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寿命400歳まで示唆する最新研究、慶應義塾大学の早野元詞氏が解説するアンチエイジングから若返りへの最新トレンド、第111回日本美容外科学会(JSAS)

カレンダー2023.5.19 フォルダー 国内

 第111回日本美容外科学会(JSAS)では、若返り研究の第一人者、慶應義塾大学精神神経科学特任講師の早野元詞氏が老化や若返りに関する最新の研究について解説した。日本では一般的にアンチエイジングが語られるが、世界で見ると「若返り=リジュベネーション(rejuvenation)」にシフトチェンジしていると強調した

注目されるサプリメント「NMN」と「NR」

日本美容外科学会(JSAS)。写真/編集部

日本美容外科学会(JSAS)。写真/編集部

 早野氏は2013年に「LIFE SPAN」の著書で世界的にその名を知られる米国ハーバード大学デビッド・シンクレア氏の下で研究に取り組んだ。シンクレア氏はタイム誌で世界で最も影響力ある100人に選ばれたことでも知られている。その後、帰国した早野氏は慶應義塾大学に所属し、500歳生きることで知られるニシオンデンザメなど長寿の動物を扱うテーマなどに注目し、老化に関わる研究を続けている。慶應義塾大学眼科教授の坪田一男氏が創業した、老化も事業テーマとしている坪田ラボのCSO(チーフ・サイエンティフィック・オフィサー)も務めている。

 講演の中で早野氏は若返りに注目して、関連した研究の進展を次々と紹介した。身近なところでは、注目されている若返り効果のあるサプリメントへの関心に触れた。その一つが、シンクレア氏が老化を抑制する効果を報告し、世界的に注目されたNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)である。これらは細胞の中で若返りに関与する重要な分子である「NAD+」の元になる栄養素で、これを摂取することでNAD+のレベルを高められると考えられている。実験的に老化を抑える効果を確かめる研究が進んでいる。早野氏は、日本ではNMNが使われるが、米国では同じくNAD+の元になる栄養素の一つであるNR(ニコチンアミドリボシド)が主に摂取されていると紹介した。

寿命400歳の可能性も見えてきた

若返りの研究が進む。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

若返りの研究が進む。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 老化や若返りを考えるときのポイントとして早野氏が触れたのは、老化や若さは生まれもって決まる遺伝も重要ながら、生まれてからの後天的な要因に大きく影響されること。それは、一卵性双生児の研究からも明らかで、同じ遺伝子を持っているにもかかわらず、それぞれの生活習慣などの影響を受けて年の取り方は全く変わる。

 早野氏は、現在、人間の寿命は127歳を超えないと考えられているが、ゲノム編集と呼ばれる遺伝子を直接変化させる技術を使うことで、200歳、300歳も原理的には可能になってくると見る。さらには寿命400歳が実現される未来も見えてきているという。今後50年間で寿命が大幅に延びた人が現れたときの社会の構築が課題になると述べた。もっとも心身ともに老化して寿命だけ延ばすのではなく、心身ともに若さを保った上で寿命も延びるという点が重要になる。老化に抵抗することにとどまらず、時計を逆回しにする「若返り」が重要なテーマと強調した。日本ではアンチエイジングがかねて注目されているが、それよりも「世界は若返りにシフトチェンジしている」と早野氏。

アミノ酸の摂取が寿命を縮める可能性がある

栄養の摂り方も変わるかもしれない。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

栄養の摂り方も変わるかもしれない。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 さらに早野氏は「生物学的年齢」を測定する必要があると説明した。今後、若返りの技術が進歩したときに、実際にどれくらい若返ったのかを知る必要が欠かせないからだ。例えば、食事をするたびに、塩分過多である場合に「寿命が30分縮んだ」といったアラートが出るような仕組みがあれば、注意しようと気をつけやすくなる。それだけに生物学的年齢のモニタリングは注目されそうだ。

 このほか早野氏が解説したのは、老化とアミノ酸との関係性だ。アミノ酸はタンパク質をつくるものだ。タンパク質やアミノ酸というと、体にとって重要な栄養素というイメージがあるが、少しその考え方は変わるかもしれない。早野氏によると、「アミノ酸の中でもグリシンをとると寿命が延びると研究から分かってきたが、そのほかのアミノ酸についてはむしろ摂取を制限した方が寿命が延びることが研究から分かってきた」。例えば、ロイシン、アルギニン、メチオニン、トリプトファンといったアミノ酸は、あまり積極的に摂取しない方がよいかもしれない。糖質制限やカロリー制限などの健康への影響が注目されるが、アミノ酸についても研究が進んでいる。栄養と寿命との関係も研究で新たな発見がこれからもありそうだ。

紫の光が幸福感を高める

紫の光が特徴的な機能を持つと分かってきた。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

紫の光が特徴的な機能を持つと分かってきた。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 講演でもう一つ触れられたのは光と寿命との関係だ。早野氏は、「日光に含まれている紫色の光が、人間の幸福感を向上させる可能性が分かってきた。コロナのときには室内に閉じこもることが多かったが、電灯の光には紫の光が含まれない。紫の光を目に入れないと、精神的に悪影響が及ぶ可能性がある」。老化の研究は、光の活用という点からも進歩している。

 早野氏は世界の若返りの研究の全体像を示しながら、日本でもさらに若返りの研究が活発になること望むと強調した。2025年には大阪万博が開催されるが、そのときに若返り研究が世界に追いつくことも期待する。若返り研究という新しい分野が、人間の寿命と活力の限界を広げ、老化の見方を変え、健康で充実した人生への新たな機会を開くと見通しを示した。

 ヒフコNEWSでも若返りがこれから注目されることを、日本抗加齢医学会理事長の山田秀和氏のインタビューで伝えたが、美容医療の分野こそ若返りがますます注目されそうだ。

第111回日本美容外科学会(JSAS)で早野元詞氏が講演。座長は第111回日本美容外科学会長を務めた東京皮膚科・形成外科(東京都中央区)総院長の池田欣生氏。写真/編集部

第111回日本美容外科学会(JSAS)で早野元詞氏が講演。座長は第111回日本美容外科学会長を務めた東京皮膚科・形成外科(東京都中央区)総院長の池田欣生氏。写真/編集部

【訂正】 ・早野氏の肩書きCSOについて「チーフ・ストラテジー・オフィサー」と記載しましたが、正しくは「チーフ・サイエンティフィック・オフィサー」です。お詫びして訂正します。(2023/05/20)

参考文献

「見た目の大切さ」とは?──美容医療の第一人者 日本抗加齢医学会の山田秀和理事長と語るVol.1
https://biyouhifuko.com/news/interview/1082/

美容医療と美しさ──美容医療の第一人者 日本抗加齢医学会の山田秀和理事長と語る Vol.2
https://biyouhifuko.com/news/interview/1100/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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