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脱毛からシワ改善、白斑の改善、鼻や耳、乳房の施術、細胞治療やPRPの最新研究成果とは、日本再生医療学会で美容医療シンポ

カレンダー2024.3.23 フォルダー 国内

ポイント

  • 再生医療と美容医療の密接な関係が注目され、安全かつ効果的な治療法の開発が進んでいる
  • 日本再生医療学会では、細胞を使った治療やPRP(多血小板血漿)を含む最新治療法が議論された
  • 講演では、実例に基づいて、美容医療での再生医療の成果やリスク管理についての研究が発表された

 美容医療と再生医療の密接な関連が注目されている。多くの課題や問題が存在しているものの、治療の背景に踏み込む研究が進められ、より安心で信頼性の高い治療へと進化させようとする動きも見られるようだ。

 第23回日本再生医療学会総会で2024年3月22日、日本美容外科学会(JSAPS)ジョイントシンポジウムが開催され、美容医療分野から医師5人が講演した。

PRPの効果、増殖因子のメカニズムに迫る

関西医科大学形成外科教覚道奈津子氏。(写真/編集部)

関西医科大学形成外科教授の覚道奈津子氏。(写真/編集部)

 最初に登壇したのは、関西医科大学形成外科教授の覚道奈津子氏。

 覚道氏は、PRPや海外で販売されている人の血小板から抽出される「PLTMax」を使い、脂肪幹細胞(ASC)への影響を分析し、その効果を報告した。PRPに含まれる血小板由来の増殖因子の効果については既に知られているが、覚道氏の研究では、増殖因子と一言でいってもい単純ではないことが明らかにされた。具体的には、次のように複数の増殖因子が効果を発揮していると考えられるという。

  • PDGF(血小板由来増殖因子)
  • TGF-β1(トランスフォーミング増殖因子-β1)
  • IGF-1(インスリン様増殖因子-1)
  • VEGF(血管内皮増殖因子)
  • HGF(肝細胞増殖因子)
  • EGF(上皮増殖因子)

 覚道氏によると、それらの増殖因子の効果を一つずつブロックしても、PRPの効果は依然として確認され、増殖因子の働きとしてどれか1つが決定的な効果を持つというよりも、むしろ複雑なメカニズムによるものと考えられそうだという。

 さらに、海外で販売されるPLTMaxを使った脂肪幹細胞の増殖効果の実験から、細胞の「ストレス耐性」を向上させる効果が認められたと紹介。血小板から出てくる増殖因子の効き方の背景として重要である可能性があると語った。

毛髪を増やすには頭皮の若返りが重要か

桜花クリニック(東京都新宿区)院長の福岡大太朗氏。(写真/編集部)

桜花クリニック(東京都新宿区)院長の福岡大太朗氏。(写真/編集部)

 次に、桜花クリニック(東京都新宿区)院長である福岡大太朗氏が登壇した。福岡氏は、「HARG療法」と呼ばれる薄毛治療の開発者であり、08年から脂肪幹細胞培養上清を用いた毛髪再生に関する研究に取り組んでいる。

 福岡氏によると、培養上清中のタンパク質の濃度が皮膚再生の様相をどのように変化させるかを、ネズミを使った実験を通じて研究しているという。特定の濃度で、治癒の速度の加速、脂肪細胞のサイズ減少、毛の増加や太さの改善などが確認された。これらの結果から、福岡氏は、皮下脂肪細胞のサイズ減少が脂肪組織の若返りや再生を示している可能性を指摘した。さらに、このような頭皮の細胞変化を踏まえて、頭皮再生が薄毛治療において重要であるとの見解も示した。

 その後、Yanaga CLinic&組織再生研究所(福岡市中央)院長の矢永博子氏が、自施設での研究成果や臨床応用について述べた。矢永氏の施設は、15年から細胞加工施設として認可を受け、細胞治療やPRP注入療法に積極的に取り組んでいる。自家培養の表皮細胞シート、軟骨細胞組織、線維芽細胞、脂肪細胞、PRPを用い、傷跡、ニキビ痕、白斑、鼻を高くする治療(隆鼻)、耳の形成(耳介形成)、抗加齢治療、乳房増大や再建などに取り組む。

 例えば、白斑は肌の色素を作るメラノサイトを含む細胞シートを移し、肌の色素を自然な状態に戻す成果を上げている。また、人工物を使って鼻を高くしている人に、培養した軟骨を体内にいったん移植して変化させた上で鼻に移植する治療を行っている。これも成果を上げている。

PRP治療の効果と安全性

ジョイアクリニック京都(京都市中京区)院長の林寛子氏。(写真/編集部)

ジョイアクリニック京都(京都市中京区)院長の林寛子氏。(写真/編集部)

 青山エルクリニック(東京都港区)院長、杉野宏子氏が、PRP治療の基礎と臨床応用について、実例を挙げながら紹介した。脱毛治療へのPRPの応用もその一つ。極細の針が付いた自動的に連続して注入できる注射器(水光注射、メソセラピー)を用いて頭皮にPRPを注入し、毛髪の太さや密度の向上を図る方法について説明した。杉野氏は特に女性型脱毛症の有効な治療法が限られている現状を踏まえ、PRP治療の有望性を指摘した。

 さらに、目の周りの細かいシワや、毛穴の目立ち、肌の張りの低下などに対して、PRP治療が副作用が少なく有効なアプローチになり得ると説明した。

 しかし、一方で海外では、PRPによる皮膚の壊死や失明などの重大な副作用も報告されており、それらは極めてまれなケースとはいえ、副作用の可能性には注意が必要とも語った。

 ジョイアクリニック京都(京都市中京区)院長の林寛子氏は、PRPにb-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を添加した治療について説明した。PRP+b-FGFの組み合わせは副作用のリスクが最近注目されているが、林氏は、PRPの最適化やb-FGFの添加量を調整するプロトコールを確立し、「PRPF」という名称での治療を実施し、その商標も取得している。09年から1000症例以上を手掛け、副作用も報告されていないと語った。

 林氏は自身が実践するPRPFで副作用を回避できている背景として、いくつかの注意点を挙げた。それらは、血小板を活性化させるために通常添加されている塩化カルシウムを使わないこと、治療の間隔を適切に設定すること、異物が存在する部位への使用を避けること、炎症を引き起こす可能性がある白血球が少ない「LP-PRP」を使うこと、治療後1カ月以内のフォローアップを徹底するといった措置によりリスクを管理していると説明した。

 美容医療の分野での再生医療は、PRPやエクソソームを用いた治療に関して問題が指摘されることがある。一方で、治療の根底にあるメカニズムの研究や実践に関する学術発表や論文の発表も盛んになっている。積極的な情報公開により、治療に関する理解を深め、治療を受ける人にとって安心できる医療へと発展させることが重要だろう。

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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