共同通信が2024年6月1日に、ロート製薬が製造した脂肪由来の間葉系幹細胞の点滴により一時的な視力障害が報告されたと報道した。6月2日、第24回日本抗加齢医学会「倫理・利益相反ワークショップ」で、大阪大学寄附講座教授の森下竜一氏がこの問題を含め再生医療の課題を説明した。
再生医療を検討する際、リスクについても確実に説明を受け、理解しておくことが欠かせない。
「再生医療のリスクはゼロではない」
最初、森下氏は、薬機法に基づく承認を受けていない再生医療を、研究目的や自由診療で実施する場合のルールを定めた安確法の改正について説明した。これはまだ国会で審議中だが、従来、規制対象外だった遺伝子治療が含まれることになる。一方で、エクソソームや幹細胞培養上清も注目されることが多いが、これらは依然として規制対象外と述べた。
※「薬機法」は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、「安確法」は「再生医療等の安全性等確保に関する法律」のそれぞれ略称である。再生医療法とも呼ばれる。
その上でエクソソームなどの静脈投与は、現在のところ、メーカーが未承認の薬剤として販売しておらず、試薬として販売していることを指摘。これらを静脈投与するのは医行為で、本来は禁止されると述べた。そのため、自由診療でエクソソームなどを静脈投与する場合は、医師の責任のもとで行われることになる。森下氏は、「説明責任が求められる」と強調した。
説明責任が求められるという観点から、ロート製薬が製造した脂肪由来の間葉系幹細胞によって一時的な視力障害が生じたとする共同通信の報道にも言及した。この報道では、細胞製造のロート製薬が関係医療機関に注意喚起したことが説明されている。
この報道では原因について、保存のための有機溶剤であるジメチルスルホキシド(DMSO)が血管の収縮を起こした可能性があると伝えられている。クリニックでは23年11月以降に3件の発生があったことや、症状は一時的にとどまり回復したことも報じられている。
森下氏は、「再生医療ではリスクはゼロではない。説明時は保存剤についても説明する必要があるのだろう。DMSOが使われている場合があり、適切に除去することが欠かせない」と説明した。
再生医療の同意はどう取るべきか
同ワークショップでは、至誠法律事務所の齋藤健一郎氏、NPO法人自由が丘アカデミー代表理事、順天堂大学再生医学教授の田中里佳氏、北里大学形成外科・美容外科客員教授の大慈弥裕之氏も講演した。
斎藤氏は、自由診療に関連した法的な課題を解説。この中で同意書の取り方について触れていた。実際に訴訟に至った事例で、きちんと説明したかどうかが問われた件を紹介。同意書を得ていても適切に説明したかが不明な場合、同意を取ったことが認められないケースがあると述べた。一方で、説明した箇所にマーカーを引いたり、説明担当の医師の名前、受けた質問や回答をメモに残したりする対応を行うことで、初めて同意を取ったと認められたケースがあると説明した。
田中氏は、安確法をはじめとした再生医療の規制について解説した。安確法での再生医療の分類、提供計画、認定再生医療等委員会による審査の仕組みなど、基本的なルールを説明。再生医療で使われる細胞の加工方法や製造に関連するルールについても述べた。田中氏は日本再生医療学会理事を務めており、再生医療の研究を進める医師をサポートしている。医療関係者が安確法の理解を深める教育セミナーも開く。
大慈弥氏は、保険診療と自由診療の基本的な違いについて解説し、この中で、自由診療では未承認の薬剤や医療機器が使われている状況を説明した。1960年以降に豊胸術用インプラントが原因で発生した健康被害の歴史を振り返り、未承認のインプラントは対策が難しかったが、17年に承認を受けたインプラントで健康被害が起きた際に、学会、企業、行政が協力して速やかに対策に当たった事例を示し、承認されることで施術を受けた人たちが守られる側面があると説明した。
なお、ロート製薬の製造した細胞により健康被害が生じた事例について同社は、「現在、認定委員会で原因を極力明らかにし、安全性に向けて審議を進めている。当社もその審議に協力の上、原因究明に鋭意取り組む」と説明している。
美容医療を検討するときには、どのようなリスクがあるのか確認することは重要だ。