第67回日本形成外科学会総会・学術集会では、美容医療に形成外科がこれからは従来以上に関わるべきだという意見が上がった。
では、今、美容医療に専門医を持つ医師はどのように関わっているのだろうか。
そこで美容医療への影響力が大きい美容医療チェーンの院長に焦点を当てて専門資格の保有状況を調査した。
今回の調査から、形成外科や皮膚科、美容外科を含めて、さまざまな分野の専門医を持つ医師が美容医療に参入する実態が明らかになった。
7つの美容医療チェーンの院長を調査
調査に当たって、美容医療チェーンの定義を次のように考えた。参考にしたのは、医療以外も含むチェーン店舗の団体、日本チェーンストア協会の会員資格の条件。これによると、「通常会員」の資格条件として11店舗以上を展開するという条件が含まれている。そこで美容医療チェーンの条件としても、国内で11医院以上を展開している美容医療グループとした。
なお、今回は美容外科を扱う美容医療チェーンを調査対象にし、次の7グループを調べることとした。
- 湘南美容クリニック
- 東京中央美容外科
- 城本クリニック
- 共立美容外科
- 東京美容外科
- 品川美容外科
- 聖心美容クリニック
編集部では、2024年4月の調査時点でのホームページの掲載情報に基づいて院長の専門医資格の保有状況を調べた。
今回の調査では、同じグループ内の皮膚科中心の施設、脱毛専門施設、女性や子ども専門施設、整形外科専門施設、一般病院やオンラインクリニック、屋号の異なるグループおよびフランチャイズの施設は対象外とした。院長が異動になるなど、院長が確認できない医院も対象外とした。
専門医の資格を持つのは2人に1人
結果として、対象となった施設数と、それぞれのチェーンに所属していた専門医を持つ医師の人数は次の通りとなった。
美容医療チェーン | 調査対象の院長数 | 専門医を保有する院長の人数 | 割合 |
---|---|---|---|
湘南美容クリニック | 124医院 | 48人 | 39% |
東京中央美容外科 | 108医院 | 33人 | 31% |
城本クリニック | 25医院 | 25人 | 100% |
共立美容外科 | 23医院 | 11人 | 48% |
東京美容外科 | 18医院 | 14人 | 78% |
品川美容外科 | 15医院 | 12人 | 80% |
聖心美容クリニック | 10医院 | 10人 | 100% |
合計 | 323医院 | 153人 | 47% |
医学会が認定する専門医のほか、厚生労働省が認定する麻酔科標榜医と、学会が認定している麻酔科指導医を含めた。聖心美容クリニックは10施設になっているが、1医院が皮膚科専門であるために除外したもので、チェーン全体としては11医院であることから調査対象に含めた。
集計では専門医資格のいずれかを保有する医師の人数を数えたが、全体で何かの専門資格を保有している院長は47%だった。
保有されている専門医資格は限られた分野にとどまらず、意外にも多彩であることが明らかになった。後で詳しく紹介するが、最も多いのは日本美容外科学会(JSAPS、JSAS)が認定している美容外科の専門医資格で63人。続いて日本形成外科学会が認定する形成外科専門医の43人。これらは美容外科と深く関連しているが、これらばかりではなく、一般の外科が24人、麻酔関連が19人。このほか整形外科、抗加齢医学、呼吸器関連、消化器関連、循環器関連、小児関連、泌尿器の専門医も含まれていた(重複あり)。
美容外科の専門医と国の制度に基づく専門医
最も多いのは美容外科の専門医だった。日本には日本美容外科学会がJSAPSとJSASという2つがあり、それぞれの学会が専門医の資格制度を持つ。美容医療チェーンの院長でこれら2つの学会の専門医を取得している人数も確認したところ、63人となった。20%となった。美容医療チェーンの院長は5人に1人が美容外科関連の専門医を持つことになる。JSAPSの専門医は限られた人が保有しているのに対して、JSASの専門医を持つ人の方が多く、保有されている資格はほぼすべてJSASの専門医だった。
美容外科の専門医を保有する院長
美容医療チェーン | 美容外科の専門医を保有する院長の人数 | 割合 |
---|---|---|
湘南美容クリニック | 14人 | 11% |
東京中央美容外科 | 1人 | 0.01% |
城本クリニック | 14人 | 56% |
共立美容外科 | 8人 | 35% |
東京美容外科 | 13人 | 72% |
品川美容外科 | 12人 | 80% |
聖心美容クリニック | 9人 | 90% |
合計 | 63人 | 20% |
なお、日本では法律に基づく専門医制度という仕組みがある。この仕組みでは美容外科や抗加齢医学など一部の専門医は含まれていないことから、国の制度に基づいた専門医に絞った状況も調べた。その結果は次のようになり、全体の30%となった。国の制度による専門医を持ちながら美容医療に参入している医師が3人に1人ほどの割合で認められるといえるだろう。美容外科の資格と合わせて保有する医師も含まれている。
国の制度に基づいた専門医を保有する院長
美容医療チェーン | 国の制度に基づいた専門医を保有する院長の人数 | 割合 |
---|---|---|
湘南美容クリニック | 33人 | 27% |
東京中央美容外科 | 26人 | 24% |
城本クリニック | 17人 | 68% |
共立美容外科 | 5人 | 22% |
東京美容外科 | 14人 | 78% |
品川美容外科 | 0人 | 0% |
聖心美容クリニック | 3人 | 30% |
合計 | 98人 | 30% |
「形成外科専門医」を重視する動き
今回特に注目したのは、形成外科専門医を保有する院長だったが、美容医療チェーンに所属する院長のうち、形成外科専門医を持つ院長の数は全体で43人だった。院長全体に占める割合は13.3%となった。
形成外科専門医を保有する院長
美容医療チェーン | 形成外科専門医を持つ院長の人数 | 割合 |
---|---|---|
湘南美容クリニック | 7人 | 5.6% |
東京中央美容外科 | 7人 | 6.5% |
城本クリニック | 12人 | 48% |
共立美容外科 | 2人 | 8.7% |
東京美容外科 | 13人 | 72% |
品川美容外科 | 0人 | 0% |
聖心美容クリニック | 2人 | 20% |
合計 | 43人 | 13% |
日本の大手美容医療を支えている医師の中で、形成外科専門医は決して多いとはいえない割合なのかもしれない。ただし、割合が小さいからといって、存在感も小さいわけではない。美容医療チェーンのホームページを細かく見ると、「形成外科専門医」という言葉を、ウェブサイトのページに大きく示すなど、形成外科専門医を持つ医師は強調し、医院の価値と位置づけられているのが読み取れる。
形成外科は医療法で「基本的な診療領域」の19のうちの1に含まれ、広告可能な専門医である点も大きいだろう。美容外科の基礎になる専門医資格であり、しかも宣伝も法的に可能であることから、形成外科は必然的に注目度は高くなる。美容医療の基礎になる専門として形成外科を見直す動きがある中、今後、この数値がどれくらい伸びるか注目される。