シワやたるみを目立たなくするだけではなく、老化した細胞を減らし、肌を構成する正常な細胞の働きを立て直す。肌を健やかな状態に長く保つ。そんな「スキンロンジェビティ」という発想が、化粧品研究にも入り込んできている。
資生堂は2026年7月、セリ科ハーブのコリアンダー(Coriandrum sativum)由来のエキスに、老化した皮膚線維芽細胞を除去すると同時に、正常な細胞を増やす作用を確認したと発表した。
老化細胞だけを減らし、正常な細胞を増やす

セリ科ハーブエキスにより、老化した線維芽細胞が減り、正常な線維芽細胞とコラーゲンが増える可能性を示した模式図。(出典:資生堂)
- 老化細胞への作用→コリアンダー由来エキスは、酸化ストレスで老化した皮膚線維芽細胞にアポトーシスを起こし、細胞数を減少させた。
- 正常細胞への作用→老化細胞と正常細胞を混ぜた環境では、老化細胞が減る一方で正常な細胞が増加した。
- コラーゲン産生→正常な線維芽細胞の増加に伴い、コラーゲン産生も促進される可能性が示された。
同社によれば、細胞は加齢や紫外線、酸化ストレスなどの影響を受けると、増殖する力を失った「老化細胞」へと変化することがある。こうした細胞は働きが低下するだけでなく、「SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype、老化関連分泌表現型)因子」と呼ばれるサイトカインなどを放出し、周囲の正常な細胞にも悪影響を与えることが分かっている。
最近、再生医療などで研究が進んでいるのが、老化細胞を選択的に取り除く「セノリティクス」という考え方だ。老化した細胞をそのまま残すのではなく、取り除くことで、組織全体の状態を立て直そうとする。
資生堂は20年以上にわたり、肌や毛髪の再生医療に関連する研究を続けてきた。今回、その知見を応用し、酸化ストレスによって老化を誘導した皮膚線維芽細胞に、コリアンダー由来のセリ科ハーブエキスを加えて培養。その結果、老化細胞ではアポトーシスと呼ばれる細胞死が起こり、細胞数が減少した。一方で、老化させていない正常な細胞では同様の作用は確認されなかったという。
さらに、正常な細胞と老化細胞をほぼ半分ずつ混ぜた状態でエキスを加えると、老化細胞が減少すると同時に、正常な細胞が増加した。細胞老化の指標も低下したという。
正常な線維芽細胞が増えたことで、コラーゲンの産生も促進された。つまり、老化した細胞を減らすだけでなく、その後に正常な細胞が増え、肌の機能を支える働きまで高まる可能性が示されたことになる。
今回使われたのは、セリ科に属するコリアンダー由来の特定のエキス。資生堂は以前から、コリアンダーエキスに毛包を構成する細胞の増殖を促す作用があることを見いだし、今回の研究では肌の線維芽細胞へと対象を広げた。
今回の結果から直ちに「セリ科のハーブを肌に塗ればよい」と考えることはできない。セリやパセリなど、ほかのセリ科植物にも同じ作用があるかは今回の研究では検証されていない。また、発表された結果は培養した細胞を使った実験によるもので、人の肌に塗った際にどこまで同じ変化が起こるかも今後の検証が必要となる。
それでも、身近な植物に含まれる成分から、老化細胞に選択的に働きかける可能性が見つかった点は興味深い。今後、同じセリ科植物を含め、植物由来成分と細胞老化との関係を探る研究が広がる可能性もある。
「若く見せる」から「肌を長く健やかに」へ

セリ科ハーブエキスを加えた条件では、緑色で示された老化細胞が少なくなっている。(出典:資生堂)
- スキンロンジェビティ→見た目を一時的に整えるだけでなく、肌の健やかな状態を長く維持する考え方が広がっている。
- 研究の方向性→化粧品研究でも、細胞老化や慢性炎症、酸化ストレスなど、肌が老化する仕組みそのものへの注目が高まっている。
- 今後の課題→今回の結果は培養細胞での実験であり、実際の化粧品として人の肌にどこまで効果があるかは今後の検証が必要。
今回の研究は、植物由来エキスに新たな働きが見つかったというだけではなく、化粧品におけるエイジングケアの考え方が変わりつつあることも映し出している。
これまでのスキンケアでは、乾燥を防ぐ、紫外線によるダメージを抑える、減少した成分を補うといったアプローチが中心だった。近年はさらに踏み込み、細胞老化や慢性炎症、酸化ストレスなど、肌が老化していく仕組みそのものに目を向ける研究が増えている。
その流れの一つが「スキン・ロンジェビティ」だ。
ロンジェビティは本来、健康な状態をできるだけ長く保つという考え方を指す。これを肌に当てはめると、シワやたるみを一時的に目立たなくするだけではなく、肌の健やかな状態を長く維持するという発想につながる。
ヒフコNEWSが2026年3月に紹介したフランスのCIBLE SKINも、「スキン・ロンジェビティクリニック」を掲げていた。肌の老化を慢性炎症などの問題として捉え、酸化ストレスやマイクロバイオームの乱れにも目を向けながら、スキンケアと美容医療を組み合わせ、肌を長く健やかに維持する方向性を示していた。
世界的な化粧品大手のロレアルも2025年に「ロンジェビティ」の分野の強化を打ち出している。
こうした考え方は美容医療とも近い。
美容医療では、シワを埋める、たるみを引き上げるといった見た目の変化だけではなく、肌の再生や細胞機能の改善を目指す「リジュビネーション」が重視されている。化粧品研究でも、肌表面を整えるだけではなく、細胞の状態や老化の仕組みに着目することで、その距離が徐々に近づいている。
資生堂が今回示した、老化細胞を取り除き、正常な細胞を増やしてコラーゲン産生につなげるという発想も、その延長線上にある。
ポイントは「何かを補って若く見せる」だけではなく、老化を促す要因を減らし、肌が本来持っている機能を保つ、あるいは回復させようとしていることだ。
今回確認されたのは細胞を使った実験で、実際の化粧品としてどの程度の効果につながるかは、今後の検証が必要となる。それでも、化粧品各社が細胞老化や再生、炎症といったテーマに踏み込むようになれば、エイジングケアは「若返って見える肌」を目指すものから、「健康な肌をできるだけ長く維持する」ものへと変わっていく可能性がある。
セノリティクス、リジュビネーション、そしてスキンロンジェビティ。これまで再生医療や長寿研究で語られることの多かった概念が、スキンケアの世界にも少しずつ入り始めている。
参考文献
資生堂、「セリ科ハーブエキス」に肌の老化細胞除去と正常な細胞増加、ダブルの効果を発見
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000004196
世界初「スキン・ロンジェビティクリニック」、慢性炎症に着目し酸化ストレスやマイクロバイオームの乱れに対処 スキンケアと美容医療を組み合わせ CIBLE SKIN創業者のアクニン氏とジネフリ氏に聞く
https://biyouhifuko.com/news/interview/17016/
ロレアルが長寿研究の強化、予防の重視を宣言、老化への対策で提携を広げる、「フラーリッシング×ロンジェビティ」で変わる美容医療
https://biyouhifuko.com/news/world/13274/
