を得る目的がある。河野氏は、ハイフは医療機関で行われ、有害事象を起こす可能性もあるところから、最終報告が出てきた結果として国が医行為と見なす可能性もあるのではないかと見解を示した。今後、ハイフのルール作りが進められる可能性がありそうだ。