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多様化する美容医療クリニック、情報発信の時代を迎えて、第112回日本美容外科学会JSAS総会も良いきっかけに、NHKが美容医療クリニックトラブルに注目【編集長コラム】

カレンダー2024.5.30 フォルダー連載・コラム
NHKで美容医療の問題が大きく取り上げられた。(写真/Adobe Stock)

NHKで美容医療の問題が大きく取り上げられた。(写真/Adobe Stock)

 5月29日に、NHKが美容医療クリニックのトラブルに注目して大きく取り上げていた。7時のニュースとクローズアップ現代という2つの番組で連続して取り上げたので1つの番組で取り上げられるよりもインパクトが増した。

 番組で特に注目していたのは一般社団法人が運営する医療施設で、勤務の実態のない医師が存在し、その医師がほとんど関わらないままに美容施術が提供されていることであった。報道された美容医療クリニックは匿名だったため、具体的にどこの医療機関が問題視されているかよく分からないが、美容医療クリニックの問題が端的に示されていた。

 トラブルが急増する状況も紹介されたが、それだけ見ても何か対策を打たなければならない状況に来ていると、番組を見た人は感じたはずだ。

 一方で、番組を見ていて思ったのは、美容医療と一口にいっても、さまざまなクリニックが存在している状況もあるということだ。業界の外から見ると、名義貸しの美容医療クリニックも、実際に日々診療に当たっている院長が在籍しているクリニックも同じように見なされる側面もあるだろう、ということだ。

 美容医療の業界の中が見えづらい状態のまま、「トラブルの多い業界だ」と言われるばかりではなく、美容医療クリニックを中心とした医療機関や大学、学会などが行動すべき時代に来ているのではないかと、そんな考えが浮かんだので、その辺りを書いてみたいと思う。

外から見えない「美容医療」の業界

美容医療の業界は外から中が見えづらい。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

美容医療の業界は外から中が見えづらい。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 外部からの見方→ 名義貸しクリニックと実際に診療を行うクリニックの区別がつきにくい。
  • 業界の理解促進→ 美容医療クリニックの実態をわかりやすく伝える必要がある。
  • 無関心な人々の理解→ 美容医療に無関心な人々の理解を得ることが重要。

 今回問題になった美容医療クリニックは、医師が名義貸しをして、実際にはほとんど診療に当たらないため、そのようなクリニックは不測の事態が起きたときに対処ができず、問題を起こしやすいことは想像に難くない。実際に、NHKの報道でも、ある女性が高濃度ビタミンCを含む点滴を受けた後に別の医療機関を受診したトラブルを紹介していた。

 冒頭に、行動すべき時代と書いた。「美容医療には多くの課題がある中で、では、どう行動すればよいのか」と問われるだろう。私がニュースをやっていることもあり、この時に思ったのは情報発信の問題だ。そのため、以下この点に絞り、美容医療の理解を深めることの重要性を伝えたい。

 美容医療に関わる方々へのメッセージのようになるかもしれないが、美容医療を検討する人にも、そんな問題もあるのだなと考えるヒントにしてもらえればと思う。

 実際に美容医療の業界を取材していると、同じ美容医療クリニックでも取り組み方に大きな差があることを感じる。まず、院長がしっかりと診療に当たっている美容医療クリニックは、今回報道された名義貸しクリニックとは異質のものと感じる。資格や実績の面では大きな違いはあり、真摯に診療をしていてもトラブルが起きることはあるが、名義貸しクリニックで発生するトラブルとは、事後の対応は大きく異なると見られる。

※ヒフコNEWSでは、美容医療クリニックの院長の違いに注目して、クリニックごとの特徴の違いについて調査している。例えば、その記事を見ると、チェーンごとに大きな違いが存在することがデータとして理解することができる。また別のインタビューでは、来院した人たちを食い物にしている医療機関の存在を指摘する声も取り上げている。

美容外科チェーン院長、専門医資格を独自調査、美容や形成にとどまらない多彩な専門医が支える構造、7つの美容医療チェーンを対象に調査
https://biyouhifuko.com/news/japan/6942/

美容医療トラブル、弱みにつけ込む医師やクリニックの問題とは、日本医科大学の朝日林太郎氏に聞く、前半
https://biyouhifuko.com/news/interview/4305/

 そういう違いについて業界の外からはよく理解されていない。その状態は放置しない方がよいだろう。分かってもらうことで、美容医療クリニックに対する見方は変わり、美容医療を検討する人たちの行動も変わるなど、厳しい見方ばかりではなくなってくる可能性はある。

 業界外からの理解を得るとなると「SNSで情報発信」という発想がまず出るだろうが、それだけではない。ある美容外科医は、「もっと普通にテレビやラジオなどで情報発信されるべきだ」と話していたが、確かにそのようなさまざまなアプローチで理解を得ることが求められていると感じる。美容医療に関心のない一般の人たちが見るようなメディアで中立的に取り上げられるのが重要だということだ。

※SNSでの情報発信は、オーストラリアで禁止する動きがあるなど、信頼性に疑問が投げかけられているようになっている。中立な情報提供が求められる状況が生まれている。

美容医療業界は動揺、フィラー注射の広告を全面禁止、オーストラリア政府が規制強化
https://biyouhifuko.com/news/world/5601/

オーストラリアが推し進める、美容医療規制の新潮流、アラガンレポートより
https://biyouhifuko.com/news/world/6633/

 テレビやラジオなどを手放しで評価するわけではないが、美容医療クリニックを中立に扱う場でさまざまな観点で話題になった方がよいだろうということだ。SNSで自ら情報発信をしたり、お金をかけて広告をしたりするのもよいが、利害関係のないメディアの取材を受けて自由に報道されるのとは意味合いが異なる。中立なメディアは必ずしも取材を依頼してくるわけでもないし、取材されても望んだ情報を発信するとも限らないが、ままならないからこそ、見ている側からの信頼感が高くなる側面もあるのは見逃せない。

 SNSで自分から情報を出しながらも、一般のメディアの取材などにも門戸を広げていく手段を考える価値があると考える。

 また、一般的に利害関係のない人の方が問題の起きた業界を厳しく見る傾向が考えられる。美容医療に関心があまりない人たちからの理解を得ることは、「ちゃんとやっている美容医療への支持を広げる上では大切」とも考える。

千差万別の美容医療クリニック業界

さまざまな種類のクリニックがある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

さまざまな種類のクリニックがある。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 美容医療の多様性→ 美容医療には多様な種類があり、その実態を正しく理解してもらうことが重要。
  • 美容医療クリニックの形態→ 美容外科中心、非外科的治療中心、チェーン展開、中規模医院、特定の施術に特化、脱毛専門など、多様な形態がある。
  • 国の理解と規制→ 美容医療の信頼性向上のためには、国の理解やバックアップ、規制も必要。

 繰り返しになるが、多様な美容医療が存在していることを正しく理解してもらうのはどのような意味があるだろうか。

 美容医療クリニックにもいろいろな種類があり、その実態が見えにくいと述べてきたが、「怪しい」と感じられれば人は怖がって、悪く言いがちなのは仕方がない面もある。透明性は重要だ。

 いろいろな種類がある例として、日本には日本美容外科学会が2つあることがよく言われる。2つの学会とは、日本美容外科学会JSASという学会と、日本美容外科学会JSAPSという学会だ。それぞれの学会に所属する医師には違いがあるとされる。

 前者のJSASの方が歴史は古く、美容外科の民間病院を運営する医師が中心になってきた学会。そのため、現在も、日本美容外科学会JSASは、民間の医療機関に所属する医師が中心だ。もう一つの日本美容外科学会JSAPSは、日本形成外科学会に所属する主に大学の医師が中心になって設立した学会。現在も、形成外科の専門医資格を持った医師が日本美容外科学会JSAPSの中心になっている。

 どちらの学会がどのような特徴を持つかというのは、とても短い文章で言い尽くせないので、ここでは述べないが、美容医療といってもさまざまな背景のある医師や医療機関があるということを考える一つの視点ではあると考える。それぞれに良し悪しがあると言うのではなく、違いをきちんと理解してもらうことが重要と考える。

※二つの学会が存在し、それぞれが対立してきた歴史もある。その辺りについてインタビューでも語られている。

日本の美容医療、課題と展望 日本美容外科学会JSAPSの前理事長の大慈弥(おおじみ)裕之氏に聞く
https://biyouhifuko.com/news/interview/253/

 このほかにも美容医療には、美容外科が中心のところ、非外科的治療が中心のところ、チェーン展開しているところ、中規模の医院グループ、1つの医院で診療を行っているところ、特定の施術に特化したところ、脱毛専門のところなど、さまざまな形態がある。

 美容医療のトラブルが大きく報じられるようになっている今、美容医療といってもすべて同じというのではなく、資格、実績、運営体制など、千差万別であり、信頼できる医療機関が確かに存在していることを分かりやすく示せるようにしていくべきなのだろう。これらは、医学会だけではなく、海外の事例も見ていると、国の理解やバックアップ、規制も必要になるだろう。

学会の講演会はよいきっかけ

写真は昨年5月に開催された前回、第111回日本美容外科学会(JSAS)学術集会。写真/編集部

写真は昨年5月に開催された前回、第111回日本美容外科学会(JSAS)学術集会。写真/編集部

  • 日本美容外科学会JSAS総会→ 5月30日から東京都内で「幸せになる美容医療」をテーマに開催。
  • 情報発信の重要性→ 医療関係者同士の切磋琢磨と業界外への情報発信が重要。
  • 美容医療のトレンド→ 美容医療の違いがわかるトレンドができれば、注がれる目線も変わる。

 5月30日から、東京都内で「幸せになる美容外科」をテーマに第112回日本美容外科学会JSAS総会が開催される。先に述べたように、これは民間の医療機関が中心となった学会の講演会。2日間にわたって多くの美容医療に日々取り組む医師が壇上に立ち、美容医療の新しい情報を提供することになる。

 この学会では、事前に申込のあった取材については受け入れる方針をとっていて、ヒフコNEWSも取材する予定だ。このような場を一つの機会として、美容医療界が医療関係者同士の切磋琢磨に加え、業界外への情報発信もしていくことは今こそ重要になるのかもしれない。

 筆者は、「総会」や「学術集会」と呼ばれる医療関係の学会の講演会には数々出席しているが、一般の人向けの講演を開く学会もあれば、中には高校生を招いている学会もある。プレス向けに記者会見を開く学会もある。そういった動きが今後増えるといいだろう。また、普段美容医療に関心のないプレスは、事前に美容医療の学会をチェックしているとは思えない。取材の受付には臨機応変の対応も必要と考える。

 美容医療の違いが分かるようなトレンドができれば、美容医療に注がれる目線も違ったものになるのではないだろうか。

連載の記事一覧

  • 美容医療と形成外科医、専門資格の価値が競争激化とトラブル対応の中で重要視される動きも、日本形成外科学会を振り返って【編集長コラム】
    https://biyouhifuko.com/news/column/6780/
  • 多様化する美容医療クリニック、情報発信の時代を迎えて、第112回日本美容外科学会JSAS総会も良いきっかけに、NHKが美容医療クリニックトラブルに注目【編集長コラム】
    https://biyouhifuko.com/news/column/7567/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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