厚生労働省は2024年11月13日に「美容医療の適切な実施に関する検討会」第4回目の会合を開催し、美容医療分野での7つの改善施策を盛り込んだ報告書案を発表した。
2025年に美容医療関連の学会などによるガイドライン整備を求めるなど、より良い美容医療を実現していくための動きは続く見込みだ。注目されている、医学部卒業してから2年間の初期研修直後に美容医療に進む「直美」の問題は、国の別の会議で検討が続く見通しが示された。
「安全」と「質」に対する対応策
- 2つの施策方針→「安全」と「質」に注目し、適切な美容医療の提供と質の向上を目指す施策が進められる
- 医療機関への定期報告義務→安全な美容医療の実施状況を把握するため、医療機関は定期的な報告を国に求められる
- ガイドライン整備→今後は治療効果の説明や契約方法を含む幅広いルールが定められ、美容医療の質向上が図られる
- 広告問題と広報の強化→違法な広告や高額契約の強制防止を目指し、ネットパトロールと広報活動を強化
今回の会議で示された7つの施策は、大きく2つに整理された。
一つは「適切な美容医療が安全に提供されるようにするための対応策」、もう一つは、「美容医療の質をより高め、質の高い医療機関が患者に選ばれるようにするための対応策」。つまり「安全」と「質」に注目した対応策が進められることになった。
「安全」と「質」に関連した対応策
「安全」 | 医療機関の報告・公表の仕組み導入 | 美容医療機関の管理者には、安全管理措置の実施状況や専門医資格の有無、副作用発生時の対応窓口を年1回報告することが求められる。都道府県等が情報公開。 |
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保健所による立入検査・指導プロセスと法的根拠の明確化 | 厚労省は、医師法や保健師助産師看護師法(保助看法)に違反の疑いがある場合の立入検査・指導基準、法的根拠を明確にする。 | |
診療録の記載充実 | 診療録に診療の実態が確認できるよう、必要な項目の記載を徹底する。 | |
オンライン診療のルール整理 | オンライン診療指針が厳格に守られるようルールを整備する。 | |
「質」 | 関係学会によるガイドラインの策定 | 美容関連学会、日本医師会、日本歯科医師会などと協力して、美容医療に関するガイドラインをまとめる。 |
医療広告規制の取締り強化 | 違法な医療広告に対するネットパトロールを強化する。 | |
行政による周知・広報を通じた国民の理解促進 | 厚生労働省と消費者庁が、美容医療のリスクや法令遵守の広報を行う。 |
これまで検討会で議論されてきたように、美容医療の実態がそもそも把握できていないという課題がある。医療機関には、安全な美容医療を行ってもらうために、今後は、定期的な報告を国に行うことが求められることになった。問題が起きた場合には、保健所が法律に基づいて立入検査をし、医療機関が普段から記録している内容に基づき、トラブルの原因究明などが行われることになる。そのために、医療機関には、美容医療を行った際の記録を正確に行うことが求められる。オンライン診療では、医師不在のまま薬の処方がされるような状況があるが、何らかの対策が講じられると考えられる。
美容医療の質については、学会などによるガイドラインが整備されることが大きい。従来、日本国内には『美容医療診療指針』というガイドラインが存在していたものの、これは、治療の効果や安全性について科学的な根拠があるのかをチェックするような内容だった。今後のガイドラインは、美容医療の説明の仕方や契約の仕方なども含めた幅広いルールが定められることになる。広告によって集められ、高額な契約を強制されるといった問題があることから、これまでも行われていたことだが、あらためてネットパトロールの強化が強調された。また、これも従来通りだが、美容医療について理解を促す広報活動も強化される。
「美容医療は医療か」で議論白熱
- 美容医療の位置づけに関する議論→「美容医療は医療かサービスか」という議論が展開され、多くの意見が「医療として位置づけるべき」との結論に
- エステサロンでの医療行為→HIFUやRF治療などがエステで行われてきたが、2024年に厚労省が医師資格の必要性を通知し、エステでの実施が減少
- 修正治療と保険適用の課題→美容医療が医療と認識されないことでトラブル時の修正治療に保険適用できないという問題が指摘されている
- 法律的な位置づけの議論→美容医療の法律上の位置づけについての議論が今後進展する可能性がある
検討会では、定期報告を求めるだけでなく、義務付けるべきだという声が出たほか、診療録の記述についても記録すべき内容を明確にし、それを義務付けるべきではないかという意見が出た。
25年以降、ガイドライン作りが大きな課題になりそうだ。治療の有効性や安全性を検討するだけならば、医師を中心とした学会で対応できるが、今後作られるガイドラインでは、治療前の説明の仕方、契約に関するルールなど幅広く方針が定められる見通しになっている。国の協力も得ながら進める必要はあるだろう。
第4回の検討会で議論が白熱したのは、美容医療が医療なのかどうかという問題だった。検討会では、美容医療を受けるのは病気ではないから、患者ではなく、利用者ではないか、医療ではなくサービスではないかといった意見も出ていた。議論の報告としては、美容医療を医療として明確に位置づけて、制度を整える必要性があるという意見が大勢を占める結果になった。
もっとも、このような論議が交わされる背景には、美容医療が医師の行うべき医療という点が制度上曖昧に放置されていたことがある。例えば、美容医療に関連するアートメイクが医療行為なのか否か、行政が明確な方針を示さないままの状態が続くという問題があった。背景は、刺青は医療行為ではないと判断した最高裁判所の判決がある。結果として、アートメイクは医療行為であるという行政の通知が出される動きがあった。美容医療の中には、医療行為か否かが明確ではない施術がほかにも多く存在している。明確でないため、例えば、HIFU(高強度焦点式超音波治療)がエステサロンで公然と行われている状況が従来放置されていた。24年、厚労省が医師資格が必要と通知を出して、エステでの実施が激減するという動きにつながった。また、高周波(RF)治療がエステで行われている状況にも同様の問題がないのかなど、課題は残っている。
美容医療が医療と認識されないことに関連した問題はほかにも考えられる。トラブルが起きた時の修正治療をどう扱うかも、医療かどうかがはっきりしないために保険を使って修正治療できないといった課題につながっている。そこには異論も出ている。
※【独自】美容医療で生じた合併症や後遺症、健康保険で治療しないよう厚労省が「行政指導」か
https://biyouhifuko.com/news/japan/885/
今後、美容医療が法律的にどう位置づけるべきか、議論が進む可能性もある。
直美問題は別の観点から対応策の検討へ
注目されてきた直美の問題については、一連の検討会でも議論されたが、厚労省によると、今回の報告書の範囲には含めず、国の別の会議で引き続き検討される見通しとなった。地方で医師不足が深刻になる中で、美容医療に若い医師が集中する動きがあり、それに対して必要な対応策について、引き続き注目される。
今回の検討会の報告書案は検討会の意見を踏まえ、厚労省が反映作業を行い、社会保障審議会医療部会で報告される見通しだ。美容医療をより良くしていくための国の動きは、ヒフコNEWSで引き続き伝えていく。