
西川礼華(にしかわ・あやか)氏。湘南美容クリニック皮膚科全体統括。(写真/湘南美容クリニック)
西川礼華(にしかわ・あやか)氏
湘南美容クリニック皮膚科全体統括
- 全件報告の仕組み→有害事象・合併症が一定レベルで起きた場合、医師・看護師は本部の安全対策チームへ即日報告。現場任せにしない体制を構築。
- 定点観測と是正→感染やヤケドなどの発生率をデータで継続監視。増加傾向があれば原因(出力・マニュアル・機器・教育)を特定し、迅速にプロトコルを修正。
- 攻めと守りの分業→新治療を検討する「攻め」のチームと、安全性を監視する「守り」のチームを分けて運用。両輪で進化と安全を両立。
──安全面の評価はどのように行っている?
西川氏: 本部に「安全対策」を管理する部署があります。医師も看護師も含めた多職種で成り立っているチームです。
日々診療している中で、有害事象や合併症が一定レベルで発生した場合、現場にはこの本部組織に報告する義務があります。例えばヒアルロン酸で感染が起きた場合は報告フォームを記入し、その日のうちに安全対策チームに連絡する仕組みです。
──報告が集まる仕組みがある。
西川氏: 目的は大きく二つあります。一つは、その医師が合併症への対応を適切にできているかを見ること。うまく対応できていなければ、現場に指導が入ります。
もう一つは、データを蓄積して発生率を定点観測することです。「今年は感染が多い」「脱毛のヤケドが増えている」といった変化を、数値として把握できます。増加傾向があれば、安全対策チームがアラートを出します。
例えば皮膚科領域で「ある治療のヤケドが多い」となった時、こちらは原因を洗い出します。出力設定なのか、マニュアルなのか、機械の不調なのか、看護師教育のレベルなのか。原因を特定し、プロトコルを軌道修正します。安全対策チームがアラートを鳴らすことで、現場の修正が速くなります。
──安全対策についてもチームがある。
西川氏: SBCメディカルグループHDの相川佳之代表がよく言うのは、アクセルを踏む攻めのチームだけだとトラブルが起きやすい。守りが強すぎると、新しいことができず、効果の薄いプロトコルになってしまう。経営の肝は、攻めと守り、どうバランスをとるかだと。
新治療を検討するチームは攻めの役割を担う。一方、安全対策チームは守りの役割で、異常があればアラートを鳴らす。両者がセットで回ることで、進化と安全の両立ができると考えています。
- 合併症データを学術に還元→ヒアルロン酸やボツリヌス療法などの合併症データを基に国際論文を発表。学会発表を「改善のための仕組み」として活用。
- 大規模データで迅速な是正→施術者・施設ごとの差をデータで可視化し、問題があれば即座に指導。規模の大きさを安全管理に生かす。
- 2026年に向け安全重視→自由診療だからこそ標準化と安全性評価を強化。「今はブレーキを踏む時期」とし、持続可能な発展を重視。
──合併症データは、学会発表や論文化にもつなげている。
西川氏: 私自身も、合併症データを基に国際論文を4本出しています。テーマはヒアルロン酸やボツリヌス療法、脂肪冷却に関する合併症などです。
データを論文化したり学会発表を行ったりすると、医師がある一点だけでなく、経時的な変化も含めて客観的に見られるようになります。「ここをこう工夫したから良くなった」「ここはまだ改善余地がある」といった気づきが生まれる。だからこそグループとして、学会発表を推奨しています。2024年は国内外で発表が27件ありました。
──発表することで、グループ内の改善にもつながる。
西川氏: 発表を通じて、強みや弱みが見える。すると次の改善につながる。学会発表を「目的」ではなく「仕組み」として使う、という感覚に近いかもしれません。
──大手ならではの豊富なデータを生かすことができる。
西川氏: 例えば特定の施術者にご指摘が多い、ということも、規模が大きいからこそ相対的に見えやすい。私たちのグループではデータに基づいて客観的に把握しています。
ですから「この院のこの人はご指摘が多い」と把握できたらすぐに指導を入れます。データがあるから、フィードバックが速い。これは大手の強みだと思います。
──2026年に向けての展望を。
西川氏: 美容医療は自由診療なので、新しい治療を柔軟に取り入れられる強みがあります。一方で、保険診療のように診療指針やガイドラインが十分に整備されているかというと、未熟な領域だと思います。
だからこそ、治療の標準化や再現性、安全性と有効性の評価、とりわけ安全の観点を持って評価できる体制を、さらに強める必要があると考えています。
今、美容医療は注目度が高く、問題も含めて業界全体が見られています。健全かつ持続可能な発展のためには、今は「ブレーキを踏む」タイミングと思っています。
安全に、着実に成長させていく姿勢が欠かせません。守る力がないと、どこまで攻めていいか分からない。だから安全管理を軸に据える。安全性と標準化の土台を固めたいと思っています。
──「直美」についての考えは?
西川氏: 直美問題は、診療科や地域の偏りの問題として、よく話題に挙がります。
ただ、それは要因の一つかもしれませんが、そのような偏りは多くの要因により生じているので、直美だけが問題なのかには疑問もあります。むしろ保険診療をどう健全化させるかという議論も重要だと思っています。
一方で、初期研修後に専門的な知識を持たず美容医療に入ってくるなら覚悟が必要です。学ぶ姿勢は人一倍持つべきですし、「SNSでキラキラして稼ぎたい」といった動機で来るのは全く良いと思いません。
採用説明会でも「湘南美容クリニックは厳しい」「忙しいし勉強させる」「評価項目も多く可視化される」「覚悟がないなら来ないでください」とはっきり言っています。どんなバックグラウンドであっても、美容医療は学び続けないといけない。それが基本です。(終わり)
プロフィール

西川礼華(にしかわ・あやか)氏。湘南美容クリニック皮膚科全体統括。(写真/編集部)
西川礼華(にしかわ・あやか)氏
湘南美容クリニック皮膚科全体統括
2013年横浜市立大学医学部医学科卒業。2015年国立病院機構東京医療センターで臨床研修修了後、湘南美容クリニックに入職。2018年湘南美容クリニック皮膚科全体統括。2023年SBC東京医療大学客員教授。日本美容皮膚科学会、日本美容外科学会(JSAS、JSAPS)、日本再生医療学会、日本先進医療医師会、日本抗加齢医学会、日本医学脱毛学会、日本レーザー医学会、ASLMS(米国レーザー医学会)など所属。
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