NMN(β-ニコチンアミドモノヌクレオチド)点滴、幹細胞培養上清やエクソソームの静脈投与(注射や点滴など)が科学的根拠の乏しさから推奨されないとする見解が、日本抗加齢医学会から会員への書面を通じて2024年3月に示された。学会からの公式な立場が示されたことで再び注目されている。
点滴や静脈投与に注意
日本抗加齢医学会の理事長を務める近畿大学の山田秀和氏によると、現時点での同学会のスタンスを書面で示した。「自由診療特に再生医療に関する安全性の注意喚起について」と題した文書では、「NMN点滴療法、幹細胞培養上清液及びエクソソームの静脈投与について、その有効性・安全性について、推奨するに足りるエビデンスが確認できていないことから、現時点では、これを推奨いたしません」と明記された。
筆頭に挙げられたNMNは、山田氏が以前から特に静脈投与のリスクを指摘していた。例えば、23年9月に東京で開かれた第41回日本美容皮膚科学会で、飲むのと血管に注入する点滴は別という点を強調。点滴は成分がどのように製造されたかなどに気を付けるべきだといい、「利用については医師が自己責任で使う必要がある」(山田氏)。直接血液に入れると、短時間のうちに全身に成分が広がり、その影響は薬を飲むよりも大きくなる。それだけに点滴には慎重に対応した方が良いと考えられる。
幹細胞培養上清についても国内で懸念が出ており、特に学会は静脈投与を推奨しないという立場を示した。
幹細胞培養上清液は、再生医療抗加齢学会が23年10月に、これを使ったことによる死亡事例が発生したと報告していた。死亡事例を公表した際に、再生医療抗加齢学会の理事長を務める森下竜一氏は、静脈投与について言及した。「幹細胞培養上清液及びエクソソームの静脈投与につきましては、医療水準として未確立の療法であり、その有効性・安全性について、エビデンスに基づく十分な検討をお願いいたします」と説明していた。
また「現時点では他家由来幹細胞培養上清液及びエクソソームに関して、医薬品医療機器等法の承認を取得した製品は存在しないことから、試薬等として流通しているものを医師が自らの責任において使用しているものと承知しておりますが、未承認の製品の使用に当たっては、関連法規を御理解の上、慎重にご検討いただくことをお願いいたします」とも述べていた。
実験用の試薬は安全性が不明
日本抗加齢医学会では、点滴に使われている医薬品の問題を指摘している。点滴用のNMN、幹細胞培養上清、エクソソームが国内では承認されていないため、これらは実験用の試薬として流通し、医師が自己責任で使っている状況にある。
理事長の山田氏が指摘する通り、これらの医薬品は治療目的での使用を前提としていないため、その有効性や安全性は未知数であり、使用に当たっては医師は責任を負うことになる。万が一、使用によって問題が生じた場合、国の救済制度の適用は受けられない。
厚生労働省でも、24年3月に、医療広告ガイドラインを改訂し、自由診療で未承認の薬などを使うときには、それが日本で認められておらず、何か問題があったときに公的な救済制度を使えないことなどを示すように求めた。ガイドラインの改訂により、治療を受ける人もリスクを理解できるようになる。
現在でも、NMN、幹細胞培養上清液、エクソソームの点滴が行われていると見られるが、利用を検討している人は、学会が推奨していない状況を理解することは不可欠だろう。