
AMWC Japan 2026では、109人の演者のうち半数以上を海外の医師が占めた。(撮影:編集部)
専門研修を十分に積まず、早い段階から美容医療へ進む「直美」は、日本だけの問題ではない。
2026年9月13日、東京で開催された「AMWC Japan 2026」では、韓国、台湾、インドネシアの医師が、美容医療への医師参入と、それに伴う教育、資格、安全管理の課題について報告した。
韓国や台湾でも美容医療に医師が集まる

AMWC Japan 2026は2026年9月12日から13日まで、東京で開催された。(撮影:編集部)
- 海外でも同様の動き→日本の「直美」と同じように、韓国や台湾でも専門研修を十分に積まず美容医療へ進む医師の増加が課題となっている。
- 韓国での人材偏在→美容医療に携わる一般医が増える一方、救急や小児科、地域医療などでは医師不足が深刻化していると指摘された。
- 能力の継続更新→台湾からは、専門医資格の有無だけでなく、新しい治療や合併症対応を継続して学び続けることが重要との考えが示された。
日本で「直美」は、医師国家試験に合格し、2年間の初期臨床研修を終えた後、皮膚科や形成外科などの専門研修に進まず美容医療へ進むことを指す。
セッションの座長を務めた銀座スキンクリニック(東京都中央区)院長の坪内利江子氏は、海外の医師がこの日本語を知っていた経験を紹介し、同様の問題が海外でも起きていることを知ったと説明した。
韓国のチャングン・オ氏によると、韓国では医学部卒業後、国家試験に合格して医師免許を取得すれば、専門医研修を受けずに一般医として勤務し、診療所を開くことも制度上可能だ。一方、皮膚科専門医になるにはインターンやレジデントなど長期間の研修が必要になる。
オ氏は、こうした制度を背景に美容医療へ進む一般医が増えていると説明した。講演では、2025年に一般医が新規開業した施設の85%が皮膚科を診療科目として掲げ、そのうち65%では皮膚疾患について保険診療の請求実績がなかったとのデータも紹介した。これは美容医療中心の施設が多いことを示す。また、韓国医師会の調査として、美容医療に携わる一般医などは約3万人に上り、皮膚科や形成外科専門医約4000人を大きく上回ると説明した。これらはオ氏が講演で紹介した韓国のデータだ。
美容医療へ医師が流れる背景としては、自由診療の収益性、比較的規則的な勤務、早期に開業しやすいことなどが挙げられた。一方で、救急や小児科、地域医療などでは人材不足が深刻になり、残った医師の負担増がさらに若手を遠ざける悪循環が起きているとの指摘もあった。
美容医療の内部でも、過度な価格競争や短時間に多数の来院者へ施術する工場系クリニック、営業担当者がカウンセリングを担い医師が施術だけを繰り返す診療形態などが問題になっているという。オ氏は、最低限の臨床研修や継続教育、施術リスクに応じた資格要件、専門医資格の明示、施設・広告規制などが必要と提案した。
一方、台湾のチャオチン・ワン氏は、専門医かどうかという区分だけでなく、学びを続けて能力を更新することが重要だと説明した。ワン氏によると、医師免許があっても、新しいレーザーや注入治療、合併症対応の能力まで自動的に保証されるわけではない。皮膚科専門医であっても長期間学びを更新していなければ、現在の美容医療に必要な能力が十分とは限らない。そのため、美容医療へ参入するときの能力と、参入後も能力を更新し続けることの両方が重要だとした。
台湾では2019年から医学部6年に加えて2年間の卒後一般臨床研修を行う「6+2」の体制となり、美容医療でもこの臨床経験を重視しているという。さらに一部の美容医療では32時間の関連研修や、3年ごとに24時間以上の継続教育などの要件を設けていると説明した。
医師の専門分野を一般の人が確認できる情報公開や、施設側の麻酔、緊急搬送、記録、有害事象報告なども重視される。ワン氏は、医師個人の技術だけでなく、問題が起きたときに施設全体として対応できるかが重要だと指摘した。
市場拡大に教育や安全管理は追いつくか

AMWC Japan 2026の講演会場。2026年は講演会場を5会場に拡大し、幅広いテーマで議論が行われた。(撮影:編集部)
- 教育体制→インドネシアでは、美容医療の市場拡大に対して教育や資格制度の整備が十分に追いついていないことが課題とされた。
- 安全管理→標準化された研修に加え、合併症への対応、医療機器の管理、有害事象の報告などを含む仕組みが必要とされた。
- 重視すべき点→医師免許や肩書だけでなく、実際の能力や継続教育、施設の安全体制、情報公開を分かりやすく示すことが重要とされた。
インドネシアのルリ・D・パメラ氏も、急拡大する美容医療市場に、教育や規制の整備が追いついていないことを問題にした。
同国では皮膚科や形成外科の専門医に加え、一般医が追加研修を受けて美容医療へ参入する場合や、短期間の講習を経て施術を始める場合など、複数の入口が存在するという。
パメラ氏は、美容医療を支える仕組みとして、教育、資格や能力の認定、医療機器の監督、合併症報告という4本柱を提示した。特にメーカーによる機器のデモについて、「販売の場であって教育ではない」と指摘。標準化されたカリキュラムや指導を受けながら行われる実技研修、さらに合併症が起きた場合の対応訓練まで必要だとした。
またインドネシアでは、比較的色の濃い皮膚を診療する機会が多い。そのため、欧米など比較的明るい皮膚を対象として作られたレーザーの設定や研究結果をそのまま当てはめるのではなく、自国で多い皮膚タイプに合った治療条件や安全性のデータを蓄積する必要性も強調した。
坪内氏は、日本の状況についても説明した。直美の背景には、長時間労働や責任の重さ、若手医師の待遇、ワーク・ライフ・バランスの考え方の変化に加え、保険診療では価格を自由に設定できないのに対し、美容医療などの自由診療では価格設定の自由度が大きいという経済的な違いもあるとの見方を示した。
その一方で、日本には美容医療について全国共通の教育体系がまだ十分に整っていないという。形成外科、美容外科、美容皮膚科など複数の関連学会がそれぞれ教育体系を持ち、共通するカリキュラムや能力基準をどう作るかが課題となっている。
美容医療市場が拡大する中で、医師免許や肩書だけではなく、医師が何を学び、どの程度の能力を持ち、問題が起きたときに対応できるのかを、一般の人にも分かる形で示す必要性が高まっている。美容医療を安全に発展させるための制度作りが問われている。
