
AMWC Japan 2026の講演会場。2026年は講演会場を5会場に拡大し、幅広いテーマで議論が行われた。(撮影:編集部)
肝斑をはじめとする色素治療が、「メラニンを減らす」だけではなく、その背景にある皮膚そのものを整える方向へ広がっている。
2026年9月12~13日に東京で開催された美容医療・アンチエイジング医学の国際学会「AMWC Japan 2026」。
初日のセッション「Rethinking Pigmentation: New Trends, Technologies, and Treatment Logic(進化する色素治療―新しい視点・技術・治療ロジック―)」では、国内外の医師が色素治療の新たな考え方を紹介した。
肝斑は「色」の問題から「皮膚環境」の問題へ

AMWC Japan 2026では、109人の演者のうち半数以上を海外の医師が占めた。(撮影:編集部)
- 肝斑の捉え方→メラニンの増加だけでなく、基底膜の傷み、真皮の老化、血管や炎症などが関わる複合的な皮膚変化として考えられている。
- 真皮へのアプローチ→高周波の超音波などでまず真皮の環境を整え、その後に残った色素をレーザーで治療する考え方が紹介された。
- 治療の使い分け→色素の深さや血管の関与を見極め、IPLやピコ秒レーザー、フラクショナル治療などを組み合わせることが重要とされた。
色素治療では、増えたメラニンをレーザーなどで減らしたり、メラニン産生を抑えたりする方法が一般的に行われる。
今回のセッションで特に肝斑について共通して示されたのは、メラノサイトだけを治療対象にするのでは不十分ではないかという考え方だ。
従来の研究では、肝斑の皮膚ではメラニンが増えるだけでなく、表皮と真皮の境界を支える「基底膜」の傷み、紫外線による真皮の老化、血管の増加、アレルギー反応や炎症に関わる免疫細胞である「肥満細胞」の増加など、さまざまな変化が認められることが報告されている。さらに、コラーゲンなどを作る「線維芽細胞」の老化も、肝斑の病態に関係する可能性も考えられている。
こうした老化した線維芽細胞は、メラニンをつくる「メラノサイト」の働きを高める物質などを周囲に放出し、色素が生じやすい環境をつくる可能性も指摘されている。このため肝斑は、単にメラニンが増える「色素異常」だけではなく、表皮と真皮の細胞が互いに影響し合うことで生じる、皮膚全体の環境変化として捉えられるようになっている。
こうした考え方を実際の治療に取り入れていたのが、HILLS GRACE CLINIC(横浜市青葉区)院長の奥謙太郎氏だ。奥氏は、メラニンそのものを直接狙うのではなく、高強度、高周波の平行型超音波を真皮に照射し、その環境に介入することで、真皮と表皮の相互作用に働きかけることを狙う治療を紹介した。
奥氏が2026年に発表した前向き研究では、肝斑のある日本人女性20人、平均年齢50.5歳を対象に、全顔へ1回の治療を実施した。肝斑の重症度を評価する指標「mMASI」は、治療前の平均4.63から6カ月後には1.69まで低下した。研究期間中に有害事象は報告されなかった。
奥氏はさらに、最初から色素に強く介入するのではなく、まず真皮の環境を整え、その後に残った色素をレーザーで治療する「Prime first, target later」という考え方を示した。加えて、架橋ヒアルロン酸によって線維芽細胞に機械的な刺激を与える方法なども紹介した。
タイの皮膚科医で、ドクター・ウィチャイ・クリニックのウィチャイ・ホンチャルー氏は、2910nmのエルビウム添加フッ化物ガラスファイバーレーザーを紹介した。メラニンを主な標的とするレーザーとは異なり、皮膚に含まれる水に吸収される性質を利用する。照射の深さや範囲を調整しながら皮膚を部分的に照射し、色素だけでなく、肌の質感や光老化にも働きかけながら皮膚のリモデリングを促す。同氏はタイの来院者の症例を示し、浅い層から深い層まで照射条件を使い分ける方法を説明した。
韓国ドクター・ウー&ハンズ・スキン・アンド・レーザー・クリニックのイ・グンス氏は、色素性病変を一括して捉えるのではなく、表皮、表皮と真皮の境界、真皮といった病変の深さに加え、血管の関与も含めて考える方法を示した。
皮膚の浅い部分にある色素にはアイピーエル(光治療)などを用い、病変の深さや性質に応じてピコ秒レーザーやフラクショナル治療を使い分ける。さらに、血管の関与が目立つ肝斑では、パルス色素レーザーも選択肢になるという。重要なのは、一つの最新機器ですべてを治療しようとするのではなく、色素が皮膚のどの深さにあり、血管を含めてどのような変化が起きているのかを見極め、それに合わせて治療を選ぶことだ。
治療の順序と皮膚の回復を重視

AMWC Japan 2026は2026年9月12日から13日まで、東京で開催された。(撮影:編集部)
- 強すぎる治療に注意→肝斑は正常な皮膚との境界が曖昧なため、強いレーザー照射は炎症や炎症後色素沈着につながる可能性がある。
- 回復まで含めて治療→レーザーだけでなく、外用薬や紫外線対策、トラネキサム酸などを組み合わせ、治療後の炎症や皮膚の修復まで考える方法が重視された。
- 今後の課題→新しい治療には小規模研究も多く、肝斑の再発を抑えながら効果を長く維持できるか、さらなる検証が必要。
みやた形成外科・皮ふクリニック(東京都港区)院長の宮田成章氏と台湾の台南維格皮膚科院長のチャオチン・ワン氏の講演からも、色素そのものだけでなく、治療後の炎症や皮膚の回復まで含めて考えるという共通した方向性が見えてきた。
宮田氏は、複数の波長を使い分けるピコ秒レーザーによる色素治療に加え、レーザー照射後の炎症を抑え、皮膚の回復を促すところまでを一連の治療として捉える考え方を紹介した。さらに、針を使わず液体を高速で皮膚に噴射する方法を用いてトラネキサム酸などを届ける治療や、エクソソームを利用した治療例にも触れた。
ワン氏が強調したのは、機器のエネルギーを単純に高くするのではなく、病変と正常な皮膚との違いを見ながら、安全に治療できる範囲を考えることだった。そばかすに当たる「雀卵斑(じゃくらんはん)」や、一般的なシミの一つである「老人性色素斑」のように、周囲の正常な皮膚との色の差が大きい病変は、レーザーで選択的に狙いやすい。一方、肝斑は周囲との境界がはっきりせず、正常部との色の差も小さい。このため強いエネルギーを加えると、周囲の皮膚にも炎症が起こり、炎症後色素沈着(ピーアイエイチ)につながる可能性がある。
そのため、一度の治療で色素を「取り切る」ことを目指すのではなく、病変の性質に応じて治療の強さを調整し、外用薬や紫外線対策、トラネキサム酸など従来から使われてきた方法も組み合わせることが重要になるという。さらに、皮膚の修復を促す目的などで使われるPDRN(ポリデオキシリボヌクレオチド)を、治療後の皮膚環境に働きかける目的で利用する方法も紹介された。
今回の講演から見えたのは、特に肝斑では、メラニンだけを狙う治療から、真皮や血管、炎症、組織修復まで含めて皮膚全体を整える治療へと考え方が広がっていることだ。ただし、新しい治療にはまだ小規模研究も多く、今後は再発を抑えながら、皮膚の状態を長期的に安定させられるかを検証することが重要になる。
参考文献
肝斑にSofwave(ソフウェブ)、超音波1回で6カ月後の重症度スコア64%改善、メラニンではなく「真皮の老化」に着目 Hills Grace Clinicの奥謙太郎氏が報告
https://biyouhifuko.com/news/research/19068/
