米国ハーバード大学の研究チームが発表した新たな研究によると、妊娠が女性の生物学的年齢を加速させることが明らかになった。
フィリピンで実施されたこの研究は、1735人の成人を対象に、妊娠経験と「エピジェネティック・クロック」と呼ばれる生物学的年齢の指標との関連を分析したものだ。
※生物学的年齢とは、生まれてからの年月によって決まる「暦年齢」とは異なり、体の組織や細胞の老化の度合いなどに基づいて決まる年齢のこと。
妊娠の影響は「エピジェネティック・クロック」に?
- エピジェネティック・クロック→ 老化の度合いを測定し、生物学的年齢を明らかにする方法。
- 妊娠と生物学的年齢→ エピジェネティック・クロックを用いた研究で、妊娠が生物学的年齢に与える影響が調査された。
- 研究方法→ 6つのエピジェネティック・クロックを用いて妊娠と生物学的年齢の関連が測定された。
生物学的年齢は、治療や生活習慣の改善効果を評価する上で重要な指標となる可能性がある。例えば、ある治療を受けた結果として「生物学的年齢が50日分若返った」「寿命が50日分延びた」などと具体的に示されれば、その効果を客観的に理解することができ、治療の意義も明確となる。
このような評価を可能にするための方法として、特に注目されているのがエピジェネティック・クロックだ。「DNAのメチル化」を利用したこの方法は、老化の度合いを測定し、生物学的年齢を明らかにする手段として、美容医療や健康管理の分野で今後ますます重要視されることが予想されている。
※「DNAのメチル化」とは、遺伝情報を収めているDNAにメチル基と呼ばれる分子が付くことで、遺伝子の発現のオン、オフを調整する仕組みのこと。このようなDNAの調節の仕組みは、エピジェネティックな変化と呼ばれている。これは生物学的年齢によって変化することが分かっている。
従来の研究では、妊娠のような生殖活動に投資されるエネルギーは身体の維持や修復に費やされるエネルギーを犠牲にすることが考えられていた。これに関連して、出産回数が増えることが寿命の短縮や健康の低下と関連することも知られていた。一方で、これまで健康の衰えが始まる前に妊娠が生物学的年齢に与える影響は評価されていなかった。
今回の新たな研究では、エピジェネティック・クロックを用いて、妊娠が生物学的年齢に与える影響が調べられた。
調査対象は05年の時点で21歳前後の女性825人と男性910人。05年にすべての男女の血液が調べられたほか、09年~14年には、この間に少なくとも一度は妊娠していた331人を対象に追跡調査も行われた。
エピジェネティック・クロックには複数の方法が存在し、今回6つのエピジェネティック・クロックが使用され、妊娠と生物学的年齢との関連が測定された。
妊娠回数と加齢の加速
- 妊娠回数と生物学的年齢→ 妊娠回数が多い女性ほど、生物学的年齢の加齢がエピジェネティック・クロックで加速することが確認された。
- 25歳から31歳の間→ この期間に妊娠回数が増えると、2つのエピジェネティック・クロックにおける生物学的年齢の加齢が加速することが確認された。
- 妊娠の影響→ 全体的に見ても、また特定の期間だけを見ても、妊娠が生物学的年齢に影響を与えていることが示された。
調査の結果、妊娠が生物学的年齢に影響を与えていることが明らかになった。
具体的には、05年の調査では、妊娠回数が多い女性ほど、生物学的年齢における加齢が全てのエピジェネティック・クロックで加速していることが確認された。
さらに、09年から14年にかけて25歳から31歳の間の変化を調べたところ、この期間での妊娠回数の増加が、2つのエピジェネティック・クロックにおける生物学的年齢の加齢に関連していると確認された。
全体的に見ても、また特定の期間だけに限っても、妊娠の生物学的年齢に影響を与えていることが示された。
一方で、同年齢層の男性では、女性の妊娠回数と生物学的年齢の進行との間に有意な関連は認められなかった。このことから妊娠そのものが女性の生物学的年齢の進行を早める一因である可能性が考えられた。
こうした研究を見ると、妊娠後には、エイジングに一層敏感になる必要性があると考えられる。