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【独自】美容医療で生じた合併症や後遺症、健康保険で治療しないよう厚労省が「行政指導」か

カレンダー2023.4.15 フォルダー 国内

 整形手術や注入豊胸などの美容医療が原因で生じた身体被害の治療に、健康保険を適用してはならないと、厚生労働省が5年以上前に美容医療関係者に見解を示し、それがいまだに関係者の間で公式な「行政指導」のように受け止められ影響力を保っている実態があることが分かった。

 美容医療を巡っては、自費診療の中でリスクの高い治療が野放しとなっている一方、医療ミスや副作用による被害の治療も、全額自己負担で行わせるという意向を一部の厚労省幹部が持っており、被害の救済にとって足かせになりかねない状況があるようだ。

健康保険で扱えるかの取り決めが曖昧

 美容医療では、合併症のリスクのあるフィラー注射による顔面整形や豊胸術といった、取り返しのつかない副作用を招くリスクのある施術方法が行われている(末尾に関連記事)。こうしたリスクのある美容医療施術は厚労省が認めておらず、基本的に患者が治療費を全額支払う自費診療として行われている。

 そして、鼻整形でフィラー注射をして失明したり、注入豊胸が原因で胸部にしこりやがんができたりした場合など、美容医療を受けたことによる合併症や後遺症の治療も、健康保険が適用されないことがある。

 美容医療の合併症・後遺症の治療は、保険診療とするか自費診療とするかについては、厚労省ではっきりとした取り決めがされておらず、各病院の判断に委ねられていることとなっているからだ。

補足 「委ねられている」というのは、制度によるものではない点を補足する。保険診療を行う医療機関は原則としては美容医療による合併症や後遺症についても保険診療を行う。しかし、実態として、あたかも医療機関に委ねられているような形になっている問題がある。(2023/4/22)

 実際、一部の大学病院の美容医療後遺症外来は、健康保険の適用はしないと明記している。

「因果関係がはっきりしなければ健康保険は適用」

「因果関係がはっきりしなければ、健康保険は適用されるであろう」と記載されている。出典/ヒフコNEWS編集部が入手した議事録

「因果関係がはっきりしなければ、健康保険は適用されるであろう」と記載されている。出典/ヒフコNEWS編集部が入手した議事録

 だが実は、厚労省が美容医療合併症・後遺症の治療に、健康保険を適用してはならないという見解を美容医療関係者に伝えていたことが、ヒフコNEWS編集部の取材で分かった。

 2017年7月、厚生労働省の会議室で、日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容外科学会(JSAS)、日本美容皮膚科学会、日本美容医療協会などの美容医療業界関係者と、厚労省医政局、医薬・生活衛生局の職員が、「美容医療連携協議会」という会合を開いていた。ヒフコNEWS編集部は会合の議事録を入手した。

 その日は冒頭、厚生労働省から美容医療関係者に向けて、改正医療法と美容医療における医療安全についての説明がされ、薬事未承認注入異物の危険性と薬事未承認薬剤・機器等の並行輸入のあり方についての意見交換がされた。会合が終盤に差し掛かると、美容医療側出席者が次のように質問している。

 「例えばポリアクリルアミドで乳がんが増えたとする。その場合、乳がんの治療に保険が適用されるか? 美容医療で生じた合併症には保険が適用されないということが言われている」。ポリアクリルアミドは豊胸術に用いられるフィラーである。これに対して厚労省の課長補佐が「因果関係がはっきりしなければ、健康保険は適用されるであろう」と回答したのである。

 この発言そのものは薬事未承認注入異物の危険とその被害の救済の考え方についてのやりとりではあるが、乳がんなどの疾病の原因が、過去に受けた美容医療手術であることが明白な場合、保険が適用されないという考え方の表明とも美容医療関係者からは受け止められた。

 前述の通り、美容医療合併症・後遺症の保険適用は、はっきりとした基準がないため各病院の判断に任せられる。しかし実は、厚労省による見解、いわば口頭での行政指導により、美容医療合併症・後遺症への治療は保険適用外とすることが「暗黙の了解」となっている可能性がある。

 ヒフコNEWS編集部は、厚労省医政局総務課に、①発言の事実確認、②事実であれば発言の根拠は何か、③美容医療が原因の疾病の治療には保険が適用できないとの解釈になるが、その成否、について取材したところ、「発言の事実は確認できない」と回答があった。

自費診療での対応方針に異論も

日本形成外科学会の元理事長で大阪みなと中央病院・病院長の細川亙氏。(写真/編集部)

 厚労省の見解を「健康保険法に違反している」と批判するのが、日本形成外科学会の元理事長で大阪みなと中央病院の細川亙病院長だ。

 以下、細川氏の話―――


 「健康保険法116条では、自身の故意によって生じた疾病や外傷を、健康保険で治療すべき疾患から外しています。すなわち、やくざが指詰めをするような自分でわざと生じさせたケガを皆の出し合ったお金で治療するのは止めましょう、でもそれ以外の病気やケガは皆の出し合ったお金を使って治療しましょうというのが健康保険法の精神です。それが世界に冠たる日本の健康保険制度の根本です。

 ところが永年厚労省は美容医療の合併症や後遺症は、健康保険で治療すべき疾患ではないという独自の解釈をし、医療機関にそう指導してきました。健康保険適用を否定するこの行政指導は、明らかに健康保険法に反しています。

 私は令和2年9月17日に厚労省に出向き、指導の違法性を指摘しました。厚労省はその後この件について省内で検討し指導の違法性を認めたようです。美容医療の合併症や後遺症に健康保険を適用してはいけないという指導は今行われなくなったようですが、指導方針の変更を公表するという作業を厚労省は行っていません。そのため、一部の医療機関が未だにかつての指導に基づいて、美容医療の合併症や後遺症に対する治療を自費診療にしています。美容クリニックで美容手術を受けた人が途中で状態が悪くなり病院に運ばれたとき、緊急状態の患者に対して健康保険では治療しませんよと告知しているという話を大学病院の医師から直接聞きました。健康保険法の精神に違反したそのような医療を行っている国立大学病院があることに私は愕然としました。でもかつて厚労省にそう指導され、その指導が変更になったという連絡も来ていないのなら仕方のないことかも知れません。

 今回のヒフコNEWS編集部の取材で厚労省はかつて誤った指導をしていたという事実さえも隠そうとしていることがわかりました。私はかつての過ちをあげつらおうとしているのではありません。今現在も不幸な美容医療被害者に追い打ちをかける医療機関があるということを直視して、それを止めさせるようにすべき立場に厚労省はあるのだということを自覚しなければならないと言っているのです」

参考文献

フィラー注入のリスクと合併症。影響を受けやすい顔の部位とは?
https://biyouhifuko.com/news/research/787/

「やってはいけないフィラー豊胸術」、世界が認めていないのに日本でいまだに行われている理由
https://biyouhifuko.com/news/interview/277/

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Author

フリーライターとして継続的に医療や経済などの幅広い分野の取材を続けている。女性誌や一般誌に記事を発表している。「2022年度・小河正義ジャーナリスト基金」助成者。

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