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シワ改善などで行われるPRP+b-FGFのトラブルどう見る?幹細胞研究に長く関わる科学者で、AASJ代表理事の西川伸一氏に聞く

カレンダー2023.10.17 フォルダーインタビュー

シワ改善などの目的で行われるPRP(多血小板血漿)+b-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が、予想外にしこりを作る問題が頻発しており、これについてNHKでも取り上げられた。幹細胞研究の専門家で、オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)代表理事の西川伸一氏に、この治療の安全性に関する意見を求めた。

AASJ代表理事。(写真/編集部)

AASJ代表理事西川伸一氏。(写真/編集部)

西川伸一(にしかわ・しんいち)氏
オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)代表理事/京都大学名誉教授

──PRP(多血小板血漿)+b-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)というシワ改善の美容医療がしこりを作り問題になっている。特にb-FGFが問題視されている。

西川氏: シワ改善で使われているというb-FGFだけを見ていては課題を理解できません。実は、b-FGFは増殖因子あるいは成長因子と呼ばれるものの一種で、過去20~30年で他にもいくつかの因子が発見されています。さらに、線維芽細胞にも多くの種類が存在することが分かってきました。

 b-FGFは多くの種類の線維芽細胞の増加を促します。しかし、特定の細胞だけをターゲットにする増殖因子も存在します。

 シワを改善するためには、どの増殖因子がどの線維芽細胞に最適かが重要です。将来的には、最も効果的な増殖因子を選んでシワ改善に利用することが考えられます。

 そう考えたとき、どの種類の線維芽細胞に効いてもいいからと、漫然と多くの種類の線維芽細胞に効果を示すb-FGFを使っているのは、ものすごく原始的と感じます。

──b-FGFは効果を示す範囲が広すぎる。

西川氏: 昔は線維芽細胞はすべて一緒だと思われていたのが、研究が進んで、むちゃくちゃ多様だと分かってきたのです。ですから、昔であれば線維芽細胞を増やそうとしたときには、b-FGFしかないから使っていました。ですが、研究室において今はb-FGFを使う人はいなくなりました。ほかの増殖因子が分かっており、目的に応じて使い分けるようになってきているからです。

 例えば血管を増やすときには、昔は幅広い組織を増やすb-FGFを使うことがあったかもしれませんが、今ではVEGFという血管に特異的な増殖因子があるのでそれを使います。骨ならばBMB-4など使うでしょう。ほかに手段がないからと、b-FGFを使うケースは20年くらい前にはあったのかもしれません。しかし、今や増やしたい組織に対応した増殖因子を使うのが望ましいのです。

──シワ改善ならば、それを伸ばす目的に合ったものを使うと良い?

西川氏: もっとも何を使えばよいかを突き止めるのは簡単ではありません。シワを本当に伸ばすことを考えれば、肌の表面の上皮が変化しないといけないのでしょう。現在は、その下にある線維芽細胞を増やして、しこりを作ることで、その上にある皮膚を伸ばしていると考えられる。

 ですが、なぜ線維芽細胞が増えることでシワが伸びるのかはよく分かっていないのではないですか。組織が増えすぎれば表面積が増えて逆にシワが増える心配もありそうです。完全に因果関係を分かった上での治療ではないのでしょう。20、30年前の話を実際に臨床でやっている印象はあります。

──一方で、歯科では、b-FGFが使われている。

西川氏: b-FGFが歯ぐきの組織を増やすために使われていますが、それは保険適用されています。臨床試験で安全性と有効性が確認されたものです。

 シワ改善の目的であっても、b-FGFの有効性や安全性が臨床試験で証明されたのであれば結果オーライと言えるのかもしれません。しかし、現状では、承認されていないシワ改善のために注射する方法で使われているわけです。製薬企業も、承認されていないわけですから控えるように求めている。美容医療を受ける人が「よほどのチャレンジ」という気持ちで受けざるを得ない状況と言えるのでしょう。

 結局、臨床試験をしてくださいということに尽きるのです。

AASJ理事長西川伸一氏。(写真/編集部)

AASJ理事長西川伸一氏。(写真/編集部)

プロフィール

西川伸一(にしかわ・しんいち)氏
オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)代表理事/京都大学名誉教授
2013年より、JT生命誌研究館顧問、NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン代表理事。それまでは、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長および幹細胞研究グループディレクターを務める。2002年までは、京都大学大学院医学研究科、分子遺伝学教授、1987年までは熊本大学医学部教授。それ以前はドイツのケルン大学遺伝学研究所を経て、京都大学胸部疾患研究所。1973年京都大学医学部卒業。

参考文献

PRP+bFGF、ガイドラインの慎重な方針どう考える?──ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏に聞く 前半
https://biyouhifuko.com/news/interview/3110/

PRP+bFGF、リスクと対策──ジョイアクリニック京都院長の林寛子氏に聞く 後半
https://biyouhifuko.com/news/interview/3212/

再生医療連載vol.1 日本独自の再生医療のルールを解説、知っておきたいこと
https://biyouhifuko.com/news/column/958/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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