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ヒアルロニダーゼの使い方、ヒアルロン酸フィラー注入失敗時の対策、注意すべき血管塞栓などの合併症、韓国の医師が解説

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ヒアルロン酸注入のトラブルのときにヒアルロニダーゼが使われる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

ヒアルロン酸注入のトラブルのときにヒアルロニダーゼが使われる。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 ヒアルロン酸フィラー注入の人気が高まる中で、心配されるのは失敗したときの対処。注入されたヒアルロン酸を溶かすために使われるのがヒアルロニダーゼ。万が一、トラブルに遭った時のために基本的な知識は知っておくことが重要だ。

 韓国の医師が2024年7月、皮膚科の医学誌でヒアルロニダーゼの使い方や注意点について解説を寄せている。

ヒアルロン酸フィラーとヒアルロニダーゼの基本

ヒアルロン酸注入は血管を詰まらせる事故を引き起こすことがある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

ヒアルロン酸注入は血管を詰まらせる事故を引き起こすことがある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • ヒアルロン酸フィラーの用途→顔のシワやたるみを改善するために広く使用される。
  • ヒアルロン酸フィラーのリスク→フィラーを入れすぎる場合や血管を詰まらせるなど、重大な合併症が発生する心配がある。
  • 血管塞栓→血管が詰まること。特に注意すべきは、ヒアルロン酸フィラーが誤って血管内に注入され、血流が遮断されることによる皮膚組織の壊死や失明などの深刻な合併症。
  • ヒアルロニダーゼの効果→血管内に注入されたヒアルロン酸を迅速に分解し、血流の回復を助ける。

 ヒアルロン酸フィラーは、顔のシワやたるみを改善するために広く使用されるが、フィラーを入れすぎるなど注入が失敗した場合や、血管の中に流れて血管を詰まらせるなど、重大な合併症が発生する心配もある。そのような場合に使用されるのがヒアルロニダーゼとなる。ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸を分解する酵素で、論文ではヒアルロニダーゼが使われるケースが次のように示されている。

  • フィラーが意図した場所に注入されなかった場合
  • 過剰な量が注入された場合
  • 左右非対称が見られる場合
  • 注入したフィラーが移動した場合
  • フィラーが硬いしこりを作った場合
  • 注入部位の動きに不快感が生じた場合
  • 注入治療を受けた本人が見た目に満足しない場合
  • アレルギー反応による腫れや炎症が発生した場合
  • 異物反応による肉芽腫が形成された場合
  • ティンダル効果による皮膚の青い変色が見られる場合
  • フィラーによる血管塞栓が疑われる場合

※血管塞栓とは血管が詰まること。肉芽腫はフィラーを取り囲むように異常に組織が増殖したしこり。

 これらの中で特に注意すべきは血管塞栓が起きたときだ。ヒアルロン酸フィラーが誤って血管内に注入されると、血管が詰まり、血流が遮断されることで重大な合併症を引き起こす可能性がある。

 血流が遮断されると、皮膚組織の壊死や失明などの深刻な合併症が発生する。ヒアルロニダーゼは血管内に注入されたヒアルロン酸を迅速に分解し、血流の回復を助ける。

ヒアルロニダーゼを使うときの注意点

ヒアルロン酸注入を受けるときには実績ある医師を選ぶことが重要。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

ヒアルロン酸注入を受けるときには実績ある医師を選ぶことが重要。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 用量→従来は0.1mLのフィラーに5〜15ユニット必要だったが、現代のフィラーには1mLあたり200〜300ユニット、場合によっては500ユニット以上が必要な場合がある。血管塞栓の場合、1500〜3000ユニットを広範囲に注入することが推奨されている。
  • 効果の時間→フィラーの種類によって異なり、注射後約6時間持続するが、効果が不十分な場合は再度注射が必要。
  • 注射方法→生理食塩水で薄めてから注射し、注入部位をマッサージする。硬いしこりには直接フィラー塊に注射が必要。
  • アレルギー対応→アレルギー反応が起こることがあり、皮膚検査や抗ヒスタミン薬、ステロイドの準備が推奨されている。
  • ヒアルロニダーゼの承認状況→ヒアルロン酸フィラーを溶かすための薬剤としてどこの国も承認していない。安全な使い方の確立が重要。

 ここまで見てきたように、ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸フィラーのトラブルに対処するために使われる酵素。

 論文では、ヒアルロニダーゼの使い方や注意点が医療関係者向けに解説されているが、万が一に備え、目を通しておくとよいだろう。

 用量については、従来、ヒアルロン酸フィラーの分解には、通常5〜15ユニットのヒアルロニダーゼが0.1mLのフィラーに必要とされたが、現代のフィラーはより強い架橋がされているため、1mLあたり200〜300ユニット、場合によっては500ユニット以上が必要となることがある。また、血管塞栓の場合、1500〜3000ユニットのヒアルロニダーゼを広範囲に注入することが推奨されており、それだけ大がかりの対応になることが用量からも理解できる。

※架橋とは、分子同士を結合させること。架橋することで硬さを増すなどの変化がある。

 効果を示す時間については、フィラーの種類によって、ヒアルロニダーゼが効果を発揮するまでの時間が異なるため、特に緊急時には迅速な対応が求められる。ヒアルロニダーゼの効果は注射後約6時間持続するが、フィラーの塊が解けづらいときには再度の注射が必要となることがある。血管内での効果は短時間で失われ、迅速かつ繰り返しの投与が必要だという。

 また、ヒアルロニダーゼは十分な量の生理食塩水で十分に薄めてから注射し、注入した部位をマッサージすることで均等に行きわたらせる。ヒアルロン酸フィラーと接する面積を広くする必要がある。

 硬いしこりになっているフィラーは血行が悪く、コラーゲンのカプセルが厚く、効果的に分解するにはヒアルロニダーゼを直接フィラー塊に注射する必要もある。

 アレルギー反応が起こることもあり、必要に応じて皮膚の検査を行い、アレルギーに対処するために抗ヒスタミン薬やステロイドを用意しておくことが進められている。

 ヒアルロン酸フィラー注入が失敗しないことが一番ではあるものの、万が一に備えてヒアルロニダーゼの知識を得ておくことは意味があるだろう。それとともに、フィラーの施術を受ける時には十分に経験のある医師を選ぶことも重要になる。

 一方で、ヒフコNEWSで伝えているが、ヒアルロニダーゼはヒアルロン酸フィラーを溶かすための薬剤としてどこの国も承認していない。安全なヒアルロニダーゼの使い方を確立していくことが重要になっている。

参考文献

Hong GW, Yi KH. Fundamental considerations for the use of hyaluronidase, an enzyme for degrading HA fillers. Skin Res Technol. 2024 Jul;30(7):e13839. doi: 10.1111/srt.13839. PMID: 38951943; PMCID: PMC11217013.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38951943/

ヒアルロン酸フィラー注射の溶解に課題あり、ヒアルロニダーゼの使用法にばらつき、美容外科医学誌がガイドラインの必要性を指摘
https://biyouhifuko.com/news/research/7529/

オーバーフィルド症候群(入れすぎ症候群)の最新治療、超音波を活用したヒアルロニダーゼ注射とは?欧州の研究グループが報告
https://biyouhifuko.com/news/research/6079/

ヒアルロン酸フィラーの溶けやすさは?米国皮膚科学研究で示されたヒアルロニダーゼの実験結果
https://biyouhifuko.com/news/research/2865/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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