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「乳歯歯髄幹細胞培養上清」「MSC-QQC細胞」応用広がる、第111回日本美容外科学会(JSAS)

カレンダー2023.5.16 フォルダー 国内

ポイント

  • 第111回日本美容外科学会(JSAS)で再生医療に関するシンポジウムを開催された
  • 乳歯歯髄幹細胞培養上清液、細胞老化、細胞治療についての応用が話し合われた
  • 毛髪再生、乳房再建、皮膚再生などの可能性が想定されている

 5月12日、第111回日本美容外科学会(JSAS)で、「再生医療セミナー」と題したシンポジウムが開催された。乳歯歯髄幹細胞培養上清や細胞の老化、細胞治療に焦点が当てられ、研究成果が披露された。

「乳歯歯髄幹細胞培養上清」で勃起不全が改善

日本美容外科学会(JSAS)。写真/編集部

日本美容外科学会(JSAS)。写真/編集部

 シンポジウムは、ソラリアクリニックグループ(東京都中央区)会長の古賀祥嗣氏の講演から始まった。古賀氏らは、「乳歯歯髄幹細胞培養上清液(SGF)」を開発している。これは細胞を使わなくても、効果を発揮できることで、その応用の可能性を探っているという。

 古賀氏からは、SGFができるまでのプロセスについて説明があった。まず、6~12歳までの子どもの「歯髄」からさまざまな細胞に分化できる幹細胞が取られる。歯髄は乳歯を抜いた後の歯の根元の部分である。この中にある幹細胞を培養し、培養液から細胞などをフィルターで除去して使っている。同氏が細胞がなくてもと言うのは、顕微鏡で細胞の混入がないかを確かめているからだ。さらに細菌やウイルスがないことも確認した上で、静脈や皮膚への注射、点鼻や点眼で投与に用いている。

 講演では、古賀氏はSGFがさまざまな美容医療に活用できると説明した。例えば、その一つは、男性の勃起不全に対する効果だ。重症の人でも複数回の注射によって改善が見られたと説明した。また、動物実験では、精巣に影響して、精子数の数や運動率が改善したということで、男性に好ましい効果が期待できるようだ。

 また古賀氏は培養上清液と、細胞から放出される粒子である「エクソソーム」の区別についても述べた。ヒフコNEWSでも伝えているが、エクソソームはその定義やエクソソームだけを取り出す方法については標準的な方法が決まっていない。

 古賀氏は「培養上清液がエクソソームとして提供されていることがあるが、別物」と強調。そこで、古賀氏らは、エクソソームの表面に存在している特定のタンパク質を測定する方法により、エクソソームを分離する研究を進める。そうやって抽出したエクソソームは、マイナス20度やマイナス90度で長期保存できることを研究により確認したという。さらに、古賀氏は今後エクソソームに関するは研究会を発足させると語った。

 続いて、横浜市立大学生命ナノシステム科学研究科成就科学研究室客員准教授の三木健輔氏が「細胞の老化と若返り」と題して講演した。

 講演では、細胞の老化のメカニズムや、そのプロセスを逆転させる可能性について述べた。特に、タンパク質の過剰がもたらす影響について強調した。

 タンパク質は一般的に重要な栄養素と考えられているが、過剰だと老化を促進することが分かってきている。線虫という小さな虫を使った実験では、タンパク質の量が減るように人工的に処理すると、寿命が延びることが確認されている。タンパク質の摂取量を調節することが若返りなどにも貢献する場合、これが美容医療に応用できる可能性もある。

血管再生を美容医療にも応用

細胞培養。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

細胞培養。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 順天堂大学大学院再生医学研究科教授の田中里佳氏は、血管の再生に関する研究を発表した。

 田中氏は、体に必要な栄養素を供給し、健康や長寿を促す血流の重要な役割に注目し続けてきた。その中で注目しているのは、血液の中に存在している幹細胞の活用である。血液の中に0.01%程度の低い割合で存在している幹細胞は、血管が傷ついたときにその再生に働いている。田中氏の研究グループでは、100mLというわずかな血液から得られる末梢血単核細胞というタイプの細胞を、独自に開発した培養法「QQ法」によって増やし、「MNC-QQ細胞」として応用を探っている。

 MNC-QQ細胞の中には、血液内皮前駆細胞や再生型マクロファージM2細胞などが含まれ、これらが血管の再生を促す効果がある。血管の再生により、血流が乏しくなった「虚血肢」の回復を促す効果を確認した。

 この細胞は、美容医療への応用も考えられ、毛髪再生や乳房再建、皮膚再生などへの応用が考えられるという。

 田中氏は医薬品グレードの「再生医療等製品」としての承認を目指して、臨床試験を進めている。安全性と有効性が確認されれば、利用が増えると予想される。

 ヒフコNEWSでは再生医療について連続で伝えていくが、再生医療の実施に当たっては審査が適切ではないといった課題も指摘されている。これらの問題点を解決しながら、安全で有効な治療を実現していくのが重要だ。

参考文献

再生医療連載vol.1 日本独自の再生医療のルールを解説、知っておきたいこと
https://biyouhifuko.com/news/column/958/

再生医療連載Vol.2 再生医療委員会に5つの問題発覚、公正さ欠く実態など明らかに
https://biyouhifuko.com/news/column/1022/

再生医療連載Vol.3 エクソソームとはそもそも何か──第22回日本再生医療学会総会の会議を通して考える
https://biyouhifuko.com/news/column/1159/

【補足】 ・細胞がない状態にしている背景の情報を補足しました。(2023/6/16)

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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