厚生労働省は2024年10月25日に、がん治療のために行われている再生医療で重大な感染症が発生したとして、関連の医療機関に対して、再生医療の提供や関連施設での製造の一時停止を命じたと発表した。
直接関連はないものの、SNS投稿では美容医療で用いられる再生医療のリスクを指摘する声も挙がっている。
がん治療で行われた「自家NK細胞療法」で問題発生
再生医療には、細胞を使った医療のことを指し、失われた組織を細胞で回復させたり、特定の細胞を増やすことで病気の治療に使用したりする用途がある。
今回問題になった「自家NK細胞療法」は、がんの患者自身の血液から白血球を採取し、これを増やして実施する治療。具体的には、がんを攻撃する「ナチュラルキラー(NK)細胞」を培養、増殖し、体内に戻すことでがん治療に生かす。この治療法は、患者の免疫を強めることを目的とし、手術や薬剤、放射線を用いた治療とは異なる手法と見なされる。
日本国内では、薬機法と呼ばれる法律に基づいて、一般的に医薬品や医療機器は、臨床試験で安全性と有効性を確認し、国の審査を経て承認されたものでなければ製造、販売はできない。しかし、再生医療は、安確法と呼ばれる法律に基づいて、製造や販売の許可前であっても、研究や自由診療を目的とする場合に、「再生医療等認定委員会」などと呼ばれる民間組織の審査で認められると実施できるルールになっている。
※「薬機法」は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、「安確法」は「再生医療等の安全性等確保に関する法律」のそれぞれ略称である。
自家NK細胞療法もそのようなルールに従い、自費診療で提供される。
しかし、今回、東京都内の医療施設で実施された自家NK細胞療法によって重大な感染症が発生する事態となった。厚労省によると、2人は微生物感染による重篤な症状で入院を余儀なくされた。微生物は、患者自身の細胞を体外で培養する過程で感染した可能性があり、培養環境の衛生管理や検査体制に問題があったと考えられている。
感染症リスクの指摘は、再生医療の実施におけるリスクを浮き彫りにする。医療施設での細胞培養や管理の適切さが求められている。
感染症リスクと今後の展望
今回の事例を受けて、直接関連はないものの、SNS投稿では美容医療で行われている再生医療のリスクを指摘する声が上がっている。
実際、美容クリニックでの再生医療が一般的になりつつあり、エクソソームや幹細胞培養上清液など、未承認の自由診療が広く行われている。美容医療で行われる再生医療においても、得られた細胞などの衛生管理の注意点が共通し、無視できない問題である。
実際、2023年10月には幹細胞培養上清液を使用した治療で死亡事例が報告された。この詳細は明らかにされていないが、美容医療で若返り効果などを期待して行われるエクソソームや幹細胞培養上清液の点滴は、その安全性が確立されていない。
再生医療抗加齢学会理事長森下竜一氏はその報告の中で、「幹細胞培養上清液及びエクソソームの静脈投与につきましては、医療水準として未確立の療法であり、その有効性・安全性について、エビデンスに基づく十分な検討をお願いいたします」と要請した。「現時点では他家由来幹細胞培養上清液及びエクソソームに関して、医薬品医療機器等法の承認を取得した製品は存在しないことから、試薬等として流通しているものを医師が自らの責任において使用しているものと承知しておりますが、未承認の製品の使用に当たっては、関連法規を御理解の上、慎重にご検討いただくことをお願いいたします」と注意を促した。
自費診療で実施される再生医療がリスクを伴うことを認識する必要があるだろう。