授乳や加齢により、バストの形が崩れて悩む女性は少なくない。しかし、「大きくする」こととは別のアプローチで、本来のバストラインを取り戻す手術、バストリフト(乳房吊り上げ術、乳房挙上術、乳房固定術)についてはまだよく知られていないかもしれない。乳房のアンチエイジング手術の実際について、神戸大学客員教授の原岡剛一氏に話を聞いた。(聞き手/ヒフコNEWS編集長 星良孝)

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏。(出典/原岡氏)
原岡剛一(はらおか・ごういち)氏
神戸大学形成外科客員教授
- 日本の傾向 → 「バストを大きくする」手術(シリコンインプラント、脂肪注入など)が主流だが、「若いころのハリを取り戻したい」という相談も多い。
- 加齢変化の実際 → 授乳後などに乳腺ボリュームが減少し、靭帯・皮膚の支えが弱くなることで、バストの位置や形が変化する。単なるボリューム追加では満足できないケースが多い。
- 手術の方向性 → 顔にフェイスリフトが必要なように、バストには「切開バストリフト」が効果的。過度なインプラント挿入は「入れ過ぎ症候群(over filled syndrome)」のリスクがある。
原岡氏: 日本では「バストを大きくする」手術が主流です。シリコンインプラントの挿入や脂肪注入などが代表的ですね。ただ実際には、「若いころのようなハリを取り戻したい」というご相談も多いのです。
例えば、授乳を経た後などに乳腺のボリュームが減り、靱帯や皮膚の支えが弱くなることで、バストの位置が下がったり、全体の形が変わってしまったりすることがあります。そうしたケースでは、単に体積を足すだけでは満足できる仕上がりにならないこともあります。
ハリがないから、ただボリュームを足せばいいという話ではありません。そこに脂肪を入れる、インプラントを入れるというのは選択肢の一つではありますが、ただ単に大きくしてもうまくいきません。
なぜなら、たしかにバストにエイジングの変化として乳腺は萎縮するのでボリュームを足すことは間違いではありません。が、同時に皮膚や靭帯のたるみが「ハリ」「形」「位置」といった要素に大きく影響しますから、理想のバストに近づけるためにはアプローチ自体を変える必要があるのです。
──どのように対応すれば?
原岡氏: お顔については、エイジングによる変化の原因は、皮膚のたるみ、靭帯(各種retaining ligament)のたるみに加えて、脂肪の減少や骨格の変化の関与が解明されており、それに対応する様々な治療が発展してきました。HIFU(高強度焦点式超音波治療、ハイフ)や高周波のような機器を用いる方法、ヒアルロン酸や脂肪などの注入を用いる方法、糸(スレッド)による引き上げる方法などがありますが、その中でも最も効果が高いものは切開によるフェイスリフトであることは間違いありません。
バストもエイジングによる変化を元に戻すという意味では、アンチエイジングの一環と考えるのが妥当と考えています。バストもお顔と同じように考えるとわかりやすいでしょう。バストは顔と違ってボリュームがあるので、HIFUや高周波のような機器を用いる方法や糸(スレッド)による引き上げる方法はほとんど効果が期待できません。少しのたるみであれば、お顔にヒアルロン酸を注入するように、シリコンインプラントを入れることで改善させることができます。でも、お顔へのヒアルロン酸の注入には、「over filled syndrome(オーバーフィルシンドローム)」という「入れ過ぎ症候群」が問題になっていますが、バストがたるんだからといって大きなシリコンインプラントを入れることは、やはり「入れ過ぎ」が問題になるのです。お顔に切開フェイスリフトが必要なように、バストにも切開バストリフトが必要なのです。
バストリフトは、位置が下がったバストに対して、余分なたるみを除去し、皮膚を引き締めて整えることで、形と位置を大きく改善する手術です。必要に応じて乳腺や脂肪の減量や固定も行い、見た目だけでなく、構造的にも安定したバストを目指します。
──どんなケースで手術を行う?
原岡氏: どのような手術が適しているかどうかは、「どのくらいバストが下がっているか」「どのくらい乳腺が萎縮したのか?」「どのくらい皮膚がたるんでいるか?」などによって決まります。つまり下がってしまった乳頭の位置がどの程度あげたいのか、皮膚はどの程度のたるんでいて、どの程度引き締めたいのか、乳腺のボリュームは減らしたいのか、などから総合的に判断します。
手術の方法は、理想とするバストの形だけでなく、普段の運動習慣や好む服装といったライフスタイルにも合わせて調整しています。例えば、激しい運動を日常的にする人には、安定性を重視した方法を選ぶことも必要です。
- 手術方法の段階 → バストの状態・希望・傷跡の許容度により術式が異なる。
・軽度のたるみ:乳輪周囲を切除するドーナツ型皮膚切除法(局所または静脈麻酔)
・中等度のたるみ:乳輪下部に縦方向の皮膚切除を行う縦切開法
・重度のたるみ:乳房下溝に横方向の切開を加える逆T字切開法(全身麻酔)で皮膚とボリュームを再構築- 手術時間と経過 → 手術は最大4時間ほど。術後は圧迫固定を行い、1週間後に抜糸。その後1カ月・3カ月・半年と定期フォローを実施。
- 満足度と効果 → 美容面だけでなく、バストの重さや位置による皮膚炎・姿勢不良・服の制限などを改善し、生活の質(QOL)を高める有効な手術。
──バストの状態によって、手術方法にも段階がある。
原岡氏: はい。バストの状態、手術を受けられる本人の希望や傷の長さへの受容れに応じて、手術方法は変わります。
最も傷が小さく済むのは、乳輪の周囲をドーナツに切除し、余分な皮膚を絞るドーナツ型皮膚切除法です。乳輪の位置を上げながら、バストの張りも回復できます。局所麻酔でも対応できますが、緊張や痛みを最小限に抑え、より精密な操作がしやすくなるため、静脈麻酔でリラックスしていただく方法を選ぶこともあります。
中等度以上にバストの位置が落ちて、皮膚がたるんでいる場合には、乳輪から下の部分のに皮膚を縦方向に取り除いて縫い縮める縦切開法を行います。
さらにバストの位置が下がって皮膚の余りが多い場合には、バストの下側の溝の辺り(乳房下溝)に横方向の皮膚の切除を行い、逆Tの字に皮膚を切除する方法を選択します。切開が増えますが、余剰皮膚をしっかり除去し、バストの自然な丸みや位置を立体的に再構築することが可能になります。また乳腺の量を調整することも可能です。どうしても皮膚の縫合線が長くなりますが、多くは時間の経過とともに傷跡が目立たなくなっていきます。この手術には全身麻酔が必要となります。
──傷跡に配慮することも大切。
原岡氏: 切開のラインは、できるだけ目立ちにくい場所にするのが基本です。
例えば、乳輪の周囲は色の境目があるため傷が目立ちにくく、バストの下側(乳房下縁)はもともと溝になっていますから傷跡が隠れやすい位置とされていおり、しばしば選択されます。お顔のフェイスリフト手術には「フェイスリフト切開」という切開ラインが決まっていますが、バストリフトにも切るべきラインがあるのです。
皮膚の縫合方法にも工夫があります。皮膚の内部をしっかりと縫い合わせることで、表面に段差ができるのを抑えるだけでなく、長期にわたって皮膚が引っ張られる力(張力)をコントロールことができます。さらに、術後もテーピングで張力をコントロールすることで、傷跡をきれいに治すことを目指します。もともと傷が残りやすい体質の方には、テーピングの期間を長めにしたり、シリコンジェルや圧迫具を使ったりして丁寧にケアします。下着でバストを支えてあげることも大切です。
実際には多くの方々で時間とともに傷は目立ちにくくなり、仕上がりへの満足度にも大きく影響しない印象です。
──理想のバストのとらえ方は人それぞれ違う。
原岡氏: 例えば、必ずといって良いほど、バストには左右差があります。それを手術で完全に揃えるというのは、非常に難しいのです。なので、事前にきちんと相談して、理想と限界を擦り合わせてから、手術に臨んでいただくことが大切です。
──手術時間やダウンタイムなどは?
原岡氏: 手術時間は、範囲によりますが、大きなものでは4時間くらいかかります。私の場合は、術後はテーピングや圧迫帯をしっかりと行い、軽く圧迫します。もちろん手術には一定のリスクがあり、術前にはしっかりと説明と同意が必要です。出血や腫れなどの可能性を考慮して、術後の経過観察も丁寧に行います。1週間後に抜糸があって、その後も1カ月、3カ月、半年と、定期的に経過を見ていきます。
──再び位置が下がってくることもある。
原岡氏: 重力の影響を受けるので、時間とともに再び下がってくるのは避けられません。やっぱり無理に高い位置に乳輪を上げると、皮膚が引っ張られて赤くなったりとか。形も崩れやすくなる。だから、ある程度計算して、最終的に落ち着いたときにどう見えるかを考えて設計するのは大事です。
──バストのアンチエイジングとして広まって不思議ない。
原岡氏: バストリフトの手術はとても有効な手術にもかかわらず、「バストの手術=豊胸」という固定観念が強く、その情報が届かない方が多いです。バストリフトには経験が必要なため、対応できる医師や施設が限られていることも一因です。
私は形成外科医として乳房再建手術を専門として多くの方々の治療を担当した経験から、バストリフトは決して特別では無い手術の一つとなっています。そのせいもあって、神戸大学美容外科在籍時には、多くのバストリフトを担当してきましたが、遠く関東・四国・九州からも受診がありました。ニーズは確実にある一方で、対応できる医師が不足しています。だからこそ、今後、提供できる体制を広げたいと考えています。
──満足度は高い?
原岡氏: 見た目だけでなく、日常の困りごとを解決できる手術です。男性には想像できないことですが、女性は大き過ぎるバスト、下がってしまったバストに下着が合わない、乳房下溝の肌がかぶれて白癬まで生じてしまう、好みの服が選べない、姿勢が悪くなるといったお悩みを抱えておられます。乳房下溝の部分に汗が溜まってしまうので、タオルを挟んで生活している方もおられるのです。手術によってこうした悩みが減ると、生活の質が上がります。鏡を見るのが楽しくなった、背筋が伸びた、運動が再開できた、と喜ばれる方が多いです。美容外科といっても美しくなるだけではありません。暮らしやすくなること、つまりQOL(quality of life)を上げることが大切です。バストリフトは、そのような意味でもとても有用な手術だと考えています。
プロフィール

原岡剛一(はらおか・ごういち)氏
原岡剛一(はらおか・ごういち)氏
神戸大学形成外科客員教授。1994年大阪市立大学医学部卒業。形成外科医として乳房再建を含む多くの領域を学び、美容外科に進む。神戸大学医学部附属病院美容外科診療科長などを経て、2023年より現職。ソウル大学形成外科客員教授兼務。現在Zetith Beauty Clinic大阪院(大阪心斎橋)、プリモ麻布十番クリニック(東京麻布十番)で美容外科診療を行っている。日本形成外科学会専門医・評議員・美容医療に関する委員長、日本美容外科学会(JSAPS)理事・専門医・学術教育委員長、日本美容医療協会理事・市民公開講座委員長などを歴任。美容医療のエビデンス確立と啓発に注力している。
記事一覧
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バストのアンチエイジング、豊胸ではなく若返り、位置・張り・形を取り戻す、知られざるバストリフトの世界、神戸大学客員教授の原岡剛一氏に聞く 前半
https://biyouhifuko.com/news/interview/15041/ -
美容だけではなく「身体の悩みの解決」の要素も大きい乳房縮小術、バストのサイズダウンという選択肢の実際、神戸大学客員教授の原岡剛一氏に聞く 後半
https://biyouhifuko.com/news/interview/15152/
