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なぜ大阪のエステ脱毛は書類送検に?女性のやけど事件の背景を大阪府警に聞いた

カレンダー2023.6.23 フォルダー 国内

ポイント

  • 大阪市内のエステ経営者らが資格を持たずに脱毛を行い女性にヤケドを負わせ書類送検
  • 無資格での医療行為、必要なフィルターを装着しなかった過失がそれぞれ法律違反と見なされた
  • エステ脱毛の人気が高まり、競争が激化する中で、トラブルが起きやすくなっている可能性がある
大阪府警察本部。(写真/Adobe Stock)

大阪府警察本部。(写真/Adobe Stock)

 2023年6月21日、大阪府警は、大阪市西区のエステサロン「BeSonder(ベゾンダァ)」の女性経営者とアルバイト従業員2人(いずれも24歳)を書類送検したと発表した。容疑は、必要な医師免許を持たずに女性客に光線照射による脱毛施術を行い、しかも施術を誤ってやけどを負わせたこと。夏に向けて脱毛を検討する人が増え、同様なトラブルが増える可能性も高まる。大阪府警察本部に、エステ脱毛がほかにも盛んに行われる中で、なぜこのケースが書類送検に至ったのかを聞いた。

※書類送検は、逮捕されていない被疑者の捜査資料などを検察庁に送って報告すること。

24歳の女性経営者とアルバイトを書類送検

光線を照射する脱毛でトラブル。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

光線を照射する脱毛でトラブル。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 この事件は、健康被害に関わる事件全般を担当する大阪府警生活環境課が担当した。同課によると、事件は22年8月中旬、20代の女性がやけどを負い、警察に通報したことから捜査が進められることになった。被害者はエステサロンで背中に光線を照射することによる美容脱毛の施術を受け、I度~II度のやけどを負い、治療に1~2週間がかかったという。

※熱傷は重症度によって3段階に分類される。I度熱傷は表皮、II度熱傷はより深い真皮、III度熱傷は皮下組織までを損傷した場合をそれぞれ指している。

 この被害を受けて、大阪府警はエステ店の女性経営者とバイトを医師法違反および業務上過失致傷の疑いで書類送検した。医師法違反は、医師でないのに光線を照射する脱毛装置によって背中の脱毛を行ったことから、その疑いがあると判断された。また、業務上過失致傷は、脱毛の光線照射を行うエステ機器を業務として使うに当たって、本来ならば余分な光を制御するフィルターを手元のハンドピースに装着する必要があったが、それを装着しない、また確認もせずに、やけどを引き起こしたことが問題とされた。

 同課によると、エステ店の女性経営者は、光線を照射する脱毛の施術に関して「資格が必要だと知らなかった」と述べ、アルバイトも違反の認識がなかった。また、経営者は「照射の装置が故障してハンドピースを取り替えた際に、フィルターを取り付け忘れた」と説明し、アルバイトは「照射のときに装着を確認していればやけどを防げた」と認めている。

 なお、サロンが脱毛装置を設置したのは20年12月。2023年1月までのおよそ2年間に110人が利用し、21年7月~23年1月までに80万円の売上があった。ただし、「実際の利用者や売上については、証拠が確認されない分もあるので、さらに多い」(同課)と見られる。

厚生労働省の2001年の通知が基準に

厚生労働省。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

厚生労働省。写真はイメージ。(写真/Adobe Stock)

 エステ脱毛が広く行われている中で、警察沙汰にまで発展した今回のケースは、2つのポイントから説明できる。

 第一に、被害者の健康被害が深刻で、サロンとの話し合いだけでは解決できず、警察に相談するまで至ったこと。その上で、第二に、やけどの範囲が、毛を作り出す部分である「毛乳頭」を含む真皮にまで及んでいたことである。

 厚生労働省は2001年、脱毛施術に対する医師法の適用基準を記載した通知を出している。この通知では、「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」については医行為であると明記した。

 今回のケースでも、「エステサロンで使われた光線照射のための機器が医療用かどうかではなく、真皮まで傷つけ、毛乳頭を破壊した事実が重視された」(同課)。エステサロンで脱毛を受け、毛根部に損傷が生じた場合には、医師法違反の恐れがあると言えるのだろう。

脱毛にまつわるトラブルが増えている

若い女性の消費生活相談の1位はエステ脱毛。(出典/令和5年版消費者白書)

若い女性の消費生活相談の1位はエステ脱毛。(出典/令和5年版消費者白書)

 ヒフコNEWSでも報じているように、脱毛サロンに関連した相談が18~19歳の間で急増している。もう少し年齢層が高い世代でも、女性の消費生活相談で脱毛エステが1位となっている。これは健康被害だけではなく、支払いの問題なども含むが、エステ脱毛はトラブルと隣り合わせの状況と言える。

 エステ脱毛の店舗数は、需要の高まりを背景に増加傾向にある。この競争激化により、「月額1万円以下」「通い放題」など低価格競争が常態化している。低価格を優先するあまり、質が後回しにされることもあり得る。書類送検された大阪市内のエステサロンは過去のウェブサイトの情報をたどると、元々はネイルサロンだった。そのように異業種からの参入は、経験の浅いスタッフが提供することになりやすいのは想像に難くない。

 このような競争激化の状況や低価格競争などの問題は、エステ脱毛に限ったことではなく、医療脱毛にも及んでいる。ヒフコNEWSでも大きく取り上げた男性専門医療脱毛の「ウルフクリニック」は突然閉鎖され、運営関与の会社が破産手続きに入り、利用者との間で返金トラブルに陥っている。やけどなどのトラブルは医療でも起きている。

 今回の事件は、エステでの脱毛を行っている場合、しかもスタッフの経験や知識が十分ではない場合には注意が必要であることを浮き彫りにした。やけどを負った後、いくら修復を試みても、傷跡が残る可能性もある。トラブルになってからでは取り返しが付かない。

 肌の露出が増える夏場は、脱毛トラブルが増える傾向がある。大阪府警生活環境課では、「夏のキャンペーンやイベントでの脱毛利用者の増加も予想される中で、一般の方々もトラブルの可能性には十分に気を付けてほしい」と注意を喚起している。

参考文献

やけど(熱傷)(日本創傷外科学会)
https://www.jsswc.or.jp/general/yakedo.html

医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6731&dataType=1&pageNo=1

【本文】令和5年版 消費者白書
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/

成人年齢18歳に、10代の脱毛エステや医療のトラブル相談が急増
https://biyouhifuko.com/news/japan/1696/

脱毛サロン倒産急増、予約トラブルなど影響、帝国データバンク
https://biyouhifuko.com/news/japan/860/

ウルフクリニック「経営関与の会社」破産へ、美容医療の信頼性に懸念抱かせかねない問題
https://biyouhifuko.com/news/japan/2002/

男性医療脱毛ウルフクリニック突然閉鎖も根は共通か、診療所の倒産が過去30年で最多、東京商工リサーチ調査
https://biyouhifuko.com/news/japan/1536/

医療脱毛クリニック突然閉院、SNSで嘆きの声、相談窓口の設置も
https://biyouhifuko.com/news/japan/1123/

男性専門医療脱毛ウルフクリニック閉鎖で、救済の動きが広がる
https://biyouhifuko.com/news/japan/1330/

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ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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