
2026年11月5~6日に沖縄県糸満市で開催された第49回日本美容外科学会総会・第157回学術集会。会長特別企画「直美と日本の医療」では、医師の専門教育や美容医療の安全性、専門研修の人数制限などが議論された。(写真:編集部)
初期臨床研修後に直接美容医療へ進む「直美(ちょくび)」。2026年11月5日~6日に沖縄県糸満市で開催された第49回日本美容外科学会総会・第157回学術集会(JSAPS)では、会長特別企画「直美と日本の医療」が開かれ、6人の演者が異なる立場から問題を検討した。
前回は、當山護氏と磯部総一郎氏による医療の歴史や美容医療の社会的価値についての講演を伝えた。
続く第2回は、グリーンウッドスキンクリニック立川(東京都立川市)院長の青木律氏と、がん研有明病院形成外科部長の矢野智之氏の講演を取り上げる。
トラブル増加と「直美」の関連性

美容外科へ進む若い医師が増えている。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)
- 美容医療の相談件数→2017年度の1878件から2024年度には1万件超に増加。一方、健康被害などの危害相談は約2.2倍の増加。
- トラブルの原因→青木律氏は、医師の診断能力や技術不足による問題と、クリニックの営業・経営方針による問題を区別する必要性を指摘。
- 医師の専門教育→形成外科の研修は重要だが、美容外科特有の美的判断も必要。専門医資格の有無だけでは医療の質や安全性を判断できない。
青木氏は「直美問題を考える──開業医の立場から」と題して講演し、直美という進路選択と、美容医療で実際に起きている問題を区別する必要性を指摘した。
青木氏は、「問題」という言葉には、誤診や不適切な施術など、実際に生じている問題を指す「Problem」と、医師の教育やキャリアのあり方など、議論すべき課題を指す「Issue」があると説明した。「直美」という進路選択そのものは、後者として考える必要があるという見方だ。
厚生労働省の統計によると、主たる診療科を美容外科とする医師は、2004年の342人から2024年には1720人と、20年間で約5倍に増加した。
一方、国民生活センターの統計では、美容医療に関する相談総数は2017年度の1878件から2024年度には1万件を超えた。ただし、健康被害などに関する「危害相談」は409件から898件へと約2.2倍の増加で、相談総数ほど増えていない。
美容医療に関する相談には、健康被害のほか、契約や料金、勧誘に関する内容も含まれる。青木氏は、施術件数の増加による影響も考えられるため、相談件数の増加だけでは、医療の安全性が低下したとは判断できないとの見方を示した。なお、2025年度の相談総数は、2026年5月31日時点の集計で7944件となり、前年度を下回った。
青木氏は、美容医療で生じるトラブルについて、医師の診断能力や技術の不足による問題と、クリニックの営業や経営方針による問題を区別する必要性を指摘した。皮膚疾患を正しく診断できずに不適切な施術を行うことは医学的な問題だが、本人の希望よりも契約を優先するような勧誘は、医師個人の経験不足だけでは説明できない。医療機関のカウンセリング体制や経営方針にも目を向ける必要があるという考えだ。
青木氏は、自身が形成外科や皮膚科、外科、救急医療などで経験を積み、オーストラリアでも研修した経歴を振り返った。形成外科の専門研修では、外傷や病気の治療を通じて、技術だけでなく医師としての責任や倫理観を学ぶ。一方、美容外科では、大きな形態異常がない人の外見をどこまで改善するべきかという、独自の美的判断が求められる。青木氏自身も、美容外科に進んでから、こうした美的判断について改めて学ぶ必要性を感じ、哲学を学んだ経験を語った。
形成外科の専門研修には重要な意義があるものの、それだけで美容外科に必要な能力のすべてが身につくわけではない。また、専門医資格の有無だけで、医療の質や安全性を判断できるわけでもない。
青木氏は、直美というキャリアの問題と、医師の診断や技術の問題、クリニックの経営や営業方針の問題を分けて考える必要性を示した。
専門研修の人数制限が「直美」を後押し?

がん研有明病院では、2018年以降に採用した形成外科専攻医12人のうち、半数が最終的に美容医療の分野に進んでいたことが学会で紹介された。(出典:Adobe Stock)
- 専門研修の人数制限→東京都の形成外科では2025年度の募集枠が計46人。希望する地域で採用されず、美容医療へ進む医師がいる可能性。
- 専攻医の進路→がん研有明病院では2018年以降に採用した専攻医12人のうち、半数が最終的に美容医療へ進んでいた。
- 進路選択への影響→結婚や育児、勤務条件、SNSなど複数の要因が関係。専門研修の人数制限が美容医療への転身を促しているか、追跡調査が必要。
続いて矢野氏は「専攻医のプログラム離脱と美容外科医への転身を民間病院、基幹病院の立場として考える」と題して講演し、専門研修制度が若手医師の美容医療への転身に影響している可能性を指摘した。
矢野氏は、初期臨床研修の直後に美容医療へ進む「直美」と、専門研修を始めたものの、開始から1年程度で離れ美容医療へ進む人々も事実上の直美ととらえ、直美問題について考察した。また、3~4年程度の専門研修を経て美容医療へ進む場合については直美とは別にとらえられるとの判断を述べた。
同氏は、形成外科の専門研修で採用人数に上限が設けられている状況を説明した。
形成外科の専門研修は原則4年間で、大学病院や一般病院などが連携して幅広い診療を学ぶ。一方、現在の制度には、医師の地域偏在を是正するため、採用人数に上限を設ける「シーリング」がある。
東京都の形成外科では、2025年度の募集枠は通常募集の30人に、連携プログラム10人、特別地域連携プログラム6人を加えた計46人だった。東京には複数の研修基幹施設があるものの、採用枠は均等ではなく、矢野氏の施設では年間1~2人程度に限られるという。
矢野氏が問題提起したのは、希望する地域の専門研修に採用されなかった若手医師の進路だ。
例えば、東京で形成外科を学びたい医師が採用されなかった場合、地方の研修先を選ぶこともできる。しかし、結婚や育児、パートナーの仕事などによって転居が難しい場合もある。
一方、東京には美容医療のクリニックが多く、初期臨床研修を終えた医師を採用する施設もある。形成外科の専門研修に進めなかった医師が、美容外科を形成外科と関連の深い領域と考え、美容医療への就職を選ぶ可能性があると見る。これは仮説の段階だが、地域医療を守るための医師偏在対策が、結果として若手医師を保険診療から自由診療へ向かわせている可能性だ。
矢野氏は、がん研有明病院で2018年以降に採用した専攻医12人の進路についても紹介した。そのうち半数が最終的に美容医療の分野に進んでいた。専門医資格を取得した医師がいる一方、研修を途中で離れた医師や、美容医療へ転身した医師もいた。離脱の背景には、人間関係や結婚および育児、家族が営むクリニックの継承など、さまざまな事情があったという。
矢野氏は、若手医師の進路選択に影響する要因として、勤務条件や将来への不安に加え、SNSの存在も取り上げた。美容医療が魅力的な進路として認識されやすくなる可能性があるととらえる。一方、形成外科でも乳房再建や外傷治療など、高度な技術を要する手術が行われているが、専門分野の魅力が、若手医師に十分伝わっていない可能性にも触れていた。
矢野氏は、専門研修の採用制限によって希望する進路に進めなかった医師や、途中で研修を離れた医師のその後を追跡し、制度がキャリア選択に与える影響を検証する必要性を訴えた。
参考文献
美容外科医は6年で2.5倍超 美容医療は専門分野としてどう見られているのか 若い医師を引きつける一方、学びの場が見えない 専門性も社会に伝わりづらいまま【連載・美容医療流入】
https://biyouhifuko.com/news/column/18074/
令和7年度専攻医採用におけるシーリング(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001521959.pdf
