
学会や講演会では、外部メディアによる取材対応や情報発信のあり方も問われる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
ダイヤモンド・オンラインで、ヒフコNEWSの記者も務める村上力氏が、日本美容皮膚科学会の運営をめぐる内部対立について報じている。
記事では、学術大会の余剰金や大学への寄付、製薬会社からの資金、利益相反の申告など、学会運営の透明性に関わる複数の論点が取り上げられている。どちらの側の主張が正しいのかについて、本稿で判断するつもりはない。
ただ、学会の運営や企業との関係が社会的な関心を集めている時だからこそ、外部のメディアが独立した立場から取材し、検証する意味は大きい。
筆者もダイヤモンド・オンラインの連載で、美容医療をめぐる問題を継続的に伝えている。今回の問題を機に、ここでは内紛の行方そのものではなく、同学会の取材対応などを手掛かりとして、より俯瞰的に学会が外部の検証をどう受け止め、社会に対してどのような役割を果たすべきなのかを考えていく。
取材を難しくし、最後には記事の事前確認を求める理由とは?

学術大会は専門家が集まり、研究や医療の課題を共有する場であると同時に、社会への情報発信の場にもなる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 取材規定→取材対象者の事前承諾を求める一方、学会は仲介せず、会場で演者に声を掛けることも禁じている。
- 記事の事前確認→公表前の記事を学会側が確認する仕組みは、通常の事実確認とは異なり、報道の独立性との関係が問われる。
- 組織の姿勢→外部からの取材や検証をどう受け入れるかは、学会の透明性や意思決定のあり方にも関わる。
日本美容皮膚科学会では内部対立が報じられる中、7月31日に定時社員総会が、続く8月1、2日に第44回総会・学術大会が開かれる。
筆者としても、現地で何が語られるのかを取材し、その状況について考えてみたいところだ。もっとも、現時点で内紛そのものを記事にすると決めているわけではない。どのような議論が行われるのかを見た上で、報じる意味があるかを判断することになる。
そこで気になるのが、同学会の取材規定だ。
規定では、取材対象者から事前に書面で承諾を得るよう求める一方、学会はその仲介を一切行わないとしている。発表終了後に会場内で演者へ声を掛けることも禁じている。その上、取材内容を公表する際には、学会側が事前に原稿や記事を確認すると定めている。
実際の取材規定を読むと、その運用が取材する側にとって相当に厳しいものであることが分かる。
演者の連絡先を持たないメディアは、どのように事前承諾を得ればよいのだろうか。
医療機関で診療中の医師に連絡を取り、取材の日程を調整することは、医師や医療機関側に少なからず負担をかける。学会は多くの専門家が一堂に集まり、診療への影響を抑えながら取材できる貴重な機会でもある。
そうした学会の役割を踏まえると、取材に至る経路を狭くしながら、記事を公表する段階では学会による確認を求める現在の仕組みは、意図が分かりにくい。取材を円滑に受け入れるための規定なのか、それとも取材を制限するための規定なのか、外部からは判断しづらい。
仮に学会の運営や内部対立について取材した場合にも、取材対象である学会に公表前の記事を提出し、確認を受けなければならないのだろうか。そうだとすれば、やはり違和感がある。
もちろん、正確な報道のため、氏名や所属、数値、医学用語などを取材先に確認することはある。必要に応じて、関係者の見解を聞くこともある。これは取材者と取材先との信頼関係に基づく、通常の事実確認だ。
しかし、メディアが必要と判断して事実関係を尋ねることと、記事の公表条件として一律に事前確認を求められることは同じではない。記事の構成や評価、論調について最終的な責任を負うのは、取材対象ではなくメディアだからだ。
今回の内紛報道によって、学会自身が取材対象となる場合にも同じ規定を適用するのかという、制度上の問題が浮かび上がった。
そして、この問題は取材や情報発信だけにとどまらないようにも思える。外部からの検証をどのように受け止めるのか、異なる意見をどこまで許容するのか、誰がどのような手続きで判断するのか。取材規定には、学会全体の意思決定や組織運営の姿勢が表れ得る。
今回報じられたような組織の性質と取材規定が直接結び付いていると断定することはできない。とはいえ、学会運営の透明性が問われている時に、外部からの取材を厳しく制限し、公表前の記事確認まで求める規定が存在することは、組織の体制を考える上でも無関係とは言い切れない。
ただ、学会が外部からの取材や検証をどのように位置づけているのか、その姿勢が取材規定に表れていると考える。
今回の内紛報道を機に、日本美容皮膚科学会は取材規定だけでなく、外部の意見や検証を受け入れる組織の体制についても、改めて考えてはどうだろうか。より開かれた学会運営を目指すのであれば、情報発信のあり方と組織の意思決定を、切り離さずに見直す必要がある。
事前確認と参加料、学会は理由を説明できるか

取材では、発表内容や関係者の説明を確認しながら、独立した立場で検証する姿勢が重要となる。画像はイメージ。(出典:Adobe Stock)
- 企業との関係→企業共催の講演を報じる際に企業が事前確認へ関与すれば、独立した報道と販売促進の境界が曖昧になりかねない。
- 参加料→報道関係者から徴収する参加料が、取材対応の実費なのか大会収入なのか、目的を明確にする必要がある。
- 開かれた運営→資格を確認した報道関係者を無料で受け入れ、記事内容はメディアに委ねる運用が、情報発信と報道の独立性につながる。
もう一つ考えたいのが、企業による情報提供と、報道の独立性との関係だ。
美容医療の学会では、企業による製剤や医療機器の展示、共催セミナーが数多く行われている。医療関係者が製品や技術について情報を集め、医学的な立場から検討する場であり、そのこと自体を問題視するつもりはない。
しかし、企業が関係する講演を報じる記事について、学会が公表前の確認を一律に求めるとなれば、話は別だ。企業がその確認に関与すれば、独立した報道と販売促進との境界が曖昧になりかねない。
特に美容医療の分野では、国内で未承認の製剤や医療機器が扱われることも多い。記事が販売促進と受け取られないよう、メディアは企業と一定の距離を保つ必要がある。
これは、製品について否定的に書くべきだという意味ではない。肯定的な内容であっても、記事の評価や表現は、企業の関与を受けずにメディアが独立して決めるべきだと考える。
同大会の取材規定では、企業共催セッションを取材や収録する場合、演者や座長だけでなく、共催企業の許可も必要としている。一方、公表前の記事を確認する「学会側」に誰が含まれ、どの範囲まで確認するのかは明らかではない。
少なくとも、記事の事前確認に共催企業やスポンサーは関与しないことを、取材規定に明記する必要がある。もっとも、報道の独立性を考えれば、一律の事前確認そのものをなくし、必要な事実確認だけを個別に行う方が自然ではないか。
報道関係者に求める参加料についても、見直す余地がある。
同大会では、報道関係者から1日3000円、2日間で6000円を徴収する。決して大きな金額ではないが、問題は、メディアが何に対して料金を支払うのかが明確ではないことだ。
会場設備や取材対応にかかる実費の分担を求めるのであれば、その趣旨を示せばよい。一方、取材の許可を得るための料金だとすれば、学会が社会への情報発信をどのように位置づけているのか、疑問が残る。
しかも、ダイヤモンド・オンラインは、過去の学術大会で余剰金が生じ、その大半が会頭の所属大学に寄付されたと報じている。そうなると、報道関係者の参加料が取材対応の実費なのか、大会収入の一部なのかは、なおさら分かりにくい。
国内外の医学会や国際会議では、資格を確認した報道関係者を無料で受け入れる例が多い。IMCAS World Congressでも、プレスは情報発信を担う存在として無料で受け入れられ、掲載の有無や記事の内容は編集側の判断に委ねられている。
報道関係者の参加料を免除することは、学会に好意的な記事を書くよう求めることではない。むしろ、掲載を条件とせず、取材対象とメディアとの間に対価関係を設けないことで、報道の独立性を保ちやすくする意味がある。逆に、厳しいことも書いてほしいと促す意味すらあり得る。
門戸を広げることは意味がある。以前に、日本美容外科学会(JSAS)開催に当たっても書いているが、IMCAS World Congressでは、メディアカンファレンスを開催し、報道関係者を集めて、医師などが美容医療の最近の状況を半日をかけて解説をする機会を設けていた。学会のすみの部屋を設けて簡単に開催するなどしてもいいのではないか。
美容医療への社会的関心が高まる中、学会で議論される安全性や倫理、教育の取り組みを広く伝えることは、学会にとっても重要だ。資格と取材目的を確認した報道関係者については参加料を免除し、記事の内容はメディアの判断に委ねる。そうした運用の方が、社会への情報発信と報道の独立性の双方にかなうのではないか。学会は中立で、外部の目を受け入れ、世の中を良くするために機能していく、そういう場であってほしいと考える。
参考文献
村上力「日本美容皮膚科学会のドロ沼内紛、決戦の社員総会迫る!“改革派”代表に1700万円の『身内寄付』発覚と裏に見え隠れする大手製薬会社の影」ダイヤモンド・オンライン、2026年7月23日
https://diamond.jp/articles/-/395307
第44回日本美容皮膚科学会総会・学術大会「取材申込について」
https://shun-convention.jp/bihifu44/report.html
第114回日本美容外科学会(JSAS)が開催へ 今泉明子会長が掲げる実践重視の学び 海外連携やライブ配信で技術共有 社会的関心が高まる中、取材対応の体制整備には課題
https://biyouhifuko.com/news/japan/17982/
