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やってはいけない、タトゥーの白い色素のレーザー除去──刺青レーザー除去の進化と課題とは、東海大学形成外科教授の河野太郎氏に聞く

カレンダー2024.3.15 フォルダーインタビュー
東海大学形成外科教授 河野太郎氏。(写真/編集部)

東海大学形成外科教授 河野太郎氏。(写真/編集部)

河野太郎(こうの・たろう)氏
東海大学形成外科教授

──国内外で刺青およびタトゥーへの見方は変化している。

河野氏: 日本固有の和彫り刺青は、墨を皮膚深くまで入れて、多彩な色を使う傾向があります。それに対して、欧米の刺青はそこまで深く色を入れず、使われる色も主に黒です。最近では刺青のカジュアル化が進み、軽い気持ちで入れるケースもある。

 半面で、刺青を除きたいという人も増えます。和彫りの場合、色を深くに入れる複雑性、使われる色の多様性から取り除くのは難しいとされます。実際にその通りです。一方、欧米の単色の刺青は比較的浅く入れますので取り除きやすい。このような変化もあり、昔に比べて刺青を除去しやすくなったという印象を持ちます。

──刺青除去の動機とは。

河野氏: 刺青除去の理由はさまざまです。結婚や子どもの成長など、人生の節目がある場合もあれば、新しいデザインへの変更を望む場合も意外と多い。例えば、パートナーが変わった、トレンドから外れたといった理由でデザインを変えたいと考えるのです。

──レーザー技術の進化も見逃せない。

河野氏: かつてはレーザーの装置が高額でしたから、刺青のレーザー除去に使えるレーザー装置を使い分けることは難しく、十分な効果を得られないことも多くありました。また必要な照射回数が多く費用もかみました。ですから刺青レーザー除去の利用者も多くはありませんでした。

 しかし、レーザーの装置が増えて、機器が手に入りやすくなり、レーザーの使い分けにより治療効果も期待できるようになりました。必要な照射回数も減り費用を抑えられています。そのような進歩に伴って除去の希望者も増えたと考えています。

──刺青のレーザー除去を手掛けるクリニックも増えた?

河野氏: レーザー治療を提供する場所が増えて、価格も低下し、レーザーによる治療は身近になっています。

 しかし、刺青のレーザー除去まで手掛けるクリニックは依然として少ないでしょう。レーザー治療に関する十分な知識が必要であり、そこが不足すると刺青をうまく除くことができないからです。

 レーザーはさまざまな用途で使われていますが、刺青を取り除くためには、刺青の色素、肌のタイプ、部位、インクの量など、多岐にわたる条件に合わせたレーザーの選択が必要になるのです。

 レーザーに専門特化したクリニックでは、2000年代から使われているナノ秒Qスイッチレーザー(以下、ナノ秒レーザー)、2010年代に日本国内で使われ始めたピコ秒レーザーを使い分けます。ナノ秒レーザーにも3種類あります。ルビーレーザー、Nd:YAGレーザー、アレキサンドライトレーザーです。最新で効果的な機器を優先して使う考え方が一般的です。どこのクリニックでも対応できるわけではありません。

──ピコ秒レーザーの特徴とは。

河野氏: ピコ秒レーザーを使った最初の人間での刺青除去の報告は1998年のことでした。その後、日本で市販されたのは2012年のことです。ピコ秒レーザーは、従来のナノ秒レーザーよりもさらに短いパルス幅を持つレーザーで、ナノ秒レーザーよりも効率的に、刺青の色素をターゲットに破壊することができます。この技術は、刺青除去の効率を高め、治療回数の削減につながりました。

※ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザーはそれぞれ1億~10億分の1秒、10億~100億分の1秒という単位の短さでレーザー光を照射する技術。なお、100万分の1秒はマイクロ秒単位のレーザー。パルス幅はQスイッチルビーレーザーが20~40ナノ秒、QスイッチNd:YAGレーザーが5~10ナノ秒、Qスイッチアレキサンドライトレーザーが50~100ナノ秒。ピコ秒レーザーはさらに短い250~750ピコ秒のパルス幅でレーザーを出すことができる。これらの技術により、レーザーにより発生させる熱エネルギーをターゲットに集中させやすくなる。

──ピコ秒レーザーにより刺青を取り除きやすくなった?

河野氏: ナノ秒レーザー中心の時代には、黒や赤の色素は比較的取り除きやすいといわれ、それ以外の色は除去が難しいとされましたが、ピコ秒レーザーの登場で濃い色素を中心に除去しやすくなりました。

──薄い色素の刺青は依然として除去が難しい。

河野氏: 黒や赤以外の色素を除去する効率が上がりました。ただし、知っておいていただきたいのは、白や黄色のようなごく薄い色素の刺青はレーザー除去の対象にならないことです。

 特に白い刺青の除去は、治療を避けるべき禁忌とされています。治療の結果として見た目がむしろ悪くなる可能性が高いのです。というのも、白い刺青にレーザーを当てると黒く変色する可能性があります。そうした事実があるにもかかわらず、白い刺青をレーザー除去しようとしてトラブルを起こすケースがあり、それは残念なことです。なぜ起こるかといえば、施術した医師の知識不足によるものと推定されるのですが、白い刺青をレーザーで取れないことは広く知られているべきであり、知らないとすれば問題です。

 黄色についても除去の対象になりません。除去は難しいのですが、黄色であれば肌に黄色い刺青があっても目立ちません。濃い色の刺青のように、除去しないからといって外見上の問題にはなりづらい。

 ただし、薄い色の刺青は、フラクショナルレーザー治療という異なるアプローチを取ることで目立たなくすることは可能です。これは色素そのものを直接除くのではなく、皮膚に微細な穴をレーザー光で無数に入れる方法であり、肌の再生を促し、色素の見え方を改善することができます。

──白い刺青の除去は治療が非常に難しいというのは重要だ。

河野氏: レーザー治療により刺青の色が治療前よりも濃く見えるリスクは重要な点です。この現象は白い刺青に限らず、どんな色の刺青においても起こり得ます。ですが、特に白や白を含む色、例えば赤と白を混ぜて作られるピンクなどにおいてはリスクが高まります。白色の入れ墨に使用される色素には、チタンや鉄などの金属が含まれ、これらが黒く変色することがあるのです。

 重要なのは、刺青の色や深さ、肌質などの条件に合わせて最適なレーザーを選ぶことです。十分な知識と経験を持つ医師に相談することをお勧めします。

プロフィール

河野太郎(こうの・たろう)氏
東海大学形成外科教授。鹿児島大学医学部卒業後、東京女子医科大学形成外科、東海大学医学部外科学系形成外科学准教授を経て現職。日本大学医学部形成外科学系形成外科学分野客員教授も務める。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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