
城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)
小川英朗(おがわ・ひであき)氏
城本クリニック福岡院・院長
- 違法行為こそが「悪徳」→小川氏は、麻酔の無資格実施や虚偽説明など、明確な法令違反を「悪徳美容外科」と定義する。
- 個別の不満は悪徳とはいえない→満足いく仕上がりにならないなどの不満から悪徳としてSNSで批判するのは適切ではない。トラブルは法律に則って解決されるべき問題。
- 医療広告とモラルの欠如→SNS上で医療広告ガイドラインに違反した投稿や、モラルを欠く発信が後を絶たない。
──自身で「悪徳美容外科」の批判を発信してきた。
小川氏: 私はSNSで「悪徳美容外科バスター」として活動していた時期がありました。ただ、そこで扱っていたのは、明確に違法性がある、医師法に抵触しているような事例に限っていました。
私の定義では、悪徳とは「明確に刑事的な違法行為を行っているレベル」のことを指します。
例えば、医師法に違反して、看護助手に麻酔行為をさせていたケースや、契約上明らかに虚偽の説明をして施術を勧誘すること。
例えば、「この糸リフトは一生持ちます」といった虚偽説明によって勧誘することは問題があります。本来、糸リフトは上手な医師が施術しても半年〜1年が持続の目安です。それを知っていながら「永久効果」などと誇大にうたって契約させるのは、契約詐欺と見なされてもおかしくない。
そういった明らかな法令違反・詐欺的手法を、私は「悪徳」として批判してきました。美容医療に関して、私は「悪徳」という言葉を軽々しく使わないようにしているのです。
その上で、本当の意味での悪徳美容外科が存在するのも事実です。
──法的に問題の行為を問題視している。
小川氏: 私の知人にも監禁まがいの勧誘を受けた人がいますし、厚生労働省や警察が介入した案件もあります。こうしたレベルのものこそが、「悪徳美容外科」として批判されるべき対象だと考えています。
一方で、「思ったような結果にならなかったから」、「対応が悪かったから」といった理由だけで、個別の不満を「悪徳」とラベリングしてしまうのは、大きな誤解だと思います。
確かに施術に不満を持つのは自然な感情ですが、それは「犯罪」とはまったく別物です。トラブルがあったからといって、すぐにSNSなどで一方的に「このクリニックは悪徳だ」と断定する行為は、極めて危ういものです。
──SNSでの医師への批判が多く投稿されている。
小川氏: SNS上では、被害を主張する側の声が拡散されやすく、医師やクリニック側の意見が十分に届かないのではないかと思うことがあります。
特定のアカウントが一方的にある医師を叩き続けるようなケースも見られます。
その是非はさておき、「被害を訴える声=真実」として無条件に受け入れられる風潮には違和感があります。
本来であれば、争いがあるなら弁護士を介して当事者間で解決すべきであり、それをSNSで煽るような行為は、当事者をさらに追い詰めるだけです。
──悪徳というよりかは、モラルや倫理観の問題が話題になることがある。
小川氏: 2024年10月、SNSに関するセッションの中でもお話ししましたが、確かに「これはさすがにおかしい」という事例を目にすることは少なくありません。
例えば、医療広告には、SNSでの発信にも適用されるガイドラインがあり、医療従事者であれば当然ご存知だと思いますが、現実にはそのガイドラインに明確に違反しているクリニックや医師が後を絶たない状況です。例えば、明らかに現実的ではないビフォーアフター画像を使って、「ここまで変わる」と誇張する投稿は問題です。
ギリギリ違反とはいえない場合も、「これは医師としてのモラルが問われるのではないか」と感じるような発信や行動も数多く見られます。発表では、倫理観の欠如が際立つ事例について取り上げました。例を挙げると、芸能人の整形を暴くような内容、小学生を対象に感動的な整形動画を配信するケースなど、常識的に考えて疑問を感じるような行為が堂々とSNSに流れていることがあります。
私は、そういった行為にはモラルの観点から強い違和感を持っており、そうした姿勢に対しては公の場でも繰り返し注意喚起してきました。
──2024年には厚生労働省でも検討会で対策が話し合われていた。
小川氏: 実際のところ、それで業界全体がすぐに変わるとは思っていません。
多くの医師が「注目されたい」、「売れたい」という気持ちを優先し、不安を煽るような発信や、ルッキズムを助長するようなコンテンツを出しているのが現状です。
若い人の整形を「エンタメ化」する流れも強まっており、そこに医療的な責任や配慮が伴っていないケースも少なくありません。

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)
- 「売名」ではない→SNS発信は集患目的ではなく、業界是正のための活動であり、むしろ売上や人間関係のリスクを伴った。
- 制度改善へ意識転換→個人発信の限界を自覚し、仕組みそのものを変えるべきという考えに至り、行政や学会への提言にも関与し始めている。
- 地域から業界の質向上へ→福岡を拠点に若手・ベテランをつなぐ医師の連携を強め、美容医療の信頼回復と発展を地域から後押ししている。
──批判がPRにつながる。ご自身が「ポジショントーク」と指摘されることもある。
小川氏: 「売れるためにああいう発信をしているのではないか」といった声も見かけますが、それは完全な誤解です。私がTwitterで「悪徳美容外科」についての発信を始めたのは2018年頃ですが、当時、既に予約が常に埋まり、いわゆる売れている状態になっていました。「告発的な発信を始めたことで知名度が上がった」、「人を集めることができた」ということは一切ありません。
──PRの必要がなかった。
小川氏: むしろその逆です。Twitterの発信をきっかけにSNSを通じて来る層が大きく変わりました。InstagramやTikTok経由で訪れる方々とは異なり、既に複数の医師を回ったドクターショッピング層が増えました。
この変化により、これまで10分で終わっていたカウンセリングが30分かかるようになったり、対応が難しい方も増えてきたりしました。結果的に診られる人数が減り、売上はむしろ下がったのです。
ですから、「売名行為だ」や「ポジショントークだ」といった批判は的外れだと思っています。
──対応の難易度が上がった。
小川氏: 自分にとって発信は、何の経済的メリットもないどころか、むしろリスクもあるものでした。他人の実名を出して攻撃することは一度もしていませんが、発信の内容によって「自分のことを言われているのではないか」と感じた医師から反感を買ったこともありました。
一部からは「怖い先生」と警戒され、業界内での人間関係も難しくなった面があります。もちろん、真面目に取り組んでいる他の先生方とつながれたことは、発信活動の大きなメリットの一つです。
また、当時は「そんなことをしていたらフリーズされる」などとも言われました。
さらに今ではSNSを見れば誰もが「このクリニックには気をつけろ」、「この特徴は要注意」といった発信を当たり前のようにしている時代です。自分自身がまともな医療をしているかどうかはさておき、他のクリニックや医師を名指しで批判するような投稿が増えています。私が2018年から行ってきた「悪徳美容外科の問題提起」の焼き直しのような内容も多く見られるようになりました。
そうした発信を通じて注意喚起が進み、一般の方々が賢くなってくれるなら良い面もあると思います。しかしその一方で、「問題を指摘している側」が信頼に足りる医療を提供できていないケースもある。結果的に、そうした医師のもとに人が流れてしまうような状況には、やはり懸念を覚えます。
だからこそ、私はもう次の段階に進むべきだと感じています。
──ステージが変わる。
小川氏: いくら個人がSNSで問題を指摘しても、それに届くのは一部の人に限られます。本当に変えるべきは、「仕組みそのもの」なのです。
日本国内の美容医療の需要は飽和状態で、韓国に人々が流れている現実があります。私が拠点とする福岡も、交通の便が良いですから、韓国に容易に渡航できます。
私は福岡で「福岡美容医師の会」という若手中心の勉強会グループを立ち上げて活動してきました。昔からある「九州美容外科医の会」という、長年地域に根差したベテランの先生方の会も存在しています。
最近、この2つの世代や立場の異なる会を融合させ、語り合う場を作ろうという動きがあり、私もそのお手伝いをさせてもらいながら福岡の美容医療をより良くしたいと考えています。
私はまだ学会の理事や政治的な立場にある人間ではありませんが、関係の深い先生方を通じて、美容外科学会や厚生労働省への政策的な提言や意見を間接的に届けるようなフェーズに入りつつあります。
例えば、厚生労働省の検討会に関連して意見交換をする機会もありました。国やメディアにも届くようになり、一般誌でも取り上げられるようになりました。少しずつ潮目が変わり始めていると感じています。(終わり)

城本クリニック福岡院・院長・小川英朗氏(写真/編集部)
プロフィール
小川英朗(おがわ・ひであき)氏
城本クリニック福岡院・院長
2008年3月、九州大学医学部医学科卒業後、佐田厚生会佐田病院研修医、九州大学病院研修医を経て、10年4月に九州大学病院脳神経外科。12年9月に美容外科専門クリニック入職を経て、2014年12月城本クリニック。日本美容外科学会専門医(JSAS)。
