美容医療を受けたときに、デジタル技術の利用が進んでいると気が付くことがあるかもしれない。AI(人工知能)やAR(拡張現実)、SNS、オンライン診療は、すべてデジタル技術の応用だ。これらはメリットもデメリットもあるので、理解しておくことが重要かもしれない。
米国ボストン大学の皮膚科医ニーラム・ヴァシ氏と、バージニア・コモンウェルス大学のロクサナ・シラジ氏は、2024年11月に、デジタル時代の美容医療から得られる利益と不利益について論文で発信している。
美容医療に融合するデジタル技術
- AIとARの活用→ AIで肌診断や個別ケアプランを提供、ARで施術前後のシミュレーションを実現。「VISIA」が代表例。理想化された画像で過剰な期待を与える危険があり、医師の適切な説明が重要。
- SNSの影響→ 美容医療情報の拡散が進む一方、医学的根拠のない情報や加工画像のリスクも存在。正確な情報発信が必要。
- 遠隔診療の重要性→ 広がる遠隔診療は便利だが、詳細な評価には対面診療が不可欠。両者の補完が求められる。
広がるデジタル技術の代表がAIとAR。AIにより膨大なデータを解析して肌タイプを診断し、個別化されたスキンケアプランを提供するような用途が既に実用化に進んでいる。さらに、ARはフィラーやレーザー治療などの施術前後のシミュレーションをリアルタイムで可能にし、治療結果を視覚的に伝えている。有名なのは、「VISIA」のシステムだろう。UVダメージやシミ、シワなどを高解像度画像を用いて分析し、治療計画につながっていく。デジタルツールは肌状態を理解する助けになる。
このようなAIやARにもリスクがあることを知っておきたい。ヴァシ氏らによると、AIやARが示すシミュレーションでは理想化された画像が示され、結果に過剰に期待させるという。「医師は限界を説明する責任を持つ」とヴァシ氏ら。
ヴァシ氏らによれば、SNSの活用もデジタル時代の美容医療を象徴している。InstagramやTikTokといったソーシャルメディアは、美容医療の情報拡散を一変させるのは知られている通り。治療のビフォーアフター写真や施術動画が共有され、視覚的に治療内容を理解させる。10代から30代を中心に利用は浸透しきっている。これでボツリヌス療法やフィラー注入、レーザー治療が人気になったとさえいえる。自己肯定感を高める効果もある。
よく言われることだが、SNSはデメリットもある。ヴァシ氏らは、デメリットについても説明している。問題として指摘するのは、情報の多くが専門家ではなく、インフルエンサーによって発信されていること。フォロワー数が数万人から数十万人規模のフォロワーを持つインフルエンサーが推奨する美容製品や施術は、一見信頼できそうに思えるが、医学的な裏付けがない場合も少なくないと手厳しい。論文では、医学的な裏付けのない誤情報により、誤った使用が広がるなどの危険性に言及。医師による正確で透明性のある情報発信の重要性を強調している。加工された画像が不必要な美容治療へのプレッシャーを与えることも問題になる。賛否もあるが、医師がSNSを積極的に活用する必要があるという立場をヴァシ氏はとる。
遠隔診療、オンライン診療もデジタル時代の美容医療における重要な要素だ。コロナ禍をきっかけに、美容医療でも遠隔診療が広く一般化した。遠隔診療は便利でメリットは大きい。しかし、皮膚の質感やシワの動きといった詳細は、対面診療でなければ十分に評価できない場合があると論文は指摘。顔の表情筋や皮膚の厚みなど、施術結果に影響を及ぼす要因は、医師が直接診察することで適切に判断できるという。補い合うことが重要だ。
日本への示唆と未来への展望
- デジタル技術の影響→ 日本でもAIやARが広がる中、利益と不利益を正しく理解することが大切。
- 理想化のリスク→ ビフォーアフターのイメージが過剰に理想化されていないか、慎重に見極める必要がある。
- SNSの活用と注意→ 発信情報を鵜呑みにせず、疑問があれば医師に相談する姿勢が重要。
デジタル技術は、日本の美容医療でも広がりを見せるが、利益と不利益について同じように考えて、理解しておくことが大切だ。AIの活用などはこれから広がっていくと思われる。そうした場合に、ビフォーアフターのイメージが理想化されすぎていないかは、疑って掛かるべきなのだろう。SNSでも、発信情報を鵜呑みにしない考え方は、誤った治療を受けないようにするには重要だ。疑問があれば、医師に相談しながら、考えるのが良さそうだ。
ヴァシ氏らは、デジタル技術によって、個人に合った美容医療を進める手段となると期待する。機械と人間の力で、これからの美容医療はより良くなる可能性はある。