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韓国の美容クリニック人気、何が医療観光の満足度を決める?研究が示した5つのポイント、評価の軸を変える仲介役のファシリテーター、韓国の漢陽大学の研究から考える【編集長コラム】

カレンダー2025.3.14 フォルダー連載・コラム
医療観光で満足度が高まるのはどういう場合?画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

医療観光で満足度が高まるのはどういう場合?画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 私はこの3月、韓国の美容医療を取材するために訪れる予定だ。世界的に見ても人気が高い韓国の医療観光は、日本から自費で施術を受けに行く人も少なくない。では、現地を実際に取材することで、どんな新しい視点を得られるのだろうか。

 そんなことを考えていたとき、とある論文を見つけた。韓国政府は2027年までに年間70万人の医療観光客を誘致しようとしており、今も美容クリニックが増え続けている。数が多いだけに、どう選び、どのような観点で評価するのかが課題だ。

 そこで、韓国漢陽大学の研究グループが2021年に報告した論文を基に、今回は医療観光の満足度がどこから生まれるのかを見ていきたい。論文では、美容クリニックの施術そのものの質だけでなく、仲介役であるファシリテーターの役割が大きいと指摘されている。実際の施術の良し悪しとは別に、なぜ満足度の高い医療観光が成立するのかを考えることは大きな意味があるはずだ。

 以下では、その論文の概要を紹介しながら、「良いクリニック」や「満足度の高い医療観光」の条件について探っていきたい。

施設の評価につながる5つのポイント

満足度につながる要素とは。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

満足度につながる要素とは。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 韓国の美容医療利用者の満足度に影響する要素→ 韓国の美容クリニックを利用する中国人を対象にした調査で、医療観光の満足度に影響する要素として「有形性(設備やスタッフの外見)」「保証(知識や信頼感)」「共感(配慮や個別対応)」の3つが特に重要であることが示された。
  • 満足度に影響しなかった要素→ 一方で「信頼性(正確性)」や「応答性(迅速な対応)」は、必ずしも満足度に直結しない結果となり、施術の結果よりも「どう扱われたか」「どれほど安心感を得られたか」が重視される傾向が確認された。
  • ファシリテーターの役割→ 美容クリニックと利用者をつなぐファシリテーターの存在だけでは満足度が高まるわけではなく、その質が重要であり、高い質のファシリテーターが関わると「快適さ」や「心理的サポート」が重視され、低い場合には「専門性」など別の観点が重視される傾向が示された。

 まずは、どうやってこの論文を見つけたかという話から始めたい。医療観光は美容医療だけが目的ではなく、いまや国際的に注目される分野である。日本人が韓国の美容クリニックを利用するケースも増えているとされるが、その実態や「どのクリニックが良いのか」を考えるとき、学術的な情報を参照できれば意義が大きいだろう。ところが実際には、韓国の医療観光を本格的に分析した研究は意外に少ない。身近なテーマである反面、プライベートな要素が多く、調査自体が難しいのかもしれない。

 そうした中、漢陽大学のパク・ジュンクン氏らの研究グループが、韓国の美容クリニックを利用した中国人を対象に「医療観光の満足度につながる要素」を分析し、報告を行っていた。対象は中国人だが、日本人が韓国の美容クリニックを利用する際にも十分に参考になる内容だと考えられる。

 論文では、韓国の美容医療が広まった背景として「Korean look」への注目を挙げている。これは韓流文化の流行が後押ししたもので、既に2014年の時点で多くの中国人が韓国で美容医療を受けていたという。その後10年以上にわたり、韓国の美容医療人気が続いているわけだ。

 研究グループが注目したのは、サービス品質にかかわる指標として広く知られる「サーブクオール(SERVQUAL)」である。これをもとに設定した5つのポイントが、美容クリニックでの満足度にどのように影響するのかを分析している。以下では、それぞれのポイントが意味するところを具体的に確認していきたい。

有形性(Tangibles) 施設や装置の外観、およびサービスの物理的側面を指す。
信頼性(Reliability) サービスを正確に遂行すること。
応答性(Responsiveness) 顧客の要望に迅速かつ適切に応じる意欲や姿勢。
保証(Assurance) サービス提供者が持つ知識や礼儀正しさ、信頼感を与える能力。
共感(Empathy) 施術を受ける一人ひとりに注意を払い、配慮する姿勢。

 これらはすべて美容クリニックにおいて重要だが、研究グループは特に医療観光の満足度に影響する要素がどれかについて、中国人を対象とした調査から明らかにしている。加えて、美容クリニックを利用する中国人と美容クリニックの間を仲介するファシリテーターの役割についても分析した。

 その結果、医療観光の満足度につながったのは、有形性(病院の設備やスタッフの外見)、保証(スタッフの知識や信頼感)、共感(配慮や個別対応)の3つだった。

 一方で、信頼性(ミスなく正確に行うこと)や応答性(迅速な対応)は必ずしもこうした影響につながらなかった。

 やや不思議ではあるが、医療観光においては、施術の結果以上に、自分自身が「どう扱われたか」「どれほど安心感を得られたか」が「評価の大きな軸となっていたと考えられる。

 さらに興味深いのは、ファシリテーターの役割だ。ファシリテーターがいることで単純に医療観光の満足度が高まるわけではないという結果だった。また、ファシリテーターが美容クリニックのように、その見た目や信頼性などに多面的に影響したわけではなかった。彼らが関与することにより、美容クリニックの評価の軸が変わる影響が確認された。ファシリテーターの質が高いと、上で説明した有形性や共感といった快適さや心理的なサポートが重視されるようになった。一方で、ファシリテーターの質が低い場合には、美容クリニックの保証や医師・スタッフの専門性が重要視されていた。

ファシリテーターによって変わる「評価の基準」

医療観光をよりよく経験にするには。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

医療観光をよりよく経験にするには。画像はイメージ。(写真/Adobe Stock)

  • 中国人対象の結果である点→ 今回の論文は中国人を対象としたものであり、日本人にも必ずしも当てはまるとは限らないが、参考になる部分は多い。
  • 日本人が韓国の美容クリニックを利用する際の参考→ 有形性、信頼性、応答性、保証、共感という観点は、日本人が韓国の美容医療を利用する際のクリニック選びの視点として活用できる。
  • ファシリテーターの重要性→ 医療観光におけるファシリテーターの質が、利用者の安心感に大きく影響するため、海外の美容医療を検討する際には、ファシリテーターの対応も重視すべき重要な要素。

 以上のように、論文はあくまでも中国人での結果なので、そのまま日本人でも当てはまるとは限らない。

 ただし、日本人が韓国の美容クリニックを利用する際にも、この研究で示された有形性、信頼性、応答性、保証、共感という観点を参考に、施設を評価することは可能だろう。

 美容医療を利用する際、クリニックのどのような点を基準に良し悪しを判断すべきかは分かりにくい。

 施術の効果や安全性を考えれば、医師の資格や実績などスタッフの能力を確認する必要があるのは当然だ。そのほかにクリニックのどのような点を評価するかについては、韓国の研究から得られた結果は参考になる。

 また、医療観光では、ファシリテーターの役割を考える時の、研究の結果は参考になる。ファシリテーターが安心につながっているということから考えると、その良し悪しを考える際にも、自分自身が安心して海外の美容クリニックを利用できるかどうかという点を重視するのは有効な考え方だろう。

 この3月に韓国の美容医療を取材する際にも、これらの点に注目する予定である。

参考文献

Park J, Le HTPM, Amendah ER, Kim D. A Look at Collaborative Service Provision: Case for Cosmetic Surgery Medical Tourism at Korea for Chinese Patients. Int J Environ Res Public Health. 2021 Dec 17;18(24):13329. doi: 10.3390/ijerph182413329. PMID: 34948934; PMCID: PMC8702153.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34948934/

海外で美容医療を受ける際のメディカルツーリズムのガイドライン Vol.3 「本当に信頼できるか多角的に評価」
https://biyouhifuko.com/news/column/3024/

韓国政府がメディカルツーリズムのブーム後押し、2027年に70万人の計画発表、美容医療などハブ目指す
https://biyouhifuko.com/news/world/2206/

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Author

ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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